iPhoneの魅力の1つが、誰でも失敗なくきれいに撮れるカメラなのは言うまでもありません。そのiPhoneのカメラレンズの光学技術を中心に研究開発を手がける拠点が、実は横浜にあります。その名は「YTC」(横浜テクノロジーセンター)。Appleのエンジニアが米国本社と連携して開発を進めるだけでなく、日本のサプライヤーと協業をする重要な拠点と位置づけています。

  • 大きく重い本格的なカメラも驚く性能に仕上げられたiPhoneカメラ。その研究開発を手がける拠点が日本にある

    大きく重い本格的なカメラも驚く性能に仕上げられたiPhoneカメラ。その研究開発を手がける拠点が日本にある

YTCのエンジニアは日本語が話せるため、日本のサプライヤーのエンジニアと日本語で深いコミュニケーションが取れ、迅速かつ正確に開発を進められるメリットがあります。さらに、日本の企業が米国本社に直接セールスをかけるのが難しい場合でも、YTCのエンジニアと連携して小規模ながらも優れた技術を発掘し、製品の採用につなげられるなど、サプライヤーにとっても重要な存在になっていました。

横浜にできたAppleの“謎”拠点、ついに判明

米国に本社を置くAppleですが、日本にもいくつかの拠点があります。なかでも新しい拠点が、2017年に開設した横浜のYTC(横浜市都筑区)です。何かしらの研究開発を行う拠点としては知られていましたが、日ごろAppleを取材するジャーナリストでさえ誰も取材に来たことがない、謎に包まれた拠点でした。

  • 住宅街に存在するYTC。ガラス張りの外観ながら、詳細はこれまでヴェールに包まれていた

    住宅街に存在するYTC。ガラス張りの外観ながら、詳細はこれまでヴェールに包まれていた

今回、YTCがiPhoneのカメラレンズを中心とした光学技術の研究開発を手がける拠点だと明かされるとともに、カメラを中心とする電子部品をAppleに提供するサプライヤーがYTCに集結。ティム・クックCEOに最新技術の詳細を説明する特別な場が設けられました。

  • 日本を代表するサプライヤー4社が集まり、ティム・クックCEOに最新技術の詳細を説明した

    日本を代表するサプライヤー4社が集まり、ティム・クックCEOに最新技術の詳細を説明した

YTCは日本になければならない理由がある

YTCにはクリーンルームが備えられ、エンジニアが実際に手を動かして研究・開発が行われています。単に米国本社からの依頼を基に開発を進めるだけでなく、YTCのエンジニアが主体的に技術を開発し、製品化を本社に提案して製品に採用されるケースも多いそう。

  • YTCには、このような本格的なクリーンルームが設けられている

    YTCには、このような本格的なクリーンルームが設けられている

  • エンジニアによる研究開発も進められている

    エンジニアによる研究開発も進められている

Appleは、YTCの地理的なメリットを生かし、日本のサプライヤーの優れた技術とAppleの製品開発をつなぐ戦略的な「架け橋」と位置づけています。

YTCのエンジニアは、当然ながら日本語に堪能な人が多く、日本のサプライヤーと密で深い技術的コミュニケーションが取れます。それにより、複雑な技術的要件や微妙なニュアンスを正確に伝え合うことができるメリットがあります。

開発のスピードの速さも地理的なメリットの1つ。サプライヤーから開発中のサンプルを受け取ったあと、YTCで試作・検証を実施し、その後のサプライヤーへのフィードバックが日本国内で完結するため、開発をスピーディーに進められるわけです。

さらに、Apple本社に直接リーチするのが難しい小規模な装置メーカーや素材メーカーが持つ優れた技術を、YTCのエンジニアが日本での対話を通じて発掘できるのも、YTCのメリットだとしました。

カメラのAFや手ぶれ補正に貢献するTDK

続いて、iPhoneのカメラに関連する電子部品を提供するサプライヤー4社が、ティム・クックCEOに最新技術の詳細を説明しました。

まずはTDKです。かつては、カセットテープなどのコンシューマー製品でなじみがありましたが、現在は小型の電子部品やセンサー、バッテリーに強みを持つ会社として知られます。TDKの技術や製品は、ほぼすべてのApple製品に採用されており、Appleのサプライチェーンにおいて重要な位置を占めているといいます。

iPhoneで欠かせない存在となっているのが、TMR(トンネル磁気抵抗効果)センサーという超小型の電子部品。iPhone 17のカメラモジュールに搭載され、オートフォーカスや手ぶれ補正などカメラ性能の向上に貢献しています。オートフォーカスはiPhone Xから、センサーシフト式の手ぶれ補正はiPhone 12シリーズから搭載されました。

ティム・クックCEOは「あなたたちがいなければ、現在のAppleの製品は存在しなかったでしょう」と評価しました。

写真や動画を見たままに仕上げるのに貢献するAGC

続いては、さまざまなガラス製品で知られるAGCです。現在は、ガラスやセラミックスのような無機材料技術と有機材料技術の両方を駆使し、それらを組み合わせることで特殊な素材を作れることを強みとしています。材料の“もと”を自社で持っていることが、他社が容易に追随できない大きな理由だと語ります。

iPhoneでは、カメラの画質や描写を左右する「IRカットフィルター」が、2010年以降のすべてのiPhoneに採用されています。CMOSなどのイメージセンサーは、人間の目には見えない赤外線(IR)をとらえて写真の色が不自然になる原因となります。IRカットフィルターを組み込むことで赤外線のみを遮断し、人間が見たままの自然な色を再現できるわけです。

ティム・クックCEOは「あなたたちの技術がなければ、iPhoneの写真は素晴らしいものにはならなかったでしょう。本当に感謝しています」と語りました。

基板の小型化や耐久性向上に貢献する京セラ

続いては、かつて「京都セラミック」という社名を冠していた京セラです。iPhoneのカメラモジュールを小型化・高性能化するうえで欠かせないセラミック基板を提供しています。

セラミック基板は、最大11層ものシート状のセラミックを積み重ね、約1600℃の高温で焼成して作り上げます。多層構造にすることで、基板の表、裏、側面、そして内部の層にも回路を形成でき、立体的な3D配線でカメラモジュールの小型化や薄型化に貢献しています。

セラミックは、高温で焼き固められると非常に安定し、硬く頑丈な素材になるため、一般的な基板のように水分を吸って経年劣化することがないそう。多層構造によって、熱を逃しやすくなるメリットもあります。これらの点も、Appleが重視する長期信頼性の要求に応えられる要素だとしました。

ティム・クックCEOは「iPhoneのほぼ全体に関わる素晴らしいテクノロジーで、少なくともカメラに関しては不可欠の存在です」と評価しました。

カメラの要、イメージセンサーで貢献するソニー

続いては、Appleとのパートナーシップが1983年から始まったというソニー。最初のビジネスは、初代Macintosh向けのフロッピーディスクドライブの供給でした。現在の主力はiPhoneカメラ用のイメージセンサーで、2011年から供給を開始。モバイル向けのセンサーには、高感度、低ノイズ、高ダイナミックレンジ、高解像度、そして強力な付加機能という5つの重要な特徴があり、ソニーはこれらを常に拡張してユーザーの期待を超えることを目指しているといいます。

最新のiPhone 17シリーズでは、縦に構えたままで横位置の写真が撮影できるセンターフレームフロントカメラ用のセンサーを提供したのがトピック。このセンサー、正方形センサーだと思われていましたが、実は4:3比率のセンサーだそう。センサー自体は24メガピクセルの画素数ですが、左右をカットした18メガピクセル分を切り出して使用しているそうです。

このセンターフレーム、レンズを通して得られる円形のイメージサークルを最大限に活用すればこんな新機能ができるのでは、と考えたApple側から生まれたアイデアだといいます。

イメージセンサーで10年以上続くコラボレーションの秘訣として、ソニーの担当者は両社の文化が近いことを挙げました。Appleもソニーも、テクノロジーやイノベーションを通じて「映像文化をどう発展させていくか」という共通の志を持っていることや、お互いの得意分野を深く理解していることが、長期的な関係につながっているとしました。

ティム・クックCEOは「もしソニーの技術がなかったら、iPhoneの素晴らしいカメラを世に送り出すことはできなかったでしょう」と評価しました。

サプライヤーはお互いに切磋琢磨する存在で、単なる下請けではない

最後に、重要な研究開発施設を日本に開設した狙いや、日本のサプライヤーを評価する理由をティム・クックCEOに尋ねました。

「カメラに関連する卓越した専門知識や技術、強力なエコシステムが日本には存在するからです。日本のさまざまな企業との協業が素晴らしい製品開発につながると考え、戦略的拠点としてYTCを設立しました」

「日本の技術は、iPhone 17シリーズのカメラシステムのまさに中心にあります。日本のサプライヤーとの協力によって、みなさんはスマートフォンで最高のカメラを手に入れられるだけでなく、センターステージのような魅力的な機能も使えるようになりました」

「私たちは、日本のパートナーの職人技、精密さ、品質、そして丁寧な仕事ぶりを高く評価しています。お互いに協力することで、単独では達成できないことを成し遂げられます。1+1が2ではなく3になるのです」

ティム・クックCEOのコメントから、サプライヤーを単なる部品供給の「下請け」ではなく、お互いに切磋琢磨することでそれぞれの技術や製品を高めあう大切なパートナーとして尊重していることが分かりました。Appleとサプライヤーの妥協のない研究開発が、今後も驚くような製品や機能を私たちにもたらしてくれることでしょう。