政府のデジタル市場競争会議が、スマートフォンにおけるいわゆるサイドローディング、外部アプリストアに開放すべしという議論など、複数の論点をまとめた「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」を6月16日に公表しました(マイナビニュース解説記事)。

Appleが猛烈な巻き返しを図っているようですが、私としては、Appleにも開放すべき点があると考えています。

  • モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告

    多方面の議論をまとめた「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」

一番の課題は何か

最終報告では、「アプリストア関係」として「決済・課金システムの利用義務付け」の項目を用意しています。メディアではアプリストアをサードパーティにも開放する、いわゆるサイドローディング問題が取り上げられることが多いのですが、実はアプリストア関係で最初に出てくるのが、この決済システムの義務づけに関する内容です。

これはAppleで言えばApp Store、Googleで言えばGoogle Playで利用できる決済が、それぞれの決済・課金システムに限られている、という問題です。特にApp Store以外のアプリ配信を許可していないAppleでは、これを利用するしか決済手段がありません。

App Storeが安全性に関して力を入れているのは分かります。ストアを管理するための費用がかかっているため、30%または15%の手数料が妥当かどうかはまた別の問題としても、一定の手数料が必要なのも理解できます。

ただ、アプリストアの管理/運営において決済手段が必須かと言われると疑問を感じます。特にアプリ自体が商品である場合と、アプリで視聴するコンテンツが商品である場合で意味合いが異なってくるはずです。

アプリで視聴するコンテンツは、映画などの動画、音楽、電子書籍といったものです。これらの商品は、アプリストアではなく、NetflixやAmazonなどの動画配信、Kindleやhonto、各出版社などの事業者が提供しています。アプリストア側は、こうしたコンテンツになんら貢献していません。

最終報告においてAppleは、アプリ内課金を回避するやり方を「フリーライド」と主張していますが、コンテンツ制作・管理にコストを支払っていないのに、アプリ内課金で手数料を強制しているのはプラットフォーマーです。最終報告でも、「(コンテンツの購入において)アプリストア運営者の貢献は少ない」とありますが、それにもかかわらず手数料を徴収しているわけです。

  • Appleの主張

    Appleは「フリーライドを防止する」という理由を述べていますが、この場合のアプリ内課金(IAP)の迂回がフリーライドと言えるのかは疑問です

  • 最終報告の概要の、アプリストア関係についてのページ

    最終報告でも、「コンテンツの購入にアプリストア運営者の貢献は少ない」と指摘されています

各コンテンツプロバイダーは、自社の責任でコンテンツ配信をしていますし、決済環境も用意している場合が多いでしょう。もちろん、決済手段をプラットフォーマーが用意するからこそ手軽にコンテンツ販売に取り組めるというコンテンツプロバイダーもあるでしょう。そういった場面ではプラットフォーマーがきちんと一般の決済代行業者などと競争すればいいだけです。30%なり15%の手数料でも妥当だと判断されれば、コンテンツプロバイダーがストアの決済を利用し続けるでしょう。

現状ではそうした競争がないため、電子書籍アプリやサブスクリプション型アプリでは、自社Webサイトで加入やコンテンツ購入をさせて、アプリはリーダーとしてのみ使う方法を使っています。アプリ内課金の回避にあたるとしてアプリ内で加入・購入の導線への誘導ができないため、わざわざ使いにくいやり方でWebサイトに誘導しているアプリもあります。

そういった形であっても外部からダウンロードできるコンテンツはいいのですが、ストリーミング型でコンテンツを配信するアプリの場合、コンテンツ内容も審査の対象になります。漫画アプリで一部が黒塗りになっている例などがそれに当たりますが、そもそもアプリの審査を通らないコンテンツもあるでしょう。こういった審査は、代替手段のない状態で健全とは思えません。

日本で特にシェアが高いAppleは、安全性の高さをアピールして代替手段がないことを正当化していますが、それは自らインフラであるという宣言をしているのと同意です。であるならば、表現の範囲を決めるのは一民間企業であるプラットフォーマーではありません。

同様のことは、クレジットカード会社なり国際ブランドなりの決済プラットフォームにも言えます。表現の自由は国の憲法が保障した権利であり、その国の法に反しない限り、インフラであればこそ軽々に踏み込むべき領域ではないと考えます。

私としては、「アプリ配信」においてプラットフォーマーがアプリストアを開放すべきとは考えていません。自由競争では、もはや現状を変えることは難しいでしょう。携帯キャリアを相手にするように政治的に強制することが正しいかといわれると、それも難しいところです。

  • アプリストアの代替について

    アプリストアの代替に関する議論。単に手数料の問題だけを取り上げても難しいように思えます

ただ、リーダーアプリで表示する音楽や映画、書籍などのコンテンツに関して、プラットフォーマーがコンテンツに貢献していない以上、決済を強制する理由がないという立場です。

同様に、プラットフォーマーはコンテンツ内容に踏み込むべきではないと考えていますし、それはプラットフォーマーがインフラであるからこそです。通信事業者が通信の秘密を侵してはならないように、プラットフォーマー(決済プラットフォーマーも含みます)がコンテンツにおける表現の自由を侵してはならない、というのが私の考えです。

決済の自由化は、NFCの開放にも繋がります。特にAppleがこれを開放していないことから、Apple Payでの決済機能しか利用できません。こうした点でも、Appleが譲歩すべき余地はあるでしょう。

  • NFCの開放について

    NFCの開放についても議論が取りまとめられています

「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」は、網羅的かつ総花的な内容です。現実的ではないとも言えるかもしれません。この中から、それぞれ妥協点を探っていくことになるでしょう。つまり、これ以降の議論が本番になるものと思われます。