電子デバイス業界で、もっともホットな話題であるIoTと5G。この2つの技術が2018年以降、半導体、電子部品、産業機器、自動車などの幅広い産業界に変革をもたらすことが期待されている。果たして、この2つの技術は、日本の産業界にどのような影響をもたらし、いかに商機を生み出すのか。市場調査企業IHS Markitが開催した「IoT/5G産業分析セミナー」の内容を元に、読み解いていきたい。

  • 「IoT/5G産業分析セミナー」の会場風景

    「IoT/5G産業分析セミナー」の会場風景

5Gの本質はIoT実現のためのモバイル通信

シニアアナリストの大庭光恵氏

シニアアナリストの大庭光恵氏 (画像提供:IHS Markit)

同セミナーにおいて、IHS Markit Technologyメディア・テレコム部門シニアアナリストの大庭光恵氏は「次世代通信で変わるシステムのプラットフォームとデバイス:デバイスビジネスのモデルと商機を検証する」と題して講演し、5Gに至る経緯と5Gの本質、5Gの影響やデバイスの商機ついて解説を行った。

同氏はまず、「移動体通信技術は1980年以降、ほぼ10年ごとのサイクルで数十kbpsから100Mbpsの広域システムへと進化し、音声通信からブロードバンド、IoTへとICT社会における役割を拡大してきた。これまで、無線通信の世代交代ごとに、機器が更新され、新たな用途が拓けてきた。5Gの導入により、ブロードバンド・インターネットやIoTの増強が可能となり、自動運転や機器の遠隔操作、VR/ARといった新たな用途が実現可能となる。これまでつながっていなかった多数のモノがつながるようになるということだ」と述べた。

  • 移動体通信技術の変遷

    移動体通信技術の変遷:通信サービスのレベル向上の歴史 (出所:IHS Markit資料)

また、5Gの本質については、「世界人口当たりのモバイル(携帯電話・スマートフォン)普及率は100%に達しており、発展途上国においても普及率は80%を超えるので、Mobile for Human(人のためのモバイル)はすでに普及している。これに対して、5Gの本質はMobile for IoT(モノをネットにつなげるためのモバイル)である」と述べた。

5Gの経済効果については「中国を中心としたLTEの大型投資が一巡した後、通信キャリアの設備投資は調整が続いてきたが、2018年の米国、韓国を皮切りに5Gの導入が始まることで設備投資全体の回復が期待されている」と指摘した。

5Gは産業機器や自動車産業を成長させる

5Gの技術的なスペックについては「スペック自体はすでに達成されているが、コストダウンと需要の開拓が市場拡大に欠かせない。産業機器や自動車といった情報化が遅れていた市場においてIoT化が進行しているため、これらの市場で今後高成長が期待できる」との見解を示した。

現在のIoTにおいては、用途によって使われる無線方式が異なるため、セルラーやWi-Fiだけでは、エンドユーザーの要求にこたえられない部分が多く、そこに太く多様な5Gインフラが介在することで、IoTの社会構造に変化が生じることが期待されるという。現在のコネクテッドカーにおける通信技術はセルラーとVICSが中心だが、自動運転を実現するためには車両に搭載されたレーダーやカメラが検知した膨大な画像データを処理して、ゼロ遅延で別の車両やデータセンターに伝送することが可能名5Gが不可欠となるとする。

5Gは半導体需要にも影響を及ぼす

5GのバリューチェーンはOS・プラットフォーム、インフラ・サービスと、機器/端末によって展開されるデバイスの両輪で実現に向けて開発が進められており、巨大プラットフォーマーを中心にレイヤの垣根を越えた技術革新が進められている。

通信機器向け半導体の需要見通しについて振り返ってみると、インフラ機器向けは導入が拡大した2007-2008年と、LTE基地局が増加した2014-2015年ごろに増加したものの、5Gの導入規模が限定的な2020年の水準はそれらを下回る見通しだ。一方、端末向け半導体はゆるやかな台数増と5Gへの対応から引き続き金額ベースでは成長が続くと予測されている。

  • 移動体通信インフラ向け半導体出荷金額(単位:百万ドル)と移動体通信端末向け半導体出荷額(同)の推移

    移動体通信インフラ向け半導体出荷金額(単位:百万ドル)と移動体通信端末向け半導体出荷額(同)の推移 (出所:IHS Markit資料)

代表的な半導体メーカーの戦略を見てみよう。Intelは端末・エッジ向けに軸足を置き、ミリ波やSub-6GHzの複数の無線チャネルを統合したSoC化を積極的に進めてきており、5Gモデム向けSoCも2017年に発表している。主なパートナーはAT&T、Verizon、NEC、China Mobile、Ericssonなどで、関連した実験にミリ波/Sub-6GHzのデュアルモデムSoCやRFICで参加している。

一方のQualcommをはじめとする大手無線通信チップメーカーは5Gにおいては端末向けだけでなくインフラ向け製品で無線ブロック(RF、PA、LNAおよびアンテナ機能)を統合したSoCの開発を進めている。

また、センサについては、例えば、オーストリアamsは売上高を伸ばし、高収益で成長を続けているセンサメーカーの1つとしてあげられる。同社はセンサIC、パッケージに加え、ソフトウェア・アプリケーションへの投資や協業を強化することで、次世代のニーズへの対応を図っている。

日本企業の収益機会はどこにある?

5G時代を迎えるに与えるにあたり、日本企業の収益機会について大庭氏は、「5Gに関連した業界動向、企業動向によると、5Gの技術的な方向性が確立され、実用化に向けての動きが始まっている一方、本格的な実現には『機器のコストダウン』と『エネルギー消費の低減』の2つが課題である。IntelやQualcommなどの大手半導体メーカーがモデムやRFICのSoC化をすすめる一方、周辺部品・材料のインテグレーションがこれらの課題への対応には不可欠となる。センサや高周波部品のインテグレーションやセンサフュージョン、超低消費電力化などの技術革新が必要だが、これらの実現には、部材、実装、デバイスの横断的な協業により付加価値の確立が必要であり、ここに日本企業は収益の機会を見出すべきだ」と指摘した。

なお、大庭氏は、最後に次のように話をまとめた。

  • これまでの移動体通信技術は人間のために進化してきたのに対し、5GはIoTによる経済価値の創出に向けて開発がすすめられている。
  • ビームフォーミングやMassive MIMOなど、5Gの技術的な方向性は確立され、実用化に向けての動きが進められている一方、本格的な実現には機器のコストダウンとエネルギー消費の低減が大きな課題とされている。
  • モデムやRF、アンテナはSoC・SiPによるインテグレーション志向が強く、関連して基板やモジュール、半導体パッケージといった実装における技術革新へのニーズが高まっている。
  • 機器やデバイスなど、ハードウェアのバリューチェーンにおいては、「グローバルな成長市場・有力プレイヤーへの訴求=プラットフォームへの関与」、「データを経済価値に変換するための需要創出・業界の垣根をこえた協業、標準化へ参加」の2つが不可欠となる。

(次回は1月16日に掲載します)