今回は話を変えて、エアバスが10月14日に実施したオンライン説明会から、興味深そうな話題をいくつか取り上げてみたい。エアバスもボーイングも、毎月の受注・納入実績を発表しているが、新造機については依然として低空飛行が続いている。すると航空機メーカーとしては、なにか新たな商機も見つけていく必要がある。
Return to Service
まず紹介したいのが” Return to Service”だ。羽田空港などを訪れたらおわかりいただけるが、減便によって余剰になった機体の中には、退役・売却されるものもあれば、一時保管状態に置かれるものもある。保管状態の機体は、例えば羽田空港のB滑走路近隣などにずらりと並べられている。
もちろん、こうした機体はときどき入れ替えが行われているだろう。同じ機体ばかり使い続けると飛行時間の不均等が生じるし、機械というものは動かしてやらないと調子が悪くなる。すると、ときには国内線に国際線仕様の機材が回されることもあり、筆者も今年に入ってから2回の搭乗経験がある。
ときどき現役に戻すことがあっても、平常時と比べれば、駐機保管されている時間が長い。しかも、全機を格納庫に収めるわけにはいかないから露天駐機だし、アリゾナの砂漠なんかと違って、日本は気候環境の面でも厳しい。
とはいえ、航空需要が復活する兆しも出てきている。すると今後は、保管されていた機体が現役に戻る場面も増えてくるだろう。それをメーカーの立場から見ると、再整備などの場面で「出番がある」という話になる。
例えば、動翼や扉のような可動部、そしてエンジンでは、動作確認だけでなく、潤滑油の交換が必要になる。油圧系統は動作確認だけでなく、シールやパッキンの交換、漏れのチェックも行わなければならない。これは燃料タンクも同様となる。
もちろん、機体構造材や各種の翼面では、腐食や損傷などの傷みが生じていないかどうかを確認する必要もある。そして厄介なのは降着装置。駐機したままで動かない状態が長く続くと、ずっと同じ場所に荷重がかかりっぱなしの状態になる。それによる影響が生じていないかを確認して、問題があればパーツを交換しなければならない。
電子機器も、動作確認や(必要なら)パーツの交換が必要になるが、それだけでは済まない。保管状態にある間に、航法システムが使用するデータに変動が生じているかもしれない。すると、データベースの更新も必要になる。
ここまでは機体というハードウェアの話だが、それを扱う運航乗務員や客室乗務員、整備員はどうか。もしも実務から離れていた場合には、改めて乗務に就く前にリフレッシャー・トレーニングが必要になると思われる。コロナ禍の間にレイオフや定年退職で欠員が生じていれば、人員の補充が必要であり、そこでも訓練の需要が発生する。
経営体力強化のためにメーカーができること
そして、エアライン各社の経営体力を強化する観点からいえば、より経済的な運航を可能にするための、機体の改良や運航方式の見直し、といった話も出てくる。もともと、機体メーカーやエンジン・メーカーは、より経済性の高い機体、細かくいえばシート当たりの運航経費が低い機体を追及してきた。それをさらに継続・深度化するという話になる。
ひとつ、今回のプレゼンテーションで出てきた興味深い話が、USMである。超音波モーターではなくて、Used Serviceable Material、つまり「まだ使える中古品」のことだ。
普通、航空機の整備はTBM(Time-Based Maintenance)方式によって行われており、飛行時間や飛行サイクル数に応じて、「何時間飛んだらこういう点検整備をやる」「何サイクル飛んだら、ここのパーツを替える」といった形で実施している。
TBMは、過去の経験や実績に基づいて定めた間隔に基づいて実施するから確実性が高いが、ときには、まだ使えるパーツを交換してしまうことも起こり得る。そこで、外した中古パーツでも、そのまま、あるいは補修して再利用が可能なものなら有効活用しましょうというわけだ。エアバスの場合、それを子会社のSATAIRに担当させて、オンライン・マーケットプレイスを通じて販売するとしている。
最近、他の業界も含めて、CBM(Condition-Based Maintenance)の話が出つつある。単純に時間やサイクル数で区切るのではなく、機体、あるいは個々の部品の状態に応じた整備や部品交換をしましょうというのが、CBMの基本的な考え方。裏を返せば、状態が良く、TBMで規定している飛行時間やサイクル数よりも長く使えるものがあり得る、という話でもある。
ならば、それを無駄にせず、新品よりも安価に手に入る流通ルートを整備する。それがうまく機能すれば、メーカーは新たな商売ができるし、エアラインは安価に予備品を手に入れることができる。もちろん、新品と比べれば寿命は短くなるだろうが、モノによってはUSMで済む場面もあるだろう。
COVID-19は航空業界にとって、とんでもない災厄だ。しかし、そこで単に下を向いているばかりではなく、前向きな努力も行われている、という一例としてエアバスの事例を紹介してみた。他社にもいろいろな取り組みがあることだろう。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。