2024年11月1日から麻布台ヒルズ ギャラリーにて、「ポケモン×工芸展-美とわざの大発見-」がスタートした。2023年3月より石川県の国立工芸館にて開催された同展覧会は、アメリカや日本各地での巡回を経て、いよいよ東京会場で開催される。
展覧会では、人間国宝から若手まで日本のアーティスト20名が参加。工芸の多種多様な素材と技法を凝らした、さまざまなポケモンの作品を展示する。東京会場では、初公開となる新作の展示に加え、コラボカフェや特設ショップなど、展覧会をより一層楽しめる新たなイベントが盛りだくさんだ。
展覧会の開幕に先駆け、オープニングセレモニーとメディア向け内覧会が開催されたので、その様子をお伝えしたい。
作品の細部に込められた、ポケモンと工芸の魅力
展覧会は、「すがた」「ものがたり」「くらし」の3つのエリアで構成されている。会場へ足を踏み入れると、まずは「すがた 〜迫る!〜」の展示エリアがはじまり、吉田泰一郎氏による《イーブイ》とその進化系の《シャワーズ》、《サンダース》、《ブースター》の作品が出迎えてくれた。
金工作家の吉田氏は、鏨(たがね)を用いて金属をさまざまな形に加工する伝統技法「彫金」を駆使し、躍動感あふれる生き物を作り上げる。今回モチーフとして選んだイーブイには純銅、シャワーズには青銅、サンダースには金銀メッキ、ブースターには緋銅と、それぞれの特性に合わせた素材を選んだ。
煌びやかな色彩やフォルムの美しさはもちろんのこと、実際に間近で作品を見ると、金属パーツで作られた毛並みの繊細さに驚かされた。数万個の金属パーツは、ポケモンごとに異なる形の鏨が使用され、4体を制作するにあたって約80本の鏨が手作りされたのだそう。例えば、サンダースの金属パーツには雷の形の鏨が、ブースターの金属パーツには炎の形の鏨が使われている。会場に足を運んだ際は、ぜひじっくりと眺めて、それぞれのモチーフを探してみてほしい。
続いて登場したのは、東京会場にて新たに追加された作品《ミュウツー》だ。吉田氏による全長約2mの大作で、その荘厳な佇まいから会場内で圧倒的な存在感を放っていた。
こちらの作品もイーブイたちと同じく、彫金を駆使して作られている。金属パーツをよく見てみると、さまざまな種類のポケモンたちから形作られていることが分かる。遺伝子操作によって人工的に造り出されたミュウツーの出自を彷彿させる細やかな意匠には、驚嘆せざるを得なかった。
次なる展示エリアは、「ものがたり 〜浸る!〜」だ。ここではポケモンそのものだけではなく、ポケモンが放つ技や育成による進化、プレイヤーが辿る旅路など、ポケモンの世界観をモチーフとした作品が並ぶ。
特に印象的だったのは、須藤玲子氏による作品《ピカチュウの森》だ。遠目に見ると、黄色いカーテンのような展示空間が広がっているのだが、近づいて見ると、その一本一本が可愛らしいピカチュウの大群で構成されていることに気がつく。
須藤氏はアニメ「ポケットモンスター」の「ピカチュウのもり」のエピソードにインスピレーションを受け、作品を制作。飛んだり跳ねたり、笑ったり驚いたり、ピカチュウの愛くるしい姿をニードルレースで表現した。
作品にはトンネル状の小道が作られ、鑑賞者はそこを歩くことでピカチュウの森に迷い込んだ気持ちになれる。短い小道ながらもピカチュウの可愛さを全身に浴び、森林浴以上のヒーリング効果が得られた気がした。
なお、約900本のレースのうち1本だけ色柄違いのレースがあり、須藤氏曰く、「最高に可愛い」姿のピカチュウをデザインしたのだそう。なかなか難易度の高いミッションではあるが、ぜひ森のなかを探索して最高に可愛いピカチュウを見つけ出してほしい。
最後の展示エリアは、「くらし 〜愛でる!〜」だ。壺や器、着物など、生活のさまざまなシーンを彩る工芸にポケモンたちが入り込み、作品に息づいている。
エリア中央に展示された桑田卓郎氏のピカチュウのインスタレーション作品は、東京会場では従来の倍以上のボリュームで展開される。大小さまざまなサイズの陶器のカップは、「動力成形」という技法を用いて制作された。カラフルな色化粧土をかけ、釉薬、金彩とプラチナ彩を施し、最後に転写シートでピカチュウの顔があしらわれる。
色とりどりのカップもさることながら、筆者が特に惹かれたのは柱を囲うようにびっしりと敷き詰められたピカチュウのタイルだ。「10まんボルト」に匹敵する輝きを放つ金色のタイルが、ひときわラグジュアリーな雰囲気を醸し出している。可愛らしいピカチュウと豪華な意匠のギャップが、なんともユニークだった。もし部屋の壁一面にこのタイルが敷き詰められていたら、さぞ豪勢な空間に仕上がるだろう。
展覧会の最後を飾るのは、華やかな文様が描かれた植葉香澄氏の陶芸作品だ。植葉氏は、日本古来の伝統文様を巧みに使い、ポケモンたちの特性と物語性を表現する。例えば、ゲーム『ポケットモンスター ソード・シールド』に登場する、サルノリ、ヒバニー、メッソンの3匹。くさタイプのサルノリには植物の花や葉の形を描く「唐草文」、ほのおタイプのヒバニーには燃え上がる炎をかたどった「火炎文」、みずタイプのメッソンには渦や波紋を表す「水文」が施されている。
そして、東京会場から新たに加わった、《蔦唐草文ジュペッタ》と《蒼炎文ヒトモシ》も、作品タイトル通り文様が描かれている。ジュペッタは、捨てられたぬいぐるみに怨念が宿ることで生まれたゴーストタイプのポケモンだ。植葉氏が制作したジュペッタを眺めていると、暗い闇夜に鬱蒼と生い茂る蔓草の間から、赤い瞳でじっとこちらを見ているような哀愁を感じた。
ろうそくポケモンであるヒトモシは、ゴーストとほのうの2タイプを併せ持つ。「人やポケモンの生命力を吸い取ると炎が煌めく」というヒトモシの特性が、蒼い炎の文様で見事に表現されている。同じ「炎」でも、植葉氏が手がけたヒバニー、グラードン、ヒトモシには、それぞれ違った文様が描かれているので、ぜひその印象の違いも楽しんでほしい。
俳優の本郷奏多さんが登壇! ポケモン愛に満ちたオープニングセレモニー
内覧会のオープニングセレモニーには、大のポケモン好きとして知られる俳優の本郷奏多さんが登壇し、東京会場の開幕を盛り上げた。事前に説明を受けながら会場内を見て回った本郷さんは、展覧会の印象を訊ねられ、「工芸作品と聞くと、歴史が深く難解なイメージがあったが、大好きなポケモンと組み合わさることで、とても楽しく鑑賞できました」と答える。
数ある作品のなかでも本郷さんが特に気になったのは、池田晃将氏の作品だ。螺鈿(らでん)と呼ばれる貝殻を使った装飾法の緻密さには、普段からプラモデル作りを嗜む本郷さんも驚きだったようだ。東京会場の会期中には、池田氏の作品《せきひのかけら》がオンライン抽選販売されると知り、「ぜひ応募したいですね」と熱烈なポケモンファンとしての一面を覗かせた。
また、この展覧会をきっかけに工芸に興味が湧いたと話す本郷さん。今後はひとつの趣味として陶芸などを楽しみ、その様子を自身のYouTubeチャンネルで発信できたら、と展望を語った。
そして、最後の挨拶では、これから展覧会を訪れる方々に向け、「作家の皆さんのこだわりと想いが込められた作品は、どれもずっと見ていられるくらい夢中になれます。大満足のボリューム感で、想像を超えた感動がありました。ぜひ展覧会を通して、ポケモンと工芸のどちらも好きになってもらえたらとうれしいです」とメッセージを送った。
展覧会をさらに楽しめる! コラボカフェ&特設ショップ
東京会場では、麻布台ヒルズ ギャラリーカフェにて、展覧会初となるコラボカフェ『喫茶 ポケモン×工芸展』が登場する。純喫茶をイメージしたレトロなロゴ看板が目印だ。
コラボカフェには、東京会場の会期の前期と後期で異なるメニューが展開される。フードメニューは、前期は「喫茶 ポケモン×工芸展 特製クロックムッシュ」、後期は「喫茶 ポケモン×工芸展 五目ちらし」が登場。喫茶のロゴマークや展覧会のシンボルマークをあしらったり、工字繋ぎの模様の敷き紙が使われていたり、食事をしながら展覧会の魅力を楽しめる工夫が凝らされている。
ドリンクメニューは、前期は桂盛仁氏の作品《香合 ホウオウ》と《香合 ルギア》をイメージした「ホウオウとルギアの黒ゴマラテ」、後期は植葉香澄氏の作品《羊歯唐草文シェイミ》をイメージした「シェイミの抹茶ラテ」がそれぞれ登場する。実際に作品を鑑賞した後には、美味さが倍増しそうだ。
また、コラボカフェに隣接する麻布台ヒルズ ギャラリースペースでは、展覧会の特設ショップが開かれる。これまでの展覧会会場でも販売された人気グッズに加え、東京会場から追加となる新作グッズも登場する。
展覧会のおみやげとして人気のポストカードやアクリルキーホルダー、缶バッジなど、さまざまなグッズがラインナップされているが、特に見逃せないのは、展覧会の開催を記念した「ぬいぐるみ ポケモン×工芸展のピカチュウ」だ。日本の伝統柄「工字繋ぎ」の着物に身を包んだ華やかなピカチュウは、普段の天真爛漫な可愛さとはまた違った奥ゆかしい雰囲気を感じる。展覧会に参加した記念に連れて帰るのはもちろん、プレゼントにもおすすめだ。
麻布台ヒルズ ギャラリーでの「ポケモン×工芸展-美とわざの大発見-」は、2024年11月1日(金)から2025年2月2日(日)まで開催。ぜひ展覧会とあわせて、コラボカフェや特設ショップを楽しみ、ポケモンと工芸が織りなす世界観の魅力に浸ってほしい。
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