練馬区立区民・産業プラザにて「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2016」が開催され、数多くのアニメ関係者が参加した。同フォーラムはペーパーレス作画をテーマにした初の大規模フォーラムとして1年前に発足したもの。今回のACTFでは作画のデジタル化とフローの改革に取り組んだ制作プロダクションから担当者が登壇し、実際の作品事例を通してデジタル作画に関する講演を行った。

本稿では平成27年度文化庁 若手アニメーター等人材育成事業「あにめたまご2016」における制作受託4社(株式会社シグナル・エムディ/株式会社STUDIO4℃/株式会社手塚プロダクション/株式会社武右ェ門)の制作状況の発表をレポートする。

あにめたまご2016に参加している4社は株式会社シグナル・エムディ/株式会社STUDIO4℃/株式会社手塚プロダクション/株式会社武右ェ門 (C)シグナル・エムディ/文化庁 あにめたまご2016 (C)Beyond C./文化庁 あにめたまご2016(C)手塚プロダクション/文化庁 あにめたまご2016(C)武右ェ門/文化庁 あにめたまご2016

本講演に登壇したのは、株式会社シグナル・エムディの本多氏と清岡氏。「あにめたまご」は日本のアニメクリエイティブの振興と向上を目的に、OJTを通して業界の将来を担う優れたアニメーター等を育成するため、平成22年より開始した文化庁委託事業「若手アニメーター等人材育成事業」の通称である。

シグナル・エムディがあにめたまごで発表した作品は「カラフル忍者いろまき」。ほぼデジタル原画で制作しており、TVPaintが主。補助的にPhotoshopを使用している。

シグナル・エムディによる発表

カラフル忍者いろまき(C)シグナル・エムディ/文化庁 あにめたまご2016

尺は24分、カット数は287、動画枚数は8182枚という数字だ。うちデジタル作画は236カットで、全体の82%を占める。原画マンによっては紙でないとダメという人もいたということで、チェッカーは作画机とOA机の2台体制で制作を進行した。

使用ソフト

原画マンは7名。今回は特殊な手法はとらず、TVシリーズのような作品がどこまでデジタル作画でできるのかを試してみたという。動画枚数8182枚はTVシリーズと考えると多めだ。

主なセルのワークフローは、レイアウトから始まり、各種チェックを経て原画&動画、そして動画検査と色指定へ。仕上げからセル検査をして撮影となる。

主なセルのワークフロー

この流れの中で、デジタル作画の導入により変化したのが、作監チェックからラフ原への流れと原画作監チェックから動画への流れ、そして色指定から仕上げへの流れの3ヶ所だ。

大変だったのは原画作監チェックから動画への流れで、全カットすべての素材を静止画として書き出しすることで、通常にはない手間がかかったという。

一方で新しい挑戦となったのが、「進行自動化計画」。これは進行表および集計表を自動化しようとする試みで、原画マンにクラウド上のGoogleスプレッドシートに進行表の入力を依頼するというもの。原画、演出、作監間のカット移動には進行は介在せず、サーバで受け渡すのだ。よってカット袋もタイムシートもなく、ペーパーレスが前提となる。

デジタル化のメリット・デメリットと「挑戦」

メリットは、制作進行業務の負担が減ること。事実、本多氏によるとプロデューサーもしくはデスクが進行を兼任可能なレベルであり、カット袋やタイムシートがないおかげで何本も掛け持ちすることさえできたという。自動化できるのはデジタルならではの強みだ。

ただしデメリットもあるという。素材の不備に気づかないまま素材が流れる可能性があったり、タイムシートを含めて紙素材が発生するとそれだけで機能しなくなったりする恐れがあるのだ。

もう一つの挑戦は「フォーマットの高画質化」。通常の解像度は150dpiだが、今回は基本解像度を250dpiに設定。レイアウトや原画、動画の際に紙作画との解像感の乖離を緩和するための措置だが、そのおかげで150dpiにはない描き味が得られ、拡大作画の工程を減らすことができるなどのメリットが生まれたという。一方でデメリットは仕上げ、背景、撮影時にデータが重くなるため、やや負担が増えることだという。

ここまでをトータルでまとめると、現状のデジタル作画のメリットは作品終了後のカット袋が詰まったダンボールが減ったり、スキャン代が発生しないのでその分の予算を他に回せたり、運ぶための車両代や駐車場台、ガソリン代もかからなかったりといった部分。特にカット袋が詰まったダンボールは通常5箱のところ、2箱で済んだ。

逆にデメリットは、機材やソフトウェアの初期投資に費用がかかることや、紙と違って可視化されないため全体の物量がわかりにくいこと、またアニメーターのPCとタブレットの親和性に作業が依存するなどが挙げられるという。

制作進行にとっては、外回りやカットの出し入れ、原図スキャンといった仕事が減った代わりに、原図データや動画出し用の書き出しなどの作業が増えるなど一長一短。ただし、相対的に仕事量は変わらなくとも、拘束時間は減ったと感じているという。

今後、短期的には書き出しの簡略化や他のソフトとの互換性の改善などといった課題を改善しつつ、長期的には紙作画スタッフをデジタル作画にソフトランディングさせる仕組みや環境作りが必要になるとのことだ。

講演ではレイアウトや原画集計表などをスプレッドシートでどのように管理しているのか、実際の画面を見ながらの解説も行われた。

実際の現場で見えてきたデジタル作画のメリット・デメリット。今後、デジタル作画を取り入れようと考えているなら、ぜひ参考にしたい実例である。