マイナンバーカードには様々な機能・役割があり、活用できれば便利になる反面、それが利用できる人ばかりではないというのが難しいところ。

スマートフォンが使える人ならばすぐに使いこなせるでしょうが、それだけではカバーしきれない人もいます。そんな人に対して機能を制限したマイナンバーカードを発行しようという動きが出てきています。7月4日に松本剛明総務大臣が会見で表明したもので、現時点で分かっていることをまとめてみました。

  • マイナンバーカードの裏面のイメージ

    マイナンバーカードの裏面のイメージ。ここにICチップを搭載しています

いわゆる“マイナ保険証”とは

マイナンバーカードは、公式な本人確認書類であり、「誰でも無償で発行できる公的な身分証明書」としては国内唯一です。運転免許証は教習所に通ったり試験を受けたりする時間と費用が必要で、パスポートは住所表記がない上にこれも一定の費用がかかります。健康保険証は写真がないので一部では本人確認書類として認められません。

もう1つのマイナンバーカードの機能として、ICチップに保管された電子証明書を活用した、オンラインの本人確認という機能もあります。これを活用することで、オンラインでも高い確度の身元確認と当人認証ができます。

これを生かして、マイナポータルにログインして行政手続きをオンラインから行ったり、コンビニエンスストアで住民票の写しを発行したりと、一部で行政の効率化が実現できています。

その一環として実施されるのが健康保険証との一体化です。これは、医療DXの一環として実施される「オンライン資格確認」と組み合わせ、保険証資格の即時確認と、その患者に紐付いた薬剤情報などをオンラインからダウンロードし、医者や薬剤師などが確認できるようなサービスを実現しています。

  • オンライン資格確認の概要

    オンライン資格確認は医療機関などの窓口で保険の資格を即座に確認できるシステムです

オンライン資格確認とは、窓口で保険証を提出したときに、その人が本当に資格を持っているかどうかを即時確認する機能です。期限が切れていたり、転職前の保険証だったり、他人の保険証だったりと、資格がない保険証を提出している例は数多くあるようです。この場合、保険診療は行われるものの、支払基金や国保中央会にレセプトを提出しても資格がないとして戻ってきてしまいます(返戻)。診療報酬の受け取りが遅れるなど医療機関の経営に負担がかかりますし、事務作業も増えます。

  • オンライン資格確認のメリット

    レセプトの返戻は想像以上に多く、年間数十万件の返戻を削減できるのがオンライン資格確認と見込まれています

オンライン資格確認だと、その場で資格の有無が判明するので、資格の問題での返戻が発生しなくなります。また、マイナンバーカードを使えば最新の保険資格情報が取得されるため、記入間違いもなくなり、その場合の返戻もなくなって手間が削減できます。

またマイナンバーカードでは、患者が同意した場合に、支払基金・国保中央会に保管された診療・薬剤情報などを医療機関・薬局で閲覧できる機能もあります。これは初診時などに過去の患者の情報が分かるため、無駄な診療、薬剤の投与などがなくなり、安全性や効率性が向上すると期待されています。

  • 入力の手間削減

    医療機関のシステムに入力する手間も省けます

  • 診療/薬剤情報の閲覧

    診療/薬剤などの情報を医師などが閲覧できます

患者側からはあまりメリットが見えにくいのですが、特に初診患者が多い大病院など、事務作業の軽減や医療情報の確認はメリットが大きいでしょう。従来の健康保険証も患者側に直接のデメリットがあるわけではありませんが、医療機関における返戻などのコスト、不正利用による医療費の無駄遣いといった負担を減らせる点は考慮すべきでしょう。

患者側にとっては他に、医療情報を提供できることで正確な情報共有ができて医者との意思疎通がしやすくなることも期待できるかもしれません。

暗証番号なしマイナンバーカードの背景

このように、うまく稼働すれば効果的な仕組みになりえるのがオンライン資格確認と情報提供機能なのですが、マイナンバーカードでオンライン資格確認をするには、暗証番号が必要になります。

  • マイナンバーカード対応のリーダー

    マイナンバーカードに対応したパナソニックのリーダー。これは自治体向けの別システム用のリーダーですが、ハードウェア自体は医療機関で使われているものと同じです

正確には「顔認証」または「暗証番号」が必要となっているのですが、健康保険証利用をするためには電子証明書が必須で、そのためマイナンバーカード交付の際に、「4ケタの暗証番号」と「8~16ケタのパスワード」の最低2種類を設定する必要があります。

  • 顔認証の様子

    底部にマイナンバーカードを挿入して、顔認証をするだけ。IRカメラなどを組み合わせて顔認識を行っています

医療機関でオンライン資格確認をする場合、リーダーにマイナンバーカードを置いて、「顔認証」または「暗証番号」を選びます。ここで暗証番号を選ぶと、交付時に設定した4ケタの暗証番号を入力しなければなりません。

一部で問題視されていたのが、この暗証番号の入力です。特に福祉施設で認知症患者をケアしている場合など、これまでは従来型の健康保険証を一括管理して対応していました。それが、マイナンバーカードの健康保険証利用の場合は、マイナンバーカードとその暗証番号を施設側で預かることになりますが、暗証番号の管理まで行っていいのか、という声が根強くありました。

基本的には「顔認証を使う」ことで問題は解決できるのですが、交付の段階で暗証番号を設定できないという人が課題として残ります。その場合、マイナンバーカードに電子証明書を保管しない設定にすれば、これまでも暗証番号を設定する必要はありませんでした。ただし、その場合は健康保険証としての利用もできなくなります。

そこで総務省が新たに検討を開始したのが、「電子証明書利用を顔認証に限定することで暗証番号を不要にする」というマイナンバーカードです。ポイントは、「電子証明書をICチップに保管しつつ交付時に暗証番号を設定しない」という点です。マイナンバーカードの代理申請・交付の際にも、暗証番号を代理人が管理する必要がなくなります。

暗証番号が利用できないため、電子証明書を使ったマイナポータル、コンビニ交付サービスなどのサービスは全て使えません。しかし健康保険証利用だけは、もともと暗証番号代わりに顔認証で電子証明書を利用できるようになっています(現時点では、国保中央会と支払基金だけが利用できる仕組みなので、あくまで健康保険証利用のための特例です)。結果として、暗証番号を利用できないようにしつつ、マイナンバーカードの電子証明書を顔認証で取り出し、健康保険証としての利用だけはできるということになります。

この形でも、オンライン資格確認と同意の上での診療・薬剤情報などの提供が行えるようになるため、自分で過去の診療情報などを説明できない患者でも、医者が情報を確認できるメリットもありそうです。

実際の保険証利用時のフローは変わりません。マイナンバーカードをリーダーに置き、顔認証を選択します。顔認証自体は即時完了し、受付側のコンピュータに保険証情報が表示されています。

顔認証に失敗した場合は、暗証番号が存在しないため、目視確認モードを使うことになるでしょう。その場合、無人での受付対応はできないので、事務員などが対応することになります。目視確認モードだと、事務員などが券面記載の顔写真と本人の顔を目視で確認し、本人だと確認できたらマイナンバーカードをリーダーにおいて読み込みを実行して、オンライン資格確認を行います。

ちなみに交付時に暗証番号を設定していた場合は、顔認証失敗で暗証番号入力になります。暗証番号入力を3回連続で間違えるとカード利用にロックがかかってしまいますので、暗証番号を覚えていない場合は、あやふやで自信がない場合も含めて、受付に声をかけて目視確認モードに切り替えてもらうといいでしょう。

このように、暗証番号を設定したからといって、健康保険証利用では必ずしも暗証番号を使う必要はなく、普段は顔認証でOKです。何度か使えば慣れるので、今後、医療機関での診察時に毎回保険証の提示が必須になれば、多くの人は使えるようになるでしょう。

福祉施設などでそれが難しい環境において、現在でも顔認証と目視確認だけを利用するようにすれば暗証番号を管理しない運用は可能ですが、交付時に暗証番号を作成できない場合などに顔認証のみのマイナンバーカードというのはメリットがありそうです。オンライン資格確認は、患者側だけのメリットで導入しようとしているものではないので、国としても推進したいところなのでしょう。

暗証番号が設定されておらず、オフラインの本人確認書類と健康保険証としてしか利用できないとしても、マイナンバーと健康保険証情報は紐付けられていますし、マイナンバーを活用した自治体間の情報連携なども行われます。単に、カードを持っていてもそういったデータの確認やサービスの利用ができなくなるだけです。

そういった人にこそマイナンバーカードの保険証利用が必要なのか、それともこれまで通りの従来型の保険証をごく一部の例外として残した方がコスト的にも課題解決としてもメリットがあるのかという点は、判断が難しいところです。

ただ、高齢者といっても、なんでもかんでも高齢者をデジタルから遠ざけて使えないままにすることが良いこととも思えません。福祉施設など一部の環境で、今回のような暗証番号なしのマイナンバーカードは活用できるかもしれません。

総務省では、11月をめどに暗証番号なしのカードをどのような人に交付するか検討するとしています。健康保険証との一体化を推進するならば、こうした例外は必要となるのでしょうが、どの程度の範囲まで広げるかは注視する必要がありそうです。