従業員が店内にいないという無人店舗は、中国で一気に広がって一気に廃れましたが、そうした熱狂とは別に、日本でも地道な取り組みが続けられています。そして、無人店舗という意味では、日本には世界に冠たる無人店舗網が構築されています。言わずとしれた自動販売機です。
自販機1台を1つの店舗と考えれば、日本全国津々浦々、100万店以上が設置されている、と言えなくもありません。そんな自販機ビジネスですが、最近はひとつの曲がり角に来ています。
従来の飲料自販機だけでなく、冷凍食品を売る自販機も出てきて、新たな取り組みが進められている中、自販機界の2大巨頭である日本コカ・コーラとサントリーに話を聞いてみると、お互いの戦略の違いが浮き彫りになりました。今回は、日本コカ・コーラの自販機への取り組みをご紹介しましょう。
話を聞いたのは日本コカ・コーラのコマーシャルリーダーシップ&ベンディング事業部 販売機材/プラットフォーム企画グループのシニアマネジャーである永井宏明氏です。
自販機ビジネスは曲がり角
コカ・コーラは、日本で1960年代から自販機ビジネスを展開しています。キャッシュレス対応も積極的で、すでに20年の歴史があります。
同社はNTTドコモ/伊藤忠商事とともに、iモード時代にQRコード決済の「Cmode」を展開しており(2002年より)、当時からハウスマネーのような形で電子マネー/ポイントサービスを提供していました。2014年には、コカ・コーラポイントカードもスタートしてロイヤリティプログラムを提供。当時はFeliCaカードを利用したカードでした。
こうしたキャッシュレスの拡大は成功に繋がっていたようで、それをさらに拡大するために開始したのが2016年の「Coke ON」でした。Coke ONでは購入ごとにスタンプがたまり、キャンペーンでカスタムスタンプが付与されるなどのサービスがあり、15スタンプでドリンク1本と交換できます。
Coke ON対応自販機はすでに44万台。同社の自販機全体では88万台程度とのことなので、Coke ON対応機が半分を占めており、アプリのダウンロード数も4,100万に達したそうです。2018年には、アプリで決済が完結するように「Coke ON Pay」を開始。決定的だったのがコロナ禍で、非接触での買い物ニーズが高まったことで利用が増え、Coke ONユーザーの半数以上はCoke ON Payを使っているそうです。
自販機は毎年古いものが新しいものに置き換わっており、新しい自販機はほとんどがCoke ON対応のものになると言います。毎年4~5万台が置き換わっているそうです。
とはいえ、自販機そのものは全体として縮小傾向にあり、1台あたりの売上も減っているということで、てこ入れが必要になっています。ここに対してコカ・コーラは「決済」の方面から攻めていきます。
Coke ONのサービスを拡大してハウスマネーへ
2021年4月に開始した「Coke ON Pass」は、1カ月のうち20日間に2,320円で20本、30日間に3,300円で31本までのドリンクが飲めるというサブスクリプションモデルを採用。利用頻度の向上に繋がる効果が見られたといいます。さらに「Coke ON ドリンク回数券」も提供。こちらは3枚券/5枚券/7枚券を用意し、サブスクリプションで利用するほどでもないというライトユースを想定しています。
そして2022年11月から開始したのが「Coke ON Wallet」です。この導入には「2つの観点で社内ニーズがあった」と永井氏は話します。ひとつは、自販機を小売店としてみた場合に他の小売店と比較して劣っている部分があり、それが「無人のために満足のいく接客やきめ細やかな対応で見劣りする」(永井氏)という面だったそうです。
もう1つのニーズが、「定番製品だけでなく様々な製品に対してフレキシブルで魅力的なプロモーションをしたい」というものだったといいます。
Coke ON Walletでは、チャージ式の自社マネー(ハウスマネー)と独自ポイントの2つの機能を備え、この2つの残高を「Coke ON残高」として自販機で利用できます。この独自ポイントで「小売店のおもてなし」を実現しようとしました。自社ポイントを持つ小売チェーンならばチェーンのどの店舗でもポイントが貯まるように、自販機でもポイント還元したいという考え方です。
ポイントによって、柔軟性の高いプロモーションもできるようになります。特定の製品を推進したい/トライしてもらいたいという場合は抽選型でポイントを追加付与するなども可能。自販機だけでなく、スーパーやコンビニエンスストアの製品にもポイントを懸賞で付ければ、販売チャネルを横断した設計もしやすくなると見ています。
小銭を自販機でキャッシュレス化
自販機のキャッシュレス比率は国内のキャッシュレス比率と同程度。つまり「利用者の過半数が小銭で自販機を日常利用している」(同)という現状とのことですが、キャッシュレスの進展で小銭だけでなく財布自体を持ち歩いていないという人も増え、自販機だけは小銭を使うというのでは先細りしてしまうという危機感があるようです。こういった背景もあって、デジタル化を進めたいというのがコカ・コーラの方針です。
「徐々にデジタル化するための1つのアイデア」として生まれたのが、購入時には現金でもお釣りだけはデジタル化する、という「つり銭チャージ」です。これは、お釣りを現金で返すのではなく、Coke ON Walletの電子マネーとしてチャージするというもの。
加えて「自販機チャージ」の機能も追加。自販機に小銭を投入して残高チャージをするというもので、この2つのチャージによって釣り銭も財布の中の小銭もデジタルに変換できるようになります。
全国の自販機が釣り銭として排出している小銭は膨大になりますが、その大半は自販機以外で使われていると永井氏は言います。その流れをCoke ONに還流させるというのが今回の施策の狙いで、これによって利用者にとっては小銭の削減、自販機にとっては利用の拡大というWin-Winの関係を目指します。「難しい営みなので時間がかかる」と永井氏は認めつつ、利用者にとっては利便性の拡大や、小銭チャージにプレミアを付けることによって拡大を図ります。
コンビニなどの店頭で現金を電子マネーにチャージするような感覚で、自販機でチャージできるというのはなかなか便利な機能でしょう。もちろん、基本的には自販機での利用を想定した電子マネーなので、頻繁に自販機を利用する人がターゲットです。
自販機を次のビジネスへ
「自販機は主戦場の1つ」と言う永井氏。その主戦場で、「小銭の次のビジネス」を狙うのが同社です。キャッシュレスが100%になるというのは非現実的ですが、それでも拡大するキャッシュレス需要に対して、自販機の対応として新たな方向性を示しています。
すでにCoke ON対応自販機が半数を超え、Coke ONアプリも4000万以上のダウンロードとなりました。永井氏は、この2つを組み合わせることで様々なアイデアが実現できると意気込みます。
Coke ON Walletにおける電子マネーとポイントによるロイヤリティプログラムやキャンペーンを組み合わせることで利用を拡大したい考えです。これは、米StarbucksやWal-Martが成功例だとして、モデルケースとして考えているそうです。
キャッシュレス比率が高まると、決済手数料の問題も出てきます。この点については永井氏は「バランスの問題」と指摘。すべての決済が外部のキャッシュレス決済になると手数料比率は高くなりますが、Coke ON Walletという自社発行の電子マネーがあることで、バランスが取りやすくなるとしています。「言い換えれば、ハウスマネーという選択肢がないと、キャッシュレス化を100%に近づけることはできません」と永井氏は話します。
コカ・コーラは、自販機においてキャッシュレス化とポイントなどのロイヤリティプログラムによって自販機利用の底上げを図る考えです。
次回は、業界2位のサントリーの自販機戦略を見てみたいと思います。