前々回から、自宅のテレビをスマートテレビ化する話をしている。前々回は、HDDレコーダーなどで録画したテレビ番組や映画を観たり、「もっとTV」などの見逃し系VOD(ビデオオンデマンド)サービスを利用したりするテーマで話を進めた。前回は、映画などのアーカイブ系VODサービスについて述べた。

スマートテレビというのは、おそらく録画ではなく、こういったVODサービスが中心になっていくのだろう。しかし、日本にはレンタルビデオという独特のサービスがあり、このレンタルもスマートテレビ化に対応しようとしている。今回は、宅配レンタルサービスを紹介してみたい。

宅配レンタルの基本的なパターンは、観たい映画などをネットを利用して予約すると、そのDVDが宅配便で送られてくるというものだ。それを自宅のDVDプレーヤーで楽しみ、観賞し終わったら宅配便で返送する。返送先の宛名が最初から印刷された専用封筒が用意されており、観賞し終わったDVDをコンビニから発送したり郵便ポストに投函したりするだけで良いのだ。送料は月額料金に含まれているので、別途支払う必要はない。一般的な店舗でのレンタルに比べると、いちいち借りに行ったり返却しに行く手間が掛からないというメリットがある。

もうひとつの大きなメリットが、延滞料が不要だということだ。これは心理的にとても助かる。理屈上は、借りたDVDを半永久的に持っていてもかまわないのだ。しかし、もちろんそこはうまい仕組みになっている。

一般的に多くの人が加入するのが、月8枚までレンタルできるコースだ。この場合、月額2千円から3千円弱の料金のところがほとんどだ。しかし、一気に8枚借りられるわけではない。これもサービスによって若干異なるが、多くの場合は一度に借りられるのが2枚という制限がある。つまり、手元にある2枚を返さないと、次の2枚が借りられない仕組みになっているのだ。このようにきちんと返却すれば、月に8枚まで借りられる。

このような宅配レンタルに向くのは、週末に映画を楽しむ人だ。映画も最新作というのではなく、旧作や名作を週末にのんびり観たいという人。2枚予約して木曜日辺りに自宅に郵送されてくれば、これを金曜日の夜や週末に観て、月曜日にポストなどに投函して返却する。返却は平均して2日程度で処理され、次の貸し出し分が1日から2日で自宅に到着する。つまり、木曜日か金曜日には次の2枚が届くというわけだ。こうして、毎週末2枚ずつ映画を楽しめるサイクルとなる。

やや問題なのは、人気作については在庫切れが起こりがちということだ。予約をしても、在庫切れの際は次の予約リストのDVDが送られてくる。人気作はなかなか送られてこない。また、VODサービスとは違って、観たいと思ったときにすぐに観られるわけではないという点についても、デメリットに感じる人もいるだろう。予約をして在庫があっても、宅配なので到着までに最短でも1日、場所によっては3日掛かることもある。また、海外ドラマを一気に1話から24話まで徹夜で観たいと思っても、借りられるのは2枚までだから、4話分までしか一度に観ることができないわけだ(1枚に2話収録されている場合)。そういうわけで、週末にじっくりと質の高い映画を楽しみたい人にオススメのサービスと言えるのである。

品揃え 月額料金 配送スピード(配送拠点数) VODサービス
ツタヤ ディスカス 1,958円 ◎(2) TSUTAYA TV(有料)
DMM.com △(男性向けが豊富) 1,890円 あり(無料)
ゲオ(GEO) 1,983円 ○(1.5) なし
ぽすれん 1,953円 ○(1.5) なし
楽天レンタル 2,400円 なし
各社の宅配レンタルサービスの比較をしてみた。価格はすべて月に8枚借りられるコース(各サービスとも月8枚コースが最も人気がある)。また配送拠点は、1カ所のところ、1.5カ所(発送1カ所、返却2カ所)、2カ所のところがある。1カ所のところでは関東に置かれることが多く、西日本の関西地区以西の場所では、発送・返却ともに2日以上かかってしまうことがある。現状では、サービスの内容はツタヤディスカスが一歩リードしている印象だが、品揃えの内容(男性やマニア向け)で勝負するDMM.com、価格で対抗するゲオ(月4枚コースは945円と最安値)など各サービスとも特色を出そうとしている

このような宅配レンタルでも特に注目すべきは、最大手の「ツタヤディスカス」だ。ツタヤは、VODサービスである「TSUTAYA TV」も運営して、こちらは1本400円前後を払えば対応テレビからネット経由でレンタル視聴できる。このVODサービスと宅配レンタルを組み合せたサービスも用意されている。これは月につき8本まで、TSUTAYA TVでも宅配レンタルのディスカスでも利用できるというサービスだ。月額2,940円のサービスなので、1本あたり367.5円ということになる。

このサービスに加入すると、TSUTAYA TVのVODサービスを月に8本まで利用することができる。VODサービスなので、観たいときにすぐに視聴できる。在庫切れということは起こらない。もし、VODサービスにはない映画を観たい場合は、宅配レンタルを利用することもできる。つまり、VODと宅配レンタルを合計8本まで利用できるのだ。すぐに観られるVODの長所と、品揃えが多い宅配レンタルの長所を融合させた上手なサービスだと思う。

現在、他にもさまざまなVODサービスが始まっているが、最大の問題は品揃えに限界があるという点だ。ときどき「●●万本の品揃え!」などと宣伝をしているVODサービスもあるが、よく確認してみると映画の予告編やプロモーション映像なども合計した数であって、いわゆる映画や連続ドラマというメインコンテンツの数はたいしたことがなかったりする。VODはまだまだ著作権処理の問題を抱えているうえに、VODにコンテンツを供給するタイミングが早すぎると、DVDやBDの販売に影響が出てしまうのでは……と権利者が懸念しているところもある。また、VODサービスはコンテンツ数や会員数が増えてくると、サーバーや回線などのインフラを増強する必要も生じる。このような問題は時間とともに解決されていくだろうが、レンタル店と同じぐらいの品揃えになるまでにはまだまだ時間が掛かるだろう。品揃えという点では、まだまだレンタルDVDに軍配があがるのだ。

ツタヤディスカスのような宅配レンタルとVODのハイブリッドサービスは今後、スマートテレビへ向けて大きなキーサービスとなっていくだろう。今までレンタル店に通っていた人が、いきなりVODサービスにのみ切り替えるというのはいろいろな戸惑いもあるだろうし、不満も出てくるだろう。結局、レンタル店にも行き、VODサービスも利用するという二重投資のようなことになってしまい、娯楽映像に支払う総額が以前よりも膨らんでしまうかもしれない。これは業界にとって、目先は良いかもしれないが、数年後に激しい価格競争が起こり、勝ち組1社をのぞいて全員が共倒れするという悲惨な事態への下地を作ってしまうことになる。

そこへいくと、この宅配とVODのハイブリッドサービスは、消費者が従来の習慣をあまり変えずに、ゆるやかにVODサービスやスマートテレビへと移行できる。「自前でスマートテレビを作る」というテーマで話をしておきながら、結論が「宅配レンタル」というのはいささか拍子抜けされるかもしれないが、現実にはこのようなハイブリッドサービスを利用するのが、いちばんストレスもなく、リーズナブルな料金で楽しめる解決策なのではないだろうか。現在使っているテレビを買い替える頃には、本格的なスマートテレビも登場しているだろう。そのときに、ハイブリッドサービスから本格的なVODサービスに乗り換えても、決して遅くはない。趣味・娯楽の世界では、何も最先端を走る必要はないのだ。

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