VP-100/200をアップグレードしたVP-400とEシリーズ
富士通は、1985年4月にVP-200の2倍の性能を持つVP-400を発表した。ピーク演算性能は1142MFlopsで、商用機としては世界で初めて1GFlopsを超えたマシンである。
VP-400はVP-100/200と同じテクノロジを使っているが、演算パイプラインを倍増して演算性能を倍増し、メインメモリの容量、Way数を倍増したマシンである。
また、富士通はVP-400と同時にピーク演算性能が142MFlopsの普及版のVP-50を発売した。
さらに、富士通は1987年7月に高速ベクタメモリとベクタパイプラインを追加したVP-30E、VP-50E、VP-100E、VP-200E、VP-400Eを発売した。このアップグレードで、VP-400Eのベクタ演算パイプラインは6本となり、ピーク演算性能は1700MFlopsに向上した。
野辺山の超高速フーリエ変換・相関スパコンFX
話が少し横にそれるが、富士通は1983年にFXという超高速のフーリエ変換・相関計算を行う装置を開発している。FXは、現在は国立天文台となっている野辺山電波天文台の近田義廣先生が考案した宇宙からのミリ波受信信号を処理するための専用装置である。なお、近田先生は重力多体運動を解析するGRAPEという専用装置のアイデアを出されたことでも有名である。なお、このGRAPE LSIの開発は理研で現在も続けられている。
野辺山天文台には5台の直径10mのパラボラアンテナがあり、これらで受信した信号をリアルタイムでフーリエ変換して周波数コンポーネントに分解し、アンテナ間で相関を取ることにより、開口合成と同じ原理で口径600mのアンテナと同等の分解能を得るというシステムである。なお、これらの5台のパラボラアンテナは、観測に適した位置に移動することができるようになっていた。
このシステムはフーリエ変換を行う5本(実際は45mの固定式のパラボラアンテナを接続するもう1本のパイプラインも持っていた。)のFパイプラインと、それらの間の相関や自己相関を計算する15本の相関計算のXパイプラインをもっている。
元々、アンテナから得られる信号はノイズの塊であり、精度の高い計算を行うのは意味がないので、計算は整数で行われ精度は6~8ビットであるが、100GOp/sと当時のスパコンと比べても2桁程度高い演算性能を誇っていた。
多数の演算器などを作る必要があるため、富士通の2000ゲートのC-2000と3900ゲートのC-3900という当時としては高集積度のCMOS LSIが用いられ、装置全体では、これらのLSIが約3700個使用されている。
これらのLSIのゲートの遅延時間は5~15nsであるが、ゲートの通過段数を抑えて、10MHz(100ns)のクロックで動作させていた。
この装置は1台しか作られなかったが、同じ原理のフーリエ変換・相関器はチリのアタカマ高地に作られたALMA電波望遠鏡の日本が担当したAtacama Compact Arrayにも使われている。
なお、このFXの開発、製造にあたって、天文台から富士通がもらったお金は、部品代程度で、エンジニアや工場の従業員などはタダ働きであったとのことである。
(次回は6月7日の掲載予定です)