前々回のコラムで、地デジのデータ放送を活かして震災の安否情報を流したことはなかったのではないかと書いたところ、多くの方から「NHKのデータ放送で行われていた」というご指摘をいただいた。これについてお詫びするとともに、多くの方から情報提供をいただいたことに感謝いたします。今後とも、間違っている点、あるいは意見を異にする点があったら、お気軽にメールをいただきたいと思います。

さて、いよいよ、アナログ停波まで3ヶ月をきった。もはやカウントダウンの段階に入っている。地デジの世帯普及率は3カ月ごとに総務省が調査を行っているが、最新の調査(昨年12月)では、94.9%となっている。特に変化が見られたのが、地域格差が大きく縮小したことだ。前々回の調査(昨年9月)までは、沖縄県の地デジ普及率が低く、78.9%で、もっとも普及率が高い新潟県の95.1%との差が16.2ポイントもあった。しかし、前回の調査では、沖縄県も88.9%となり、もっとも高い三重県97.8%との差は8.9ポイントとほぼ半減した。

もちろん、震災以降の調査がでていないので、どのような影響があるかはまだわからない。多くの人がテレビどころではないと考えて、地デジの普及が伸び悩むとも考えられるし、一方で震災情報、原発事故情報を見るのにやっぱりテレビは有用だと考えて、積極的に地デジへの買い替えが進んでいるのかもしれない。とくに、緊急地震速報が意外に役に立つことは、今回の震災で多くの人が実感していることだろう。

そこで、今回は、これから地デジテレビを購入する人、あるいは2台目テレビを購入する予定の方に向けて、基本に立ち返り「失敗しないテレビの選び方」を紹介してみたい。といっても、いいたいことはひとつ。「カタログスペックではなく、自分の目を信用する」ということだ。

今、販売されている液晶テレビ、プラズマテレビの画質は、各社ともきわめて優秀になっていて、「画質の悪いテレビ」を探す方が難しいぐらいだ。しかし、各社のテレビ画質にはそれぞれ個性があり、あなたの好みに合うかどうかの方が問題なのだ。好みの問題はカタログスペックでは表すことはできない。

カタログスペックの中でも、多くの人が重要視するのが、「コントラスト比」と「色域」のふたつだ。しかし、ただ数値を比べるだけだと、かえって画質の悪いテレビを選んでしまうこともある。「コントラスト比」というのは「1:200万」などとカタログに書かれているもので、もっとも暗いドットともっとも明るいドットの明るさの比だ。「色域」というのは「NTSC比104%」などと書かれているもので、放送で使われている色以上の色が再現できることを表している。しかし、この数値にあまりに神経質になるのは意味がない。というのは、これはテレビの性能ではなく、液晶パネルの性能なのだ。今のテレビは、どれも映像補正回路が内蔵されている。放送された映像をそのまま再生するのではなく、コンピューターが映像を"再生成"して表示しているのだ。もちろんコントラスト比は大きいにこしたことはないが、映像のつくり方によって、人が実際に感じる鮮明感、明暗感は大きく変わってくる。色域も「放送以上の色が作りだせます」といっても、放送にはない色を作りだしてしまえば、ある意味「ウソの色合い」になってしまう。そのため、最近のテレビのカタログでは、このようなコントラスト比や色域に関して、数値ではなく、「コントラストAI」など、回路や規格の名前で表示するテレビも増えてきた。

もちろん、コントラスト比が「1:100万」のテレビと「1:800万」のテレビであれば、それは「1:800万」の方が映像は美しいだろう。しかし、「1:100万」と「1:200万」であれば、同じメーカーのテレビならともかく、他社テレビとの比較では、測定方法や映像補正回路によって、どちらの映像が美しいかは一概にいいきれない。カタログスペックはあくまでも目安であって、その数値を比較するのはあまり意味のあることではないのだ。

もうひとつ大切なのは、今のテレビの画質は「どれが美しいか」という発展途上中の技術開発競争はほぼ終わっており(一部の高級機は別だが)、すでに画質の好みで選ぶ時代に入っているということだ。たとえば、音楽番組やアニメを中心に見る人は、発色のいい色鮮やかなテレビを好むだろうし、ニュースや情報番組を中心に見る人は、目が疲れない落ちついた色合いのテレビを好むだろう。映画を中心に見る人は、深みのある色合いが再現されるテレビを選ぶかもしれない。

自分の好みに合ったテレビを選ぶための最大のポイントは、販売員に、自分がどのようなコンテンツを中心に観るのかを告げてみることだ。彼らは、毎日テレビ売場にいて、各社のテレビを比べながら目にしている。また、テレビ購入者の意見もよく聞いている。自分が見たいコンテンツを告げれば、「でしたら○○がお薦めです」というアドバイスをしてくれるだろう。私の経験からいうのだが、この販売員というプロの意見は信頼できる(販売員は自分が売りたいテレビを薦めると思っている方もいるかもしれないが、今では質の低い店舗でなければ、そういった販売側の都合による誘導はしなくなっている。やりすぎると、お客さんが逃げてしまうからだ)。

もうひとつ、どうしても自分の目で選びたいという人には、ふたつのポイントを紹介しておきたい。ひとつは「色鮮やかということに惑わされない」ということだ。テレビ売場にいくと、どのテレビも発色がとても美しくて、「最近のテレビは色がきれいだなあ」と驚くこともあると思う。しかし、これは"色を濃く表示する"ダイナミックモードに設定されているからだ。テレビには、色調整として「ダイナミック」「標準」「省エネ」(その他「シネマ」「アニメ」「ゲーム」などのモードがある機種もある)が用意されていて、売場で展示するときには、ダイナミックモードにするのが普通なのだ。

確かにダイナミックモードでは色が鮮やかに再現されるが、リビングで長時間観ると、目が疲れる感じがすることもある。また、機種によっては、あまりにダイナミックすぎて色合いがむしろおかしくなっていることもある。家庭では「標準」や「省エネ」で観ることが多いはずなので、売場での「色鮮やかさ」で購入機種を決めてしまうと、あとで後悔することもある。

では、どうやったら自然な色合いのテレビを探せるのか。できれば、普通の料理番組が放送されている時間にいって、料理番組を観てみることだ。料理番組には、野菜や肉、魚、果物といった食材が映しだされる。この食材を見て、「おいしそうに見えるかどうか」がポイントだ。どのような色合いの食物がおいしく感じるかは、個人差がものすごく大きい。あなたが「おいしそう」と感じられるテレビは、あなた好みの色合いのテレビなのだ。

テレビ売場に行ってみると、各社のテレビの色合いが意外に違っていることに気がつく。しかし、どれが「美しい」ということは難しい。テレビの画質は、もはや「好み」の領域に入っているからだ。スーパーの果物売場でおいしそうなリンゴを選り分けて買うように、テレビの画質もあなた好みのものを"選り分けて"購入を決めてはいかがだろう。

このコラムでは、地デジにまつわるみなさまの疑問を解決していきます。深刻な疑問からくだらない疑問まで、ぜひお寄せください。(なお、いただいた疑問に個々にお答えすることはできませんので、ご了承ください)。