数値目標にミッション・ビジョン・バリューで意味づける
――正忠さん自身の話を聞かせてください。今、楽天グループのGroup CCuO(Chief Culture Officer)を務めていますが、実際どのようなことをしていらっしゃるのでしょうか。
僕はもともと、楽天市場というコアビジネスの事業責任者でした。その当時から、毎月の締め会で達成した数字を共有するときは、その数字にどんな意義があるか、会社のミッション、ビジョン、バリューの視点から仲間に共有していました。それを『翻訳』と呼んでいるのですが、『翻訳』することで事業への理解を深め、同時に『そうそう、楽天に入ったのは、これが実現したかったからだよね』と、想起する機会にもなります。
すると、目の前の業務や追いかけている数値目標と、入社した理由、会社が実現したいミッションが、全部繋がっていく。これを全社的に進めていっています。そして僕は幸いにして、楽天の創業初日から、いいときも悪いときも、会社が育ってきた歴史を見ている。なぜそのビジネスが始まり、その組織が必要になったのか。楽天という物語の語り部としての、Group CCuOという役割も担っていますね。
――正直なところ、その役割って…正忠さん以外にできるんでしょうか?
それを今、仕組み化しているところです。この『翻訳』ができる人が増えれば、働く仲間が何万人に増えても、三木谷と同じレベルで、僕たちが大事にしている『楽天主義(※)』を実現していけると思っています。だからこそ、『楽天主義ワークショップ』をチームの仲間たちが開発してくれて、そのファシリテーションができる人を増やせるようにしています。実は世界に100人以上の『楽天主義ファシリテーター』がいるんですよ。もちろん僕自身も世界中の仲間たちのもとへ行きますが、すべての拠点に毎月行けるわけではありませんから。
※楽天主義…楽天グループのあり方を明確にし、すべての従業員が理解し実行する価値観・行動指針。「大義名分-Empowerment-」「品性高潔-気高く誇りを持つ-」「用意周到-プロフェッショナル-」等の「ブランドコンセプト」、「常に改善、常に全身」「顧客満足の最大化」等の「成功のコンセプト」から構成される。
AI前提時代は、より知恵や人格が問われる
――最近、個人として大きな学びになったことはあります?
『小学校の先生って、大変なんだな』ですかね(笑)。今、AI時代の教育に興味がありまして。先日、『Rakuten AI Optimism』という楽天グループ最大級のカンファレンスで、AI×教育をテーマにしたパネルディスカッションを実施したのですが、AIが出現して、これから教育は抜本的に変わるんじゃないかと思っています。
現在の、同じ年齢の能力も性格も異なる生徒を数十人、同じ箱の中に入れて、約50分間一方的に教師が発信する…その構図は明らかにAIによって変わるはずです。より良い形になるにはどうしたらいいのかと考えて、実は今、母校でゴリゴリと実験をしています。授業の運営、テストの制作、採点…あらゆることでどうAIを活用すべきか、学生たちとハッカソン的な取り組みを行う予定です。
AI時代は、あらゆる知識がいくらでも簡単に引き出せる。だからこそ、それを活用する知恵や人格が問われる。ビジネスの現場もそうですよね。ともすれば、儲けるためにいくらでも良くない使い方ができてしまう。でも、そうではなく、どう間違えずに使えるか、そこが大事です。
――インターネット黎明期と似たような感じですね。
そうですね、産業が大きく伸びる時期って、良くない使い方をしてしまう人もいます。だからこそ、ちゃんと整えていくことが必要ですよね。
――今、正忠さんが最も興味を持っていることを挙げるなら何ですか?
一度しかない人生、ひとりひとりが自分らしい人生を送るためには、どうするのがいいのか。社会全体に対して関心がありますが、もちろん会社の仲間たちにもそうあってほしい。楽天という組織に来てくれたからには、社会にインパクトを与えてイノベーションを起こす機会に携わってほしい。それができる土壌を、28年作ってきました。うちは創業当時から『多様性』の文化です。
楽天市場の事業を立ち上げるときに迎えた中途採用の仲間が、当時はインターネットで何か事業をしたことがある人がほとんどいなかったので当然ですが、まず業界がバラバラ。不動産、保険、教育…でも、だからこそ、いろいろなアイディアが出てきた。今は100カ国以上の国籍を持つ仲間がいて、多様性が当たり前になっていますね。
ある言葉に対して、日本人は違和感がなくても、英語圏含む外国籍の従業員は違和感を持つことが、いくらでもある。こうした異なる背景や考え方をインクルージョンしていく姿勢こそが、それぞれの強みや個性を尊重して、イノベーションを起こすために大事なことです。バラバラになりかねない集団を束ねるために、共通して大切にしたい価値観が、『楽天主義』。その基盤を作る今のGroup CCuOの仕事にやりがいを感じる。結局興味もそこに立ち戻りますね。
――最後に、正忠さんが仕事をする上でいつなんどきでも忘れない、大事にしていることを挙げるなら、何でしょうか。
感謝、です。いただいた機会にも、周囲の人にもです。例えば蔵元さんからJapan CxO Awardの審査員の話をいただいたときも、まず自分に機会をいただけることが極めてありがたい。誰かが『正忠ならできるだろう』と思ったから声をかけてくれているのに、そこで『自分にはできないかもしれない』と勝手に判断して断ることはおこがましい。機会をいただいたら、『感謝』して全力投球すると決めて、取り組みます。
人で言えば、仲間と家族、取引先の皆様などはもちろんですが、会社に関わるすべての人に感謝を忘れません。例えば、警備員の方々が会社を守ってくれているから、僕たちは安全に働ける。そのため警備の方には毎回お辞儀していますし、僕が近づくと皆さんアイコンタクトしてくれる。この世に生きていて、感謝が必要ないことはありません。
新しい機会を前にした時、最初に「自分にできるか」ではなく、信じて声をかけてくれた人への感謝を考える姿勢。これは、リーダーとして本当に見習うべきものだと思います。 そして、会社の成長を支えるすべての人々へ、分け隔てなく感謝を行動で示されているエピソードではその行動がリーダーシップとは何かを改めて教えてくれました。
小林さんの謙虚さと感謝の心を常に持ち続けている姿勢が、多くの人を巻き込み、より大きな成功へと導くのだと、改めて気づかされました。
■今回お話をうかがったのは…
楽天グループ 常務執行役員 Group CCuO 小林正忠氏
1997年楽天創業から参画。EC 事業責任者等を歴任後、2012年米州本社社長、2014年アジア本社社長。グローバルマネジメント経験後、2017年コーポレートカルチャー部門をリードし、現在はGroup CCuO(チーフカルチャーオフィサー)。2001年から出身大学に「正忠奨学金」を設立。2011年世界経済フォーラム Young Global Leaders選出。5児(娘3人息子2人)の父。Japan CxO Award審査員。


