2024年の締めくくりとして、今年1年のeスポーツシーンを振り返ってみたいと思います。2025年の展望を予想しつつ、希望する未来についても考えてみました。

2024年最大の出来事は「eスポーツワールドカップ」開催

eスポーツ界隈において、2024年最大の出来事と言えば、「eスポーツワールドカップ(EWC)」の開催ではないでしょうか。日本ではそこまで盛り上がりを見せていませんでしたが、約1カ月間の開催期間に賞金総額6000万ドル(約90億円)と、これまでにはない規模でした。日本からも多くのチームや選手が参加し、好成績を残しています。

『オーバーウォッチ2』部門は「Crazy Raccoon」が優勝し、「ZETA DIVISION」が3位。『PUBG MOBILE』部門では「REJECT」が準優勝。『ストリートファイター6(スト6)』部門ではカワノ選手が準優勝、立川選手とガチくん選手が3位、りゅうきち選手とひかる選手とひぐち選手が5位となりました。『鉄拳8』部門はダブル選手が3位です。

ただし、これだけ大きな大会ながら、大会自体や配信スケジュールなどがしっかりと周知されませんでした。そのため、“知る人ぞ知る大会”になってしまったのが残念でなりません。次回は周知を怠らず、少しでも多くの人が観戦、応援できる環境を整えてほしいところです。

筆者も、なんとかYouTubeの配信チャンネルを見つけ、いくつかの試合を観ていましたが、どのタイトルも同時視聴者数が多いとは言えませんでした。同じタイトルでも、ほかの大会やイベントでは同時視聴者数が最低1万、多いもので10万を超えるものも多く、数百、数千止まりだったのは、eスポーツワールドカップ側としても想定外だったのではないでしょうか。

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    サウジアラビアのキディヤ・シティで開催されたeスポーツワールドカップ

eスポーツシーンを牽引する2タイトル

2024年のeスポーツシーンを牽引してきたのは、『VALORANT』と『スト6』の2タイトルでしょう。

特に、4月に開催された「EVO Japan」では『スト6』部門の参加人数は4,851人を数えています。ほかにも、かげっち氏が主催する対戦会「FightersCrossover」の全国大会や、eスポーツイベント「RAGE」初の『スト6』大会「RAGE STREET FIGHTER 6」、東京メトロ主催の「東京メトロカップ」、2年ぶりの開催となった「TOPANGA Championship」、学生向け大会「全学格」、5年ぶりの開催となった公式オフライン大会「CAPCOM Pro Tour 2024 SUPER PREMIER」など大きな大会が目立ちます。高校生eスポーツ大会の「全日本高校eスポーツ選手権」も2024年から『スト6』部門を開設しました。

ほかにも「睡眠カップ」や「騒音カップ」、「REGENDUS」など、企業、ストリーマー中心のイベントも多々開催されており、まさにeスポーツシーンは『スト6』が中心だったと言えます。

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    「ASH WINDER Esports ARENA高田馬場」で開催された「FightersCrossover」の全国大会

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    武蔵野の森スポーツプラザにて開催された「CAPCOM Pro Tour 2024 SUPER PREMIER」

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    後楽園ホールで行われた「REGENDUS」

トッププロが鎬を削って戦う最高峰リーグ戦「ストリートファイターリーグ:Pro-JP 2024(SFL2024)」も例年以上の盛り上がりを見せています。4カ月にわたって行われてきたリーグ戦は、YouTubeの公式チャンネルで5~8万の同時視聴者数を記録。ほかの配信サービスやストリーマー、プロゲーマーによるミラー配信を含める総同時視聴者数は、10万を超えているとみられています。

世界大会ならいざ知らず、毎週行われるリーグ戦において、この数値をたたき出すのは快挙と言えるでしょう。選手個々の人気も高まってきていますので、『スト6』は日本のeスポーツシーンをしばらくは牽引していくのではないか思います。

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    「SFL2024」のプレイオフの様子

もう1つの人気タイトルである『VALORANT』は配信の同時視聴者数も高く、オフラインイベントの集客も良好です。eスポーツシーンを支えているタイトルであることは間違いないでしょう。

ただ、公式大会の運営に関しては、各所から不満が漏れ出ています。日本や東南アジア、韓国などのパシフィックエリアのローカルトーナメントを勝ち上がったチームによる地域大会である「VCT ASCENSION PACIFIC TOKYO 2024」は、シングルエリミネーションのうえ、明らかに優位となるチームがいる変速トーナメントでの開催を発表し、炎上騒ぎとなりました。

大会形式を見直す結果となりましたが、会場施設のスケジュールの問題か、東京での開催を断念し、インドネシア・ジャカルタでの実施になりました。

女性プレイヤーの大会である「VALORANT Game Changer Championship 2024」では、トランスジェンダーの選手が女性相手に無双。さらに死体撃ち(倒した相手に対して必要のない追い撃ちをするマナー違反とされる行為)をしたり、対戦相手の「ZETA DIVISION」のロゴをマシンガンやショットガンで撃ち抜く行為をしたりと、プロとしての品格を問われる場面もみられました。いろんな意味で無法地帯となりつつあるため、抜本的に競技シーンを見直さないと、ファンが離れてしまう可能性は否定できません。

実際、eスポーツ系イベント会社やeスポーツチームによる大会は減ってきています。そして、公式大会や独自イベントの運営で『VALORANT』を支えてきたRAGEが『VALORANT』とのパートナー契約を終了。2025年以降の大会運営の行く末が心配されるところです。

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    両国国技館で2年連続の開催された『VALORANT』のイベントRED BULL HOME GROUND

今後に期待したい「eモータースポーツ」と『ポケモンユナイト』

今後の躍進に期待できるのが「eモータースポーツ」のカテゴリーです。レースゲームは“カーシミュレーター”の側面があるほど、リアルに近いゲーム。映画『グランツーリスモ』のように、シムレーサー(eモータースポーツのドライバー)がリアルのモータースポーツのレーサーになることもありますし、イゴール・大村・フラガ選手や宮園琢磨選手のようにレーサーとシムレーサーを兼任している選手もいます。

その分、リアルレースの前座的な位置づけが否めない状態でもありましたが、日本ではeモータースポーツの大会である「UNIZONE」が2023年に立ち上がりました。

UNIZONEは、JeMO(日本eモータースポーツ機構)によって行われるJAF(日本自動車連盟)から公式ライセンスを受けた大会で、リアルとバーチャルが地続きとなっているモータースポーツだからこそできるeスポーツ大会。また、マツダやトヨタ、ホンダなど日本を代表とする自動車メーカーも大会を開催しています。

ゲームメーカー中心ではなく、自動車業界によるeスポーツ展開はこれまでとは違う形で拡大していく気がしています。また、eモータースポーツを主戦場とするレーサーがeスポーツチームに所属する傾向も見られ始めています。eスポーツ業界もeモータースポーツに可能性を感じており、さまざまな業界からeモータースポーツに集結していることがわかります。

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    ウエルカムプラザ青山で決勝ラウンドが行われたHonda Racing eMS 2024

新たなリーグとして注目なのは『ポケモンユナイト』の「Pokémon UNITE Asua Championships(PUACL)2025 – Japan League」です。

『ポケモンユナイト』は、地方のeスポーツイベントや高校生大会など、裾野が広く、ポケモンワールドチャンピオンシップス(WCS)での世界大会まであるタイトルです。アジア王者を決める「PUACL」とその大会へ進出する代表チームを決める「Japan League」ができたことで、トッププロの戦いを間近に楽しめるようになりました。

グループステージが7日間もある招待制のリーグ戦と誰でも参加できるオープントーナメントの2つがあり、単なる世界大会の予選ではなく、ローカル大会としての存在価値を出しているのも魅力と言えます。

さまざまな高校eスポーツイベントが立ち上がっていますが、『ポケモンユナイト』も「ポケモンユナイト甲子園」として全国大会を開催しています。今年で3回目を迎え、認知度も上がってきています。

『League of Legends』を代表とするMOBAのジャンルは多くの日本人に馴染みが薄いですが、MOBAの中でもシンプルかつ奥深い『ポケモンユナイト』がeスポーツシーンで触れられる環境が整ったことで、MOBA自体の注目度も上がっていきそうです。

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    高校生eスポーツのポケモンユナイト甲子園

どうなる? オリンピックと万博のeスポーツ

2024年のEWCと同様に、世界規模の大きな大会として初開催されるのが「オリンピックeスポーツゲームズ」です。文字通りオリンピックの一環として行われ、IOC(国際オリンピック委員会)が主催です。

これまでも、2021年の「東京オリンピック2020」時に東京で「オリンピック バーチャル シリーズ(OVS)」が開催され、2023年にはシンガポールで「オリンピックeスポーツウィーク」が開催されていました。

どちらもオリンピックと名がついていますが、直接的な絡みはなく、起用タイトルはいわゆるeスポーツタイトルではありません。実際のスポーツをデジタル化したバーチャルスポーツがメインとなっており、eスポーツ大会ともオリンピックとも言いがたいものでした。

「オリンピックeスポーツゲームズ」の正式タイトルはまだ発表されていませんが、バーチャルスポーツ以外に、対戦格闘ゲームなどの既存のゲームタイトルが入る見込みです。ただ、戦争を想起させるFPSやTPSなどのシューティングは除外されるとのことでした。

「オリンピックeスポーツゲームズ」は夏期冬期オリンピックが開催されない年の2年に一度、サウジアラビアで開催される予定。EWCとの差別化や最終的なタイトルの採用、各国の代表選手の選定など、現状ではわからないことだらけのうえ、開催まで期間があまりないので、どのような形になるかが見えず、不安な要素があるのが心配です。

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    2021年に開催されたオリンピック バーチャル シリーズ

2025年には、大阪・関西万博でeスポーツイベントが何かしら行われると思われます。現時点では高校生eスポーツ大会の「STAGE:0」が万博のEXPOホールで会期中に行われることが決定しています。ほかにも、大学生No.1を決める大会「U-Champ」も大阪・関西万博 アクションプランで提案されています。

2024年11月に大阪府知事による「大阪eスポーツラウンドテーブル」が設立され、これも万博での連携をはかる方針です。具体的なイベントは上記の2つくらいしか発表されていませんが、今後増える可能性はあるので、万博の動向はチェックしておきたいところです。

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    エンディングで大阪・関西万博での開催が発表された「STAGE:0」

拡大傾向にあるeスポーツ。ただし注目度には差

肌感として、eスポーツ市場全体は拡大している印象ですが、個々のeスポーツタイトルで考えると必ずしもそうと言えないでしょう。

すでに、タイトルや大会によって、人気や注目度に差が出てきているのが現状。大会やチームの継続が難しいケースも出てきています。

“eスポーツであれば何でもいい時代”は終焉を迎え、今後はeスポーツの中での生き残り、覇権争いが激化していくのではないでしょうか。

もちろん、プロシーン、興業として淘汰されるとしても、昔ながらのコミュニティは残ると思われます。好きで続けていくのであれば、たいした問題ではありませんが、競技シーンとして、eスポーツ選手を職業として考えるのであれば、どのタイトルが生き残るのかを見極めてプレイしていく必要が出てくるかもしれません。