スウェーデンのクルマメーカーVolvo(ボルボ) Carsが、2019年以降に発売するクルマは、プラグインハイブリッドとマイルドハイブリッド、電気自動車(EV)だけを生産し、内燃エンジン車の生産は中止すると発表した。これまで設計製造してきたガソリン車とディーゼル車という2つの内燃エンジン車の生産を中止する。これまで実績のある大手クルマメーカーが内燃エンジンを捨てるという決断をしたのは、Volvoが初めて。

Volvoは北欧という寒さの厳しい国で自動車を生産してきたが、かつては石炭が空気を汚し街並みの価値を下げていた。欧州の中でも特に北欧は、環境に対する意識が高い。EU(欧州連合)は再利用できる廃棄物の保存を規制により禁止しているが、スウェーデンではこの規制が導入される前から国内で規制を設けていたという1)

クルマ産業も環境への意識は高いが、いきなり完全な電気自動車(EV)だけを生産する訳にはいかない。コストやテクノロジーなどがユーザーの意識と必ずしも一致しないからだ。環境にやさしいことは歓迎するがコストが上がっては困る、という訳だ。そこで、EV車の他に、内燃エンジンとモータの2つを持ち合わせるハイブリッド車も生産する。ただし、純粋な内燃エンジンのみのクルマは生産しない、という訳だ。ハイブリッド車は、48V系を使い始動時のモータで内燃エンジンをアシストし、ブレーキ時に回生ブレーキによりバッテリに充電するというマイルドハイブリッドと、モータ動力を主体とするプラグインハイブリッドを生産する。

きれいな空気を都市にもたらす

図1 Volvo Cars社長兼CEOのHankan Samuelsson氏 (出典:Volvo Cars)

同社社長兼CEOのHankan Samuelsson氏(図1)は、「時期を明言しクルマをすべて電動化すると宣言したのは大手クルマメーカーでVolvoが初めて。これによりCO2削減ときれいな空気を都市にもたらす。当社の取締役会で議論した結果、電動化に自信を持てたため、これを宣言(コミットメント)した」とビデオ2)で語っている。

同社は2025年までには100万台のEVないしプラグインハイブリッド車を生産するという。プラグインハイブリッドは、モータと内燃エンジンの両方を使うが、プラグインハイブリッドのデザイン(図2)では、拡張性の高いモジュラアーキテクチャで設計するため、全電動化(図3)へはスムーズに移行しやすいとしている。

図2 モジュラ方式のプラグインハイブリッド (出典:Volvo Cars)

図3 モジュラ方式の電気自動車 (出典:Volvo Cars) 業務フロー作成画面

またマイルドハイブリッド(図4)で使われる48V系の回生ブレーキのシステムでは、電圧を上げることによって、電線を細くできるため、ケーブルを軽量化しやすい。また、モータを利用する場合も12V系よりはパワーを大きくできる。モータは駆動力にも発電機にもなり、特に回生ブレーキはバッテリに電気(正確には電荷)を貯めることができる。

図4 48Vシステムのマイルドハイブリッド (出典:Volvo Cars)

また、フランス政府は、2040年までに内燃エンジンのクルマを禁止すると発表した3)。電動化の動きはもはや止められなくなっている。フランスは、ドイツと比べ、電動化はむしろ遅れてきたが、政府としてコミットした背景には、米国トランプ大統領による2015年のパリ協定離脱、という動きがある。特に、フランスのマクロン大統領は、トランプ大統領の「米国を再び偉大な国に(Makes America Great Again)」というメッセージに対して、「地球を再び偉大な惑星に(Makes Planet Great Again)」と皮肉っている。

環境問題解決で競争力をつける

これまでのテクノロジーの歴史を見ていると、かつての米国が排ガス規制案(マスキー法)を自動車メーカーに押し付けたものの、保守的な米国の自動車メーカーはこの法案に反対し、困難であることを訴え続けたが、日本のホンダやマツダ、トヨタなどがこの規制をクリアした。困難ながらも規制を達成した日本車は、排ガスを減らすことと燃費を改善することとはほとんど同じことに通じるため、燃費の良さや品質の高さから、米国でシェアを大きく伸ばした。

電気自動車を低コストでガソリン車並みの航続距離を達成する困難もマスキー法をクリアしたことと似たようなものだ。つまり困難と思える課題を克服することで、企業はライバルに大きく差をつけることができる。ある意味で、チャンスでもある。

現実に、電池そのものの寿命や低コスト化、高エネルギー密度だけではなく、バッテリ制御回路でも安全を確保したうえで、なおかつマージンを減らし、航続距離を延ばすテクノロジーも開発されている。電池の航続距離の短さがEVの欠点であったが、その問題解決は時間の問題となってきた。電動化は間違いなく進む。

特に欧州は電動化を進めているため、日欧が世界をリードすることになり、米国は日欧から遅れることになる。トランプ大統領によるパリ協定の離脱を受けて、米国のEVカーメーカーTesla MotorsのCEOであるElon Musk(イーロン・マスク)氏は大統領の諮問委員を抜けた。

Teslaは米国政府の意向に反することになるだろうが、電動化を進めることで日本と欧州との競争で揉まれながら、成長路線をひた走ることになる。Teslaの決算はまだ赤字が続いているものの、株価は上昇し続け、同社の時価総額は、GM(General Motors)も抜くほどになっている。

参考資料

  1. 末岡洋子「環境先進国・スウェーデンからのメッセージ その1:ストックホルムの場合」、マイナビニュース、(2009/03/02)
  2. Volvo Cars to Go All Electric、Volvo Carsのホームページ(2017/07/05)
  3. 例えば、The Telegraph紙「France to ‘Ban All Petrol and Diesel Vehicles by 2040'」
    Newyork Times紙「France Plans to End Sales of Gas and Diesel Cars by 2040」CNN Tech News「France Wants to Ditch Gas, Diesel-Powered Cars by 2040」など