飛行機にもタイヤが付いているし、回転するタイヤの動きを止めて制動するためにブレーキも必要になる。今回は、そのタイヤとブレーキにまつわる話をまとめてみた。

飛行機のタイヤは過酷である

ジェット機が着陸する時の速度は、250~300km/hぐらいが一般的だろうか。もちろん、機種によって違いがあり、F-117Aだと機体重量が大きい時は350km/hぐらいになるらしい。

この速度の数字だけなら、レーシングカーと比べて大きく変わるものではない。ただ、クルマのタイヤは高速で走る場合でもゼロから加速していくものだが、飛行機のタイヤは条件が違う。

厳しいのは着陸の場合で、タイヤが接地した瞬間に、ゼロからいきなり全速回転を始める。そして接地した瞬間にはドンと衝撃が加わり、(乗っているとわからないが)スモークが上がる。当然、タイヤはその分だけ早く傷む。

MD-11が設置した瞬間。場合によりけりだが、これは比較的派手にタッチダウン・スモークが発生したケース

地上の滑走路なら普通はアスファルト舗装だが、軍用輸送機だと舗装していない場所で離着陸することもある。艦上機だと空母の飛行甲板に降りるが、これはノンスキッドと呼ばれる滑り止め素材が塗られており、凸凹で、しかも堅い。空母の飛行甲板で転んだら、膝をすりむくだけでは済まず、もっとひどいけがになるのではないかというぐらいのもの。

米空母の飛行甲板と着艦拘束ワイヤ。ノンスキッドで凸凹している甲板の様子がおわかりいただけるだろうか。ここにいきなり叩き付けられるのだから、タイヤにとっても過酷だ

そこにドカンと着艦するのだから、空母艦上機のタイヤも過酷な条件にさらされている。ヘリコプターなら真っすぐ上昇あるいは下降するから、いきなり全速回転させられることはないが。

海上自衛隊のフネでもヘリ発着甲板はノンスキッドになっているが、米空母のほうが目が荒い(つまり凸凹の度が激しい)ような気がする。ただし、実測してみたわけではない。

そこで飛行機のタイヤには、クルマのタイヤでは普通は聞かない話が出てくる。それがリトレッドという作業。普通、クルマのタイヤは摩耗したら総取り喚えだが、飛行機のタイヤは接地面だけ張り替えて再利用する。それがリトレッドだ。

ブリヂストンのWebサイトによると、バイアスタイヤなら200回程度の離着陸でリトレッドを行うそうだ。約6回の繰り返しが可能なので、新品から最初のリトレッドまでの分を加えると合計1400回の離着陸が可能という計算になる。

これがラジアルタイヤの場合、リトレッド間隔は約350回、リトレッドは3回繰り返せるという。新品からの分を加えると、やはりトータルで1400回という計算になる。

このほか、飛行機が高度を上げていけば周囲の気温が下がる。脚収納室は与圧されていないから、成層圏まで上がれば外気と同じ気圧・同じ気温である。つまり、氷点下50度ぐらいの温度にさらされる可能性がある。

それだけ運用環境が過酷で、しかも安全性に対する要求も厳しいので、飛行機のタイヤは相応の技術力を持つメーカーでなければ造れない。

タイヤの数とサイズ

三車輪式の機体の場合、最も少ないのは首脚と主脚にそれぞれタイヤを1つずつで合計3個という構成。戦闘機は大抵これで済んでいる。

ところが、タイヤの数が少ないと、タイヤ1つにかかる荷重が増える。すると接地圧が上がり、滑走路にかかる負担が大きくなる。だから、接地圧を下げようとするとタイヤの数が増える。

また、タイヤの幅が小さければ、これも接地圧を高くする要素になるから、接地圧を低くするにはタイヤを太くするほうがいい。そして、タイヤの径が小さいと、滑走時の速度が同じでも回転数が上がってしまうので、タイヤにかかる負担が増える。

こうした事情があるので、機体が大きく、重くなると、一般的にタイヤは太く、大きく、多くなる傾向がある。ただ、それはもちろん重量増加につながる要素となり、タイヤが大きくなると脚収納室のスペースも大きくとらなければならないので、これがまた機体を大きくして、構造設計を面倒にする原因になる。

B-58ハスラー爆撃機は薄い主翼の中に降着装置を収納する必要があり、小径タイヤを並べる配置をとった。にもかかわらず、この機体は離着陸速度が速かったから、小さなタイヤが接地するやいなや、いきなり高速回転させられることになり、過熱に起因するバースト事故がいくつも発生したそうだ。

B-58ハスラー爆撃機。機体のサイズと比べると、タイヤ径が異様に小さい様子が見て取れる

ブレーキ

車輪の回転を止めるために、ディスクブレーキを組み込んである。大型機になると、車輪側に取り付けられた回転ディスクと車軸側に取り付けられた固定ディスクを交互に並べて、その間にブレーキライニングを挟んだ多板式ディスクブレーキになる。これをまとめてピストンで押しつけると、ブレーキライニングとディスクの間で摩擦が発生して制動力になる。

クルマにも同じことが言えるが、タイヤのサイズとブレーキのキャパシティには密接な関係がある。タイヤが小さければ必然的にハブやホイールのサイズが小さくなるので、ブレーキのサイズも小さくなってしまう。すると、ブレーキの能力も抑えられてしまうのだ。それを少しでもなんとかしようというための多板式ディスクブレーキだが、それでも限度はある。

それに、ブレーキを使いすぎると温度が上がる。運動エネルギーを熱エネルギーに変換するのがブレーキなのだから当然だ。すると、タイヤが過熱してバーストする原因を作ることにもなるので、ブレーキの使い過ぎは避けたいところだ。

だから、逆噴射装置やドラッグシュートやスポイラーやエアブレーキといった補助制動手段が必要になる。

ステアリング

地上を移動するときには旋回できなければ困ってしまう。だから当然、ステアリング機構も必要になる。三車輪式なら首脚の向きを変える仕組みで、その辺の考え方はクルマと同じだ。

ただし、小型機だとステアリング機構がない場合がある。ではどうするのかというと、左右の主脚のブレーキを片側だけかける。例えば、左側だけブレーキをかければ、機体は左に曲がる。戦車みたいな装軌車両が向きを変えるときの操作と似ていなくもない。

ちなみに、地上を滑走している時のステアリング操作は、操縦桿ではなくて、ラダーペダルの先端を踏み分ける方法が一般的だ。ただし機種によっては、操縦桿にステアリング用のレバーがついていたり、計器盤の片隅にステアリング用のハンドルが付いていたりする場合もある。

ボーイング747やエアバスA380みたいに主脚が4本ある機体では、主翼に取り付いた主脚と胴体に取り付いた主脚は前後に位置がずれている。これは地上での旋回を円滑に行うためだ。