10月16日、東京スカイツリーの高さが変更になるという発表があった。そもそもは610.58mだったが、計画を変更して634mになるというものだ。先端のアンテナを取りつける土台部分を約24m延長するという構造的には小さな変更だが、すでに土台部分の建設は始まっていて、100m以上も完成している。今ごろ、構造計算のやり直しで、建設、設計チームは大忙しだろう。なぜこんな設計変更をするのかといえば、高さ世界一を狙うためだ。
東京スカイツリーの構想は、東京に高層ビルが増えてきたことが原因。高層ビルにより、電波障害が起きる地域が増え、東京タワーでは高さが足りないということがそもそもだ。では、どのくらいの高さがあればいいのかという計算をしてみると、東京には200m級の高層ビルが建ち並ぶので、600m程度のテレビ塔がほしいと、NHKと在京民放局が要請、どうせなら世界一の高さを目指すべきだということで、当時米国シカゴで計画されていたシカゴ・スパイア(609.6m)を抜く高さということで、610.58mということに決定された。ただし、シカゴ・スパイアは2011年完成予定だったが、不況による資金難で、現在工事が中断されていて、いつ完成するか目処が立っていない。
しかし、ライバルはそれだけではない。中国の広州市に広州テレビ塔の建設が始まっていたからだ。向こうは610mと東京スカイツリーより58cm短い設計。今年末に完成すると、その時点で世界一の高さとなるが、2011年12月に東京スカイツリーが完成すると、世界一の座を明け渡すことになる。しかし、東京スカイツリーも安穏とはしていられない。その差はわずか58cmなのだから、広州テレビ塔側が設計変更をして、アンテナを1mでも伸ばせばスカイツリーは永遠に世界第2位以下になってしまうのだ。
広州テレビ塔は今年4月に、アンテナ部分をジャッキアップし、610mの高さに到達した。そして、10月に入って、ジャッキを外し、あとは外装、内装などの工事を残すのみとなった。今から高くする計画変更をするのはかなり難しい段階だ。その時期に、東京スカイツリーは634mへの延長計画を発表。これはもう、広州テレビ塔がもう伸ばせないタイミングを狙ってのラストスパートに違いない。
しかし、その東京スカイツリーも、あくまでも「現存する自立式建築物としては世界一」というタイトルしか得られない。なぜなら、ポーランドのワルシャワラジオ塔が646.38mで、世界一だったからだ。スカイツリーの634mもわずかの差で及ばない。ところが、ワルシャワラジオ塔は1991年に、補修工事中の小さなミスが原因で倒壊してしまったのだ。
では、ワルシャワラジオ塔なきあと、スカイツリーが世界一の座を維持できるかというと、それも怪しい。アラブ首長国連邦ドバイ市に建築中のブルジュ・ドバイが818mと段違いに高い。しかも、先端はテレビアンテナだが、れっきとした160階建ての高層ビルでホテルやマンション、オフィスが入居する。すでに建築物自体は完成しており、あとは入居が始まるだけとなっている。つまり、スカイツリーは「現存する自立式鉄塔としては世界一」でしかなく、建築物としては完成をしても世界第2位なのだ。
それだけではない。2014年には中国に平安国際金融センター(646m)が完成する。そして、2015年には韓国ソウル市にサンガムDMCタワー(640m)が、2016年にはクウェートにマディナ・アルハリール(1001m)が計画されている。また、現在計画中で完成時期は未定だが、サウジアラビアのジッダ市にはマイル・ハイタワー(1600m)が計画されているのだ。ここまでくると、東京スカイツリーの2.5倍の高さだ。
平安国際金融センター(646m)なら、なんとか再度計画変更して対抗できそうだが、中東の1000m以上の高層ビルには対抗しようもない。東京スカイツリーも完成して10年もすれば、世界5位くらいになってしまいそうだ。
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現在、建設は中断されているが、完成すれば北米一の高層建築になるシカゴ・スパイア。ねじりん棒のような形の高層ビルだ。http://www.chicagoarchitecture.info/より引用 |
現在建築中の広州テレビ塔。610m。上部にクレーンが見えるが、現在はすでにアンテナ部分が乗せられ、クレーンは撤去されている。もう、高さを変更することはできない。このタイミングで東京スカイツリーは延長案を発表し、世界一を狙う。公式サイトより引用 |