2025年1月8日から12日まで、Acerが主催するアジア・パシフィック地域の国際大会「The Asia Pacific Predator League 2025 Grand Finals」(以下、Predator League 2025)が、マレーシア・クアラルンプールにて開催されました。

本大会では、昨年と同じ『Dota 2』と『VALORANT』の2タイトルを採用。日本代表チームとして、『Dota 2』には「REJECT May」が、『VALORANT』には「CREST GAMING Zst」(以下、CGZ)が出場しました。昨年に続き、メディアクルーとして日本代表2チームとともに現地へ向かったので、「Predator League 2025」全日程の模様をお届けします。

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    最終2日間のグランドファイナルズが行われた「Predator League 2025」のステージ

空港でも街中でも「Predator League」の広告がお出迎え

2018年にスタートした「Predator League」は、アジア・パシフィック地域のさまざまな都市に場所を移しながら行われる国際大会です。インドネシアのジャカルタから始まり、タイのバンコク、コロナ禍のオンライン開催を挟み、日本の東京、フィリピンのマニラ、そして今年はマレーシアの首都クアラルンプールでの開催を迎えました。

日本代表2チームは、大会スタート前々日の朝8時半に空港へ集合。およそ8時間のフライトを経て、マレーシアに到着しました。マレーシアの空港では、現地スタッフと「Welcome to Malaysia」と書かれた巨大な「Predator League」の広告がお出迎え。そして、大会仕様にラッピングされた専用シャトルバンに乗って、ホテルに向かいます。

ホテル入り口には大会フラッグがはためき、ロビーには大会専用の受付が設けられていました。各々がホテルの部屋に着いたのは、夜22時近く。日本とマレーシアの時差は1時間ですが、朝から晩まで丸一日かけての移動になりました。

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    空港に集合した「REJECT May」の選手たち。いざマレーシアへ

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    マレーシアの空港で選手たちを迎えた「Predator League」の巨大な広告

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    歓迎する現地スタッフから布をかけてもらう「CGZ」の選手たち

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    大会仕様にラッピングされた専用シャトルバンでホテルへ移動

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    「Predator League」のフラッグが立てられたホテル入り口

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    豪華なホテルのロビーに大会専用の受付が設けられていた

「Predator League」の広告は、街中にも多く掲示されていました。デジタルサイネージは全7ヶ所で2ヶ月もの間、映像広告を放映します。7ヶ所すべての場所は把握できませんでしたが、1つは観光名所のペトロナスツインタワーの目の前にある、大きな交差点に面していました。これらのデジタルサイネージの広告費用は、トータルで3万ドル(約470万円)しかかかっていないそうで、日本の広告費用と比べるとかなりリーズナブルです。

これに関連して、大会の開催費用について関係者に聞いてみたところ、日本はeスポーツ大会を開催するためにかかる費用が、アジア・パシフィック地域のなかで最も高い国だそうです。昨今は円安の影響で、日本は旅行などで訪れるには安い国になったイメージがありますが、それでも他国に比べて会場費や制作費が高いのが現状だといいます。

国際大会の開催地を選ぶにあたって、かかる費用は比較検討される大きな要素の1つでしょう。国際大会の自国開催は、チームにとってさまざまな面で有利になりますが、日本での開催は費用面で難しいと判断されやすいことになります。開催費用の高さは、日本のeスポーツにおける課題の1つといえるかもしれません。

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    人通りも交通量もかなり多い交差点のデジタルサイネージで大会広告を放映

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    クアラルンプールのランドマーク、高さ452mのペトロナスツインタワー

強豪チームに挑むも、「REJECT May」は勝利に届かず

大会スタートの前日、選手たちは会場に向かい、大会用の写真撮影を行いました。会場は、マレーシア最大級のコンベンション施設「Malaysia International Trade and Exhibition Centre」(MITEC)。グループステージと最終2日間のグランドファイナルズは、同じ会場内にある別のホールで行われます。

グループステージが行われるホールには、出場する全28チーム分のブースが並びます。各チームはこのブースからグループステージの試合に出場しますが、空き時間はブースを使って練習が可能。翌日に試合を控えた「REJECT May」の選手たちは、会場が使える時間いっぱいまで練習を続けていました。

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    会場に到着し、写真撮影のためにホールへ向かう「REJECT May」

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    ホール内にチームロゴが掲げられたブースが全28チーム分並ぶ

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    大会写真は、ゲーミング腕組みとフリーポーズの2パターンで撮影

そして、いよいよ大会がスタート。初日には、『Dota 2』グループステージの試合が行われます。グループステージでは、3チームずつ4グループに分かれ、Bo1の総当たりで対戦。各グループを勝ち抜いた4チームが、有観客ステージで戦うグランドファイナルズに進出します。

日本代表チームの「REJECT May」は、国内で数少ない『Dota 2』で活動するメンバーを集めたドリームチーム。今年も「Team May」をプロチーム「REJECT」がサポートし、「REJECT May」として出場しました。彼らは専業プロゲーマーではなく、全員社会人。仕事と活動を両立させながら、年始の仕事始めという休みにくい時期になんとか休みを取り、この大会に臨んでいます。

「REJECT May」が振り分けられたのは、フィリピンチームの「Execration」と、モンゴルチームの「123 Gaming」がいるグループB。どちらのチームもフルタイムで活動するプロチームで、実績ある強豪チームです。「Predator League」出場チームのレベルが年々上がっていることに加え、グループ運にも味方されず、難しい戦いに挑むことになりました。

試合は、どちらも相手にリードを広げられる展開で敗北。昨年は勝利を見せてくれた「REJECT May」でしたが、残念ながら今年は勝利に届きませんでした。グループBは、「123 Gaming」が2-0でグループステージを突破。「Execration」が1-1、「REJECT May」が0-2で大会敗退となりました。

仕事と活動を両立しながら、フルタイムのプロチームに勝つのは至難の業です。そこで、「REJECT May」の選手たちに、活動タイトルを変えて専業プロになろうと考えたことがあるかという、気になる質問をしてみました。それに対しては、「『Dota 2』が好きだからやっている」というのが全員の答えでした。

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    baseballdogs選手、puru選手、Suan選手、うたたねかえる選手、Arab選手、deltaコーチ

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    大会前日、遅くまで練習を続けていた「REJECT May」

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    グループステージ試合本番。資料を見ながらバンピックを話し合う

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    リーダーのうたたねかえる選手

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    試合中、「REJECT May」の試合を見守るコーチとマネージャー

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    『Dota 2』グループステージ試合結果

「CGZ」がグループステージを突破し、有観客ステージへ

2日目には、『VALORANT』のグループステージが行われました。4チームずつ4グループに分かれてBo1で総当たりを行い、各グループを勝ち抜いた4チームがグランドファイナルズに進出します。

日本代表チームの「CGZ」は、「Predator League」の国内予選を勝ち抜き、この大会への出場権を獲得しています。「CGZ」が振り分けられたグループAには、インドチームの「Team Rival」、オーストラリアチームの「Next Gen」、そしてフィリピンチームの「Team Secret」がいました。

「Team Secret」は、「VCT Pacific」で戦うリーグチームで、本大会には招待チームとして出場。昨年の「Predator League 2024」では、優勝を果たしています。各グループを勝ち抜けるのは1チームのみなので、「CGZ」も難しいグループに振り分けられた印象でした。

「CGZ」は「Next Gen」に13-9で勝利、「Team Rival」に13-8で勝利し、本来なら残る「Team Secret」との対決で決着だと思われました。ところが、「Team Secret」が思わぬ不調により、「Team Rival」に3-13で敗北、「Next Gen」に10-13で敗北するという展開に。これにより、実質的に2戦目に勝利した時点で、「CGZ」のグループステージ突破が決定していました。

昨年の「Predator League」でも、日本代表チームの「FAV gaming」(以下、FAV)がグループステージを突破。さらには、グランドファイナルの舞台まで進む快挙を見せました。「CGZ」のbazz選手は、昨年「FAV」のメンバーとしてその舞台に立っており、本大会で有観客ステージに進むのは2度目になります。

bazz選手としては、昨年グランドファイナルで戦って敗れた「Team Secret」に、このグループステージでリベンジしたいところでしたが、5-13で敗北。「CGZ」は2勝1敗で「Next Gen」と勝敗数が並びましたが、直接対決で勝利しているためグループ1位となり、セミファイナル進出を決めました。

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    ホテル前に待機するシャトルバン。会場に向かう車内では大会テーマソングが流れている

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    Kapi選手、bazz選手、Brofeld選手、KEN選手、sakurai選手、通訳のleollaさん、Nerufiコーチ

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    2戦目の「Team Rival」に勝利したことで、実質的にグループステージ突破が確定

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    『VALORANT』グループステージ試合結果

有観客ステージで行われる最終2日間は、1日目に『VALORANT』、2日目に『Dota 2』の試合が行われます。昨年はセミファイナルがBo1でしたが、今年はセミファイナルからグランドファイナルまで、ステージ上の試合はすべてBo3になりました。

「CGZ」は、セミファイナル第1試合に出場。対戦相手は、インドネシアチームの「Alter Ego」です。グループステージでは「Team Secret」だけでなく、強豪チームの「BOOM Esports」も敗退するなど多くの番狂わせが起きており、「CGZ」にとっては優勝の可能性が高まっている状況でした。

1マップ目のヘイヴンでは、リードする「Alter Ego」に対し「CGZ」が追い上げる展開を見せました。しかし、オーバータイムに持ち込めるかというところで、惜しくも11-13で敗れてしまいます。続く2マップ目のパールでは、2-10での折り返しと厳しい状況に追い込まれ、最終的に5-13で敗北。優勝の夢は叶わず、「CGZ」はベスト4で挑戦を終えることになりました。

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    セミファイナル第1試合を戦う「CGZ」がステージに入場

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    「Predator League」で2年連続、日本代表チームが有観客ステージへ

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    チームは変わったものの、2年続けてステージで戦ったbazz選手

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    惜しくもセミファイナルで敗退となり、ベスト4で戦いを終えた「CGZ」

大会の在り方への疑問と、熱い声援を送るファンの存在

実はセミファイナルの試合中、非常に残念なことに客席の大部分が空席でした。マレーシアでは『VALORANT』より『Dota 2』のほうが人気だと聞いていたので、ゲームの人気が影響しているのかと思いましたが、『Dota 2』の試合が行われた最終日も同じことが起きていました。

セミファイナルが終わると、オープニングセレモニーやアーティストライブがあり、気づくと会場は満席になっていました。つまり、来場者の大多数は、アーティスト目当てにチケットを買った人だったのです。ライブが終わって、グランドファイナルの試合が始まるころには、多くの人が席を離れていきました。その光景を見て、私はただただ悲しい気持ちになりました。

チケット代は、最も安いスタンド席が99リンギット(約3,500円)、アリーナ席が199リンギット(約7,000円)、豪華特典付きソファ席が2日通し券で599リンギット(約2万円)。マレーシアの平均月収は日本のおよそ3分の1と言われているため、それを踏まえれば、やや高めの価格設定に感じられます。

それでも、チケットはソールドアウトしていて、企業ブースエリアはずっと大盛況だったので、イベントとしては成功しているのかもしれません。企業が主催するサードパーティ大会として、さまざまな事情や背景があるとは思いますが、eスポーツ大会として見れば疑問が残ります。

なにより、ステージに最も近いエリアは販売されておらず、主催であるAcerの偉い人たちが座るVIP席になっていて、試合中そこに座っている人はほとんどいませんでした。Acer Japanとしてはこれに抗議したそうですが、変わらなかったとのこと。eスポーツ大会としての在り方は、来年以降どうか良い方向に変化してほしいと強く願っています。

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    大会テーマソングを歌うP-POPグループ「G22」。ほかにも複数アーティストが出演した

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    2日通し券などの特典では、ライブで盛り上がるためのペンライトがもらえた

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    ステージがあるホールの隣に、とても広い企業ブースエリアが設けられていた

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    企業ブースエリアは、ゲーミングな世界観に統一された空間に

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    さまざまなブースが展開され、常にたくさんの人でにぎわっていた

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    最新のゲーミングPCやデバイスを使ってゲームを試遊

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    レーシングゲームなどが体験できるブースもあった

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    ミニゲームやスタンプラリーに参加すると豪華な賞品がもらえた

ただ、もちろんそうした状況のなかでも、熱い声援を送るファンがいました。『VALORANT』では、フィリピン国旗を持ったファンが多くいて、「ZOL Esports」に大きな声援を送っていました。『Dota 2』では、地元マレーシアチーム「Myth Avenue Gaming」の活躍に、ファンはもちろんのこと、配信スタッフなども一緒になって大盛り上がりしていました。

そして、「CGZ」を応援する現地ファンの女性にも出会いました。手書きの応援ボードに驚いて声をかけたところ、彼女はマレーシア在住で、「CGZ」のなかでも特にbazz選手を応援しているのだと教えてくれました。彼女は日本チームにくわしく、今は「DetonatioN FocusMe」も応援していて、なかでもMeiy選手とArt選手(彼女はArt選手のことを“いばにん”と呼んでいました)が好きなのだそうです。

その後、彼女が私にXでメッセージをくれたことをきっかけに、タイミングを見計らって、「CGZ」の選手たちにサインと写真をお願いしました。彼女はこれをとても喜んでくれて、後日サインを大学に持っていって友人たちに自慢し、今は寮の部屋に貼っているそうです。まさかマレーシアで日本チームを応援する現地ファンに会えるとは思っておらず、本当に感動的で心温まる出会いでした。

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    フィリピン国旗を片手に「ZOL Esports」に大きな声援を送るソファ席

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    祈りすぎてもはや画面が見れなくなっているファンの姿も。ファンの気持ちは万国共通……

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    地元マレーシアチーム「Myth Avenue Gaming」の活躍に大盛り上がりするスタンド席

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    現地ファンの女性とbazz選手の2ショット。なんとbazz選手が「FAV」にいたころから応援しているのだとか

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    「CGZ」の全員からサインをもらって喜ぶ姿を見て、私が喜びました

来年「Predator League 2026」の開催地はインドに決定

今年の「Predator League 2025」は、『VALORANT』ではインドネシアチームの「Alter Ego」が優勝、『Dota 2』では地元マレーシアチームの「Myth Avenue Gaming」が優勝。それぞれの優勝チームには、賞金6.5万ドル(約1,000万円)が贈られました。

そして、エンディングセレモニーでは、来年の「Predator League 2026」がインドで開催されることが発表されました。インドで開催されるeスポーツ大会というと、なかなかイメージがつきませんが、はたしてどのような大会になるのでしょうか。

採用タイトルは、現時点では未発表。『VALORANT』と『Dota 2』は2年連続で採用されましたが、タイトルが変更される可能性もあります。「Predator League 2026」の続報を、楽しみに待ちましょう。

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    『VALORANT』の優勝は、インドネシアチームの「Alter Ego」

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    『Dota 2』の優勝は、地元マレーシアチームの「Myth Avenue Gaming」