スパコンの傑作「CRAY-1」

CDCを去ったCrayは、CDCのChippewaラボの近くに、Cray Research社を設立する。そして、「Cray-1」を開発する。Cray-1は図1.34のような特異な形状で、特に下の張り出した部分が皮張りの椅子になっており、世界一高価な椅子と言われた。

  • Computer History Museumに展示されているCray-1

    図1.34 Computer History Museumに展示されているCray-1 (筆者撮影)

Cray-1は、STAR-100と同様にベクトル処理で性能を上げるというマシンである。しかし、STAR-100が、メモリ-メモリの演算を行うのに対して、CRAY-1はハードウェアで扱えるベクトル長を64に限定して、8個のベクトルレジスタを持つアーキテクチャとした。

メモリ-メモリの演算の場合は、ベクトル長は長く取れるが、ベクトル演算が開始されるまでの立ち上がり時間が長い。このため、ベクトル長が短くなると性能が出ない。また、メモリ-メモリ演算の場合、演算結果がメモリに書き込まれるので、そのベクトルを次の演算に使用する場合は、再度、メモリから読んでくる必要がでる。これに対して、演算結果をベクトルレジスタに書き込む方式では、そのベクトルはメモリではなく、ベクトルレジスタから読めば良いので高速に次の演算を開始できる。なお、Cray-1はベクトル演算の結果を直接、次の演算パイプラインに供給するチェイニングという処理方法があり、これをやると、1サイクルに3演算程度の計算を行うことができた。

Cray-1が高性能なもう1つの理由が、12.5nsという高速のクロックである。CDC 8600の目標であった8nsには届かないが、CDC 7600の27.5nsの2倍以上のクロックを実現している。そして、最大1M語(1語は64bit+8チェックbit)のメインメモリは、バイポーラLSIで作られ、50nsのサイクルタイムでアクセスすることができた。

また、配線遅延を小さくするため、C形にキャビネットを配置し、中央には大量の配線があるが、人ひとりが入るだけのスペースしかないという作りになっている。

(次回は6月8日に掲載します)