日本のテレビ市場において、2024年にソニーやパナソニックを押さえて販売シェア4位につけたのが、中国の新興家電メーカーTCLです。2025年2月には、IOC(国際オリンピック委員会)とワールドワイド・オリンピック/パラリンピック・パートナー契約を結んだことで、さらに存在感が増していくことが予想されます。

そんなTCLのテレビ事業を下支えするのが、世界2位のシェアを誇る液晶パネルメーカーのTCL CSOTです。TCL CSOTの工場ラインやショールームを見学する機会を得たので、その模様を紹介しましょう。

  • 中国・深センにあるTCL CSOTの深セン工場

最新工場は基本的に無人で稼働する

今回見学した「T2ライン」は、TCL CSOTが最初に作った「T1ライン」と同じく8.5世代(2,500×2,200mm)のマザーガラス(世代の数字が増えるほどサイズが大きくなる)を使用しており、32インチから55インチのパネルを生産しています。

  • TCL CSOT深セン工場の模型。今回見学した写真下部の「T2ライン」は、最先端の4Kテレビ用液晶パネルを生産する生産ラインです

  • T1、T2ラインに隣接するT6、T7ラインでは、おもに大型テレビ向けの液晶パネルを生産しており、ガラスを提供するAGCの工場も隣接しています

24時間稼働する完全自動化工場になっており、自社製の太陽光パネルと専用の発電所によって電力供給をまかなっているとのこと。パネル生産にはガラス洗浄などで多くの水を使うこともあり、浄水設備も整えているとのことです。

T2ラインの中は撮影不可だったため、TCL CSOTから提供された写真で簡単に紹介したいと思います。

  • TCL CSOT深セン工場の内部の様子

T2ラインはサッカー場12面分に相当(約8万平方メートル)するサイズがあり、月産15万枚のパネル生産能力を持ちます。2枚のガラスの上側にはカラーフィルター、下側にはTFTアレイと呼ばれる電気回路を取り付け、その間に液晶を挟み込むことでパネルを作り上げます。

  • 1台あたり十数億円する製造機械がズラリ並んでいます。工場の床には、空気を清浄化する通気口が数多く設けられています

工場の床には数多くの通気口のようなものが設けられているのですが、これは工場内の空気を清浄化してクリーンルームを作り出す、TCLが独自に特許を取得したシステムです。担当者は「手術室に必要なクリーンルームの基準よりも5倍以上の清浄化を実現しています」とのことでした。

基本的に完全自動化ラインなのですが、時折人がいるのを見かけました。製造工程ごとに検査工程があり、機械による検査で不具合などが見つかった場合には作業員によって目視での検査などが行われるそうです。

  • 自動検査で不具合などが見つかった場合は、作業員による検査が行われます

意欲的な仕様の液晶テレビがズラリ

続いては、深セン工場のショールームの様子を紹介しましょう。

深セン工場はTCL CSOTが最初に作った工場で、この工場で最初に製造した第8.5世代液晶パネルはTCL創業者である李東生氏のサインとともに展示されていました。

  • TCL CSOT深セン工場で最初に製造された液晶パネル

最新の液晶テレビも数多く展示されていましたので、いくつか紹介していきましょう。

日本でも展開している115インチの量子ドットミニLEDテレビも展示されていました。日本では実売価格500万円前後とかなり高額な製品ですが、「米国では結構売れており、中国でも事業所や別荘などに設置されているケースが多い」(担当者)とのことでした。

  • 115インチの量子ドットミニLEDテレビ。TCL CSOT独自のHVAパネルを搭載し、ネイティブコントラスト7000:1の高コントラストと144Hzのリフレッシュレートを実現しています。日本で2024年5月に発売された「115X955MAX」(実売価格500万円前後)と同等のものです

日本で「C8Kシリーズ」として展開している、最新の「Virtually ZeroBorder技術」を採用する“フレームレス”モデルも展示されていました。

  • 独自の「HVA Ultra」パネルを採用する98インチの量子ドットミニLEDテレビ。日本で発売された「98C8K」(実売価格118万円前後)と同等のものです

  • 最新の「Virtually ZeroBorder」技術によって、内側の黒枠がほとんどないのが分かります

日本では展開していない製品の展示もありました。バックライトと液晶層の距離を限りなく0mmに近付けた「OD Zero(Optical Depth Zero)」技術を採用した8KミニLEDテレビは、驚異的な薄さを実現していました。

  • OD Zero技術を採用した85インチ8Kテレビ

  • 横から見ると驚きの薄さを実現しています

TCL CSOT製のパネルを搭載するパソコンやスマートフォン、タブレットなどの製品も展示されていました。

  • TCL CSOT製のパネルを搭載する大手メーカーのパソコン

  • 折りたたみ式有機ELパネルを搭載するスマートフォン

そのほか、展示会などでデモするために作られた試作品の展示なども行われていました。

  • 21.6インチの印刷式4K有機ELパネルを搭載するポータブルタイプのエコー検査システム

  • デザインに注力した8K液晶テレビ。背面を見てみると…

  • 背面にデザインを施したガラスをあしらっており、後ろから見ても美しいのが特徴

  • 14インチWUXGA(1920×1200ピクセル)の印刷式有機ELパネルを搭載するノートパソコン

LEDの光を当てると蛍光材料がさまざまな色に光る、という量子ドットの展示も行われていました。量子ドットとは、直径2~10ナノメートル程度の非常に小さな半導体粒子で、そのサイズによって色が変化します。従来のカラーフィルターよりも鮮やかで広い色域を実現するというのは知られていますが、それを実験のように展示しているのが興味深いところでした。

  • 量子ドット蛍光材料が展示されていました

  • 左からLEDの光を当てると、色が変わるのが分かります

  • 日本にはない床置き形のエアコン。中国では人気があるそうです

  • ドラム式洗濯機と乾燥機

  • 透過型のカラータッチパネルで操作するようになっています

深セン郊外にあるTCLの旗艦店も訪問

続いて、深セン郊外にある家電量販店を訪問しました。TCLのテレビや生活家電を販売する旗艦店とのことです。

  • 深セン郊外にある家電量販店

  • TCLのテレビ製品の展示コーナー

Bang & Olufsen製のスピーカーサブウーファーを搭載する75インチ4Kテレビ「75A300 Pro」は1万3599元(1元20円換算で約272,000円)です。大型テレビの価格が全体的に下がっているとはいえ、なかなかリーズナブルに思えます。日本市場への展開も期待したいところです。

  • Bang & Olufsen製のサウンドバーとサブウーファーを搭載する75インチ4Kテレビ「75A300 Pro」

また、通常の液晶テレビとミニLEDテレビ、さらに分割数をアップしたTCLの量子ドットミニLEDテレビとの違いを端的に表す展示物もユニークでした。

  • TCLの量子ドットミニLEDテレビの高画質をアピールする展示物。分割数の多さと量子ドット技術によって高コントラスト、広色域を実現していることがパッと見で分かる、なかなか面白い展示です

生活家電の販売コーナーも見学しました。

  • エアコンの展示コーナーには、壁掛け形エアコンと床置き形エアコン、業務用エアコンなどが展示されていました

  • 今後日本市場にも展開を広げる予定になっている生活家電も展示されていました

狭い日本の住宅事情では、床のスペースを取る床置き形エアコンは向いていないとはいえ、壁掛け設置が難しい古い建築物などにも設置できるため、一定のニーズはありそうです。TCLは、今後エアコンを日本市場に展開する予定とのことなので、どのような機能や特徴を持つ製品を展開してくるのか、楽しみにしたいところです。