NTTドコモが2月22日・23日の2日間、東京・青山で10名のインフルエンサーのスマホカメラで撮影した写真を集めた「ばくモレ展」を開催しています。たんに“盛れている”写真を集めたように思えるこの写真展、実は裏にもうひとつのテーマがあったのでした。

  • 入口のパネル

    会場入口のパネル。パステルカラーで明るく楽しそうな雰囲気です。実はこのロゴデザインにも裏テーマが隠れています

会場のギャラリーは1階と2階の2フロアになっており、まず1階の展示を観ていくことになります。そこには、かとゆりさんや折田涼夏さんなど9組10人のインフルエンサーがそれぞれの日常を撮った、いかにも楽しそうな“ばくモレ写真”がところ狭しと並んでいます。

  • 参加インフルエンサーの皆さん

    今回の写真展に参加しているインフルエンサーの皆さん

  • 1階の会場展示1
  • 1階の会場展示2
  • 1階の展示3

    1階には、SNSでもよく見かけるような、楽しそうな日常を切り取った写真が並んでいます。会場も明るく、楽し気な雰囲気です

  • キャプションつきの展示

    写真の中には、SNS投稿風にキャプションつきで展示されているものもあります

1階の展示を一通り見終わったら、階段を上がって2階に向かいます。するとそこは、黒い背景に薄暗い照明の、1階とはまったく異なる雰囲気の空間になっていました。

  • 2階のパネル

    階段を上ってすぐに目に入るパネル。「ばくモレ」の文字は1階にあるものと同じですが、実はここに「キケン」の文字が隠れていたのでした

  • ライトで照らしながら展示を観る

    照明も薄暗く、手渡されるライトで照らしながら展示を観ていくことになります

種明かしをすると、この2階の展示が写真展の本当の狙い。実は1階に展示された写真は、個人情報が漏洩してしまう、“ばく漏れ”リスクのある写真だったのです。2階では、1階にあった写真にどんなリスクがあったのかを解説するパネルが並んでおり、どんな点に気を付けなければならないかを学ぶことができます。写真展開催の案内などではこの狙いについてはまったく触れられておらず、応援しているインフルエンサーが参加している写真展を観にきた人だけがこのもうひとつの狙いに気づくという仕掛けです(この記事でのネタばらしについてはもちろん許可を得ています)。

  • 電柱の写った写真

    これは比較的わかりやすい例です。この写真にどんなリスクがあるかわかるでしょうか

  • 電柱のリスク解説パネル

    正解は、電柱の住所表示。キャプションに「近所散策」とありますので、この住所の近辺に住んでいることが伝わってしまいます

  • 校章の写った写真

    クイズをもうひとつ。こちらの写真の情報漏洩ポイントは?

  • 校章のリスク解説パネル

    正解は、制服の胸元についている校章。ここから、どの学校に通っているかがわかってしまうので、出待ち・待ち伏せをされてしまう危険があります

住所表示やエンブレムで居場所や所属する学校・団体がわかってしまうというのは比較的わかりやすいケース。あるていど知識がないと、危険があるということに気づけないケースもあります。

  • 鍵番号の写った写真
  • 鍵番号についての解説パネル
  • こちらの写真では、キーリングについたキーが危険。キーに刻まれた鍵番号が写っており、この番号からキーが複製できてしまいます

スマホが高性能になったことで高まったリスクもあります。瞳の中の映り込み、何気ない写真の中の指紋などは、以前であれば写真からは識別できなかったでしょうが、最近では高性能なカメラで撮った高精細な写真をそのまま投稿できてしまうため、漏洩によるトラブルが生じています。

  • 瞳の中の映り込みのリスク解説
  • 写真に写ってしまった指紋のリスク解説
  • 瞳の中の映り込みから居場所が特定されてストーカー被害にあるという事件が実際にありました。写真に写った指紋が悪用されることがあるというのは、筆者も不勉強で知りませんでした

今回の写真展に参加しているインフルエンサーのうち、「ウチらばくモレ界隈」は実はこの企画のために結成された二人組。2025年1月からTikTokで活動を開始し、当初にかとゆりさんとのコラボを行ったこともあって多数のフォロワーを集めています。彼らの投稿では、意図的に撮影地域などがわかってしまうような仕掛けをしており、実際に撮影場所を指摘するようなコメントも寄せられています。

  • 撮影場所を指摘するコメント

    「ウチらばくモレ界隈」のSNS投稿に実際に付いた、撮影場所を指摘するコメント

  • 「ウチらばくモレ界隈」の動画

    「ウチらばくモレ界隈」の動画にどんな情報漏れのリスクがあるかを解説する動画も展示されていました。このアカウントについては、写真展の終了後にネタ明かしをする予定だそうです。その後一定期間を置いて3月中には運用を終了する予定とのこと

2階の解説を読んだあとに1階の写真をあらためて観ると、あからさまなものから気づきにくいものまで、さまざまなリスクポイントがあるのがわかります。これらの写真を撮るにあたっては、インフルエンサーの皆さんとどういった写真を撮るかを綿密に打ち合わせて撮影を行ったそうです。

  • 1階の写真展示

    あらためてこれらの写真を見ると、情報漏れのリスクが潜んでいることに気づきます

今回、取材のタイミングで会場にいた男性に話を聞いたところ、「自分も思い当たるところがあって、投稿を観たら自分の住まいがどの駅の近くなのか特定できてしまうなと思いました」と話していました。この方はご自身でもモデル活動をしているそうで、周囲にもそういった方が多いとのこと。仕事柄、普段から情報漏洩には気を付けているはずですが、そんな人でも今回の展示であらためて知ったことがあったそうです。

この写真展を企画したのは、NTTドコモ ブランドコミュニケーション部の内野吾斗睦さんと岡田愛莉さん。同部はNTTドコモのブランドイメージ向上を担当している部署で、そこで社会課題を解決するような企画の募集があり、そこから今回の写真展の企画がスタートしたそうです。お二人は、今回テーマに掲げたSNS投稿からの個人情報漏洩リスクの啓発について、通信サービスを提供するキャリアとしての責任であり、卒業・入学シーズンを控えたこの時期に伝えておきたい内容だと話していました。

  • 内野吾斗睦さんと岡田愛莉さん

    企画を担当したNTTドコモ ブランドコミュニケーション部の内野吾斗睦さんと岡田愛莉さん

今回、どういったリスクを取り上げるかは、情報セキュリティの専門家である神戸大学の森井昌克名誉教授に協力をいただいているとのこと。森井名誉教授は“ばく漏れ”を防ぐためのチェックポイントとして、「写真」「テキスト」「タイミング」の3点に気を付けることが大事だと言います。今回の「ばくモレ展」では、最後にチェックポイントが伝わっているかのペーパーテストが用意されており、テストを受けた人にはちょっとしたプレゼントを用意しているそうです。

  • “ばく漏れ”を防ぐ3つのチェックポイント

    “ばく漏れ”を防ぐ3つのチェックポイント

  • ペーパーテスト

    ペーパーテスト

今回の写真展は巡回の予定などはないそうですが、青陵中学校・高等学校の高校生1~2年生を対象とした出張授業が行われます。内容は、「ばくモレ展」の展示写真を活用し、情報漏洩とSNS投稿について気を付けるべきチェックポイントを解説するほか、「ウチらバクもれ界隈」の投稿を活用した個人情報漏れのポイントを見つけ出すゲームの実践などを予定しているそうです。同社では、春休みを目前にした高校生がSNSの正しい使い方を考える機会になれば、としています。

「ばくモレ展」概要

  • 開催日時:2月22日(土)10時~17時、2月23日(日)10時~16時
  • 会場:ライトボックススタジオ青山(東京都港区南青山5丁目16-7
  • 入場料:無料