夏のコミケの修羅場をProArt PX13で辛くも乗り切れたのは前の記事で紹介した通りですが、1.3㎏台の軽さでAdobeアプリ群を快適に動かせるパフォーマンスを発揮できたほかにも、この“相棒”はいつでもどこでも制作作業をしなければならないぐらい追い詰められたクリエイターを助けてくれる処理能力を備えています。

  • 「ひょっとすると今回こそ間に合わないかも」とまで追い込まれた筆者を「いつでもどこでも制作できる」携帯性と圧倒的なパワーで救ってくれたProArt PX13

前回の記事では「とにもかくにもコミケに間に合わせないと!!!!」という切羽詰まった状況の中で言及できなかったそれらの特徴について、改めてその存在意義を考えてみたいと思うのでありました。

……とここまで読んで、「というわけで、ProArt PX13のおかげでいつでもどこでもAdobeアプリケーション群をぐりぐり使いこなすことができた筆者は修羅場を乗り越えて新刊を夏コミに並べることができたのであった」

とハッピーエンドで締めることができた前回のProArt PX13のレビューを思い出して「おろろ? ProArtシリーズってバッテリー駆動時はディスクリートGPUって無効になるんじゃなかったっけ?」と指摘してきたそこのあなた、詳しいですねえ。さては、ProArtマスター?

たしかにバッテリー駆動時はパフォーマンスモードが強制的にカットされて選択することができず、電力管理設定の多くのパターンでディスクリートGPUが無効となってグラフィックス処理はCPU(ProArt PX13の場合はAPU)に統合したグラフィクスコアを使用することになります。

「んんん、それじゃいつでもどこでもAdobeアプリを使えるとしても、その時の処理能力はほかのモバイルノートPCとそんなに変わらないじゃないすか。その状態で使うProArt PX13の存在意義とは?」という声も聞こえなくはないですが、しかし。

その電力管理ユーティリティーの設定次第で、バッテリー駆動時でもディスクリートGPUを有効にしつつ、処理負荷に合わせて電力消費をきめ細かく抑制することができます。この記事では、そのようなProArt PX13のきめ細かい電力管理機能を解説するとともに、ProArtシリーズに導入されている生成AI機能を利活用するアプリケーション、さらには対応が進んでいるアドビシステムズのアプリケーションにおける生成AI利活用機能についても紹介していきましょう。

結構複雑! オペレーションモードとGPUモードを整理する

出先で使い続けることになるProArt PX13ということで、できるだけバッテリー駆動時間は長くあってほしいところですが、一方で、強烈に重たいAdobeアプリ群を快適に動かせるだけの処理能力は発揮させたいところです。処理能力と消費電力という両立しがたい使い方をする場合、きめ細かい電力制御が欠かせません。

このようなとき、ASUS製品に用意されている「MyASUS」(加えてそこからアクセスできるユーティリティー群)を利用することになります。

  • 処理能力と電源管理の設定は「MyASUS」のオペレーションモードとGPUモードから

MyASUSにおいて電力制御に関する項目は「オペレーションモード」に集約されています。ProArt PX13のようにディスクリートGPUを搭載するモデルでは、GPUモードを切り替えることでも消費電力を制御できます。

ただし、オペレーションモードにしてもGPUモードにしても用意している項目によってはバッテリー駆動においてディスクリートGPUを無効にして統合グラフィクスチップに処理を移行します。制作作業においては、処理能力の高いディスクリートGPUが必須となるでしょうから(でないと、ProArt PX13を持ち歩く意味がないですものね)、適切なモードの組み合わせを選ぶ必要があるでしょう。

なお、ここで選択した電力管理設定はWindowsで選択した電力管理モードに優先されます。Windowsでの設定を優先したい場合はオペレーションモードでWindowsモードを、GPUモードでスタンダードモードを選択すると、Windowsの設定におけるシステム→電源とバッテリー→電源モードで選んでいるモードに合わせて有効になるGPUがディスクリートGPUもしくは統合グラフィックスコアから選ばれます。ここで、NVIDIAのGPUを実装するProArt PX13では処理負荷と情況に合わせて統合グラフィックスコアとディスクリートGPUを切り替えるMSHybridが有効になります。

GPUモードでは「最適化」に注意しなければなりません。最適化という言葉からは「その時の状況に合わせて“最適なモードを選択する”と思いがちですが、GPUモードにおける最適化は、バッテリー駆動時は強制的にCPU(APU)の統合グラフィックスコアを使用する、という「消費電力的に(またはバッテリー駆動時間的に)最適化」することを目的としています。負荷に合わせた有効GPUの切り替えを意図しているならば、GPUモードは「スタンダード」の一択となります。

ならば、その処理の力はどれぐらい異なるのでしょうか。オペレーションモードとGPUモード、そして、使用する電源をACとバッテリーにそれぞれ切り替えて試してみました。処理能力の指標としては3DMark Time Spy ExtremeとPugetBench for Premiere Proの総合スコアを用いています。

まず、そもそもとして使用電源はACとバッテリーとで違いが出るのでしょうか。

電源 オペレーションモード (Windows電源プラン) GPUモード 有効GPU ベンチマークテスト スコア
AC Windows バランス スタンダード GeForce RTX 4070 Laptop Time Spy Extreme 4775
AC Windows パフォーマンス スタンダード 4070 Time Spy Extreme 4775
Battery Windows バランス スタンダード 4070 Time Spy Extreme 4068
Battery Windows パフォーマンス スタンダード 4070 Time Spy Extreme 4076
AC Windows バランス スタンダード 4070 PugetBench for Premiere Pro 7966
AC Window パフォーマンス スタンダード 4070 PugetBench for Premiere Pro 7898
Battery Windows パフォーマンス スタンダード 4070 PugetBench for Premiere Pro 6758

3DMark TimeSpy ExtremeにしてもPugetBench for Premiere ProにしてもAC動作とバッテリー動作で明確な、というか、けっこうな違いが出るのはバッテリー駆動時間の維持という観点でやむを得ないところ。では、同じバッテリー動作においてオペレーションモードとGPUモードを切り替えた場合、それぞれのスコアはどのように異なるでしょうか。

電源 オペレーションモード (Windows電源プラン) GPUモード 有効GPU ベンチマークテスト スコア
Battery Windows パフォーマンス スタンダード 4070 Time Spy Extreme 4076
Battery Windows パフォーマンス エコ 890M Time Spy Extreme 1818
Battery Windows パフォーマンス 最適化 890M Time Spy Extreme 1834
Battery スタンダード パフォーマンス スタンダード 4070 Time Spy Extreme 4053
Battery Windows パフォーマンス スタンダード 4070 PugetBench for Premiere Pro 6758
Battery Windows パフォーマンス エコ 890M PugetBench for Premiere Pro 3410
Battery Windows パフォーマンス 最適化 890M PugetBench for Premiere Pro 3321
Battery スタンダード パフォーマンス スタンダード 4070 PugetBench for Premiere Pro 6471

バッテリー駆動状態でGPUモードをエコモードにすると(前述通り)統合型グラフィックスコアが有効になります。そのため、それぞれのスコアもそれに伴った値に下がります。最適化モードでもバッテリー駆動状態では統合型グラフィックスコアが有効になります。一方で、オペレーションモードを処理負荷に合わせて自動で調整するスタンダードモードにした上でGPUモードをスタンダードに戻すと、スコアはバッテリー動作状態でオペレーションモード=Windowsモード&GPUモード=スタンダードモードにおけるレベルに回復しました。3DMarkで有効になっているGPUもGeForce RTX4070 Laptopとなっています。

以上のことから、バッテリー駆動状態でディスクリートGPUの処理能力を利用したい場合は、MyASUSからオペレーションモードとGPUモードをともにスタンダードモードを選択する必要があります。

なお、3DMark TimeSpy Extremeのようなグラフィックスコアをグリグリぶん回すアプリケーションのプロセスがOSに認識されている状態(=起動したままの状態)ではGPUモードを変更できません。そのため、通常はバッテリー駆動時において統合型グラフィックスコアを有効にする最適化モードでも、直前のGPUモードでスタンダードモードから3DMarkを起動してディスクリートGPUを有効にした状態で3DMarkを起動したままGPUモードを変更しようとするとエコモードは選択できません(ラジオボックスは選択できるものの有効にならず)。加えて、最適化モードを選択すると「ディスクリートGPUを使用するプロセスが起動していて無効にできない」とメッセージを表示した上でディスクリートGPUが有効のままとなります。

このとき、メッセージにされる詳細説明のリンクをクリックするとディスクリートGPUを使用しているプロセスのリストが出てきますので、このリストにあるプロセスを全て終了させるとディスクリートGPUを無効にできます。

手動モードの存在意義を試してみる

というわけで、「ぐあー!すきま時間があったら出先でも移動中でも制作作業をぶっこまないとコミケ(もしくはゲームマーケット)に間に合わねー!」という追い込まれた状況おいて「MyASUS(またはProArt Creator Hub)のオペレーションモードとGPUモードはどちらもスタンダード一択!」となったものの、AC動作時とバッテリー動作時でスコアに明らかな違いが出ています。ちなみに両モードで3DMark TimeSpy Extremeにおける動作クロックを比較してみると、バッテリー動作において動作クロックはCPU、GPUともに500MHzほど落ちているのが確認できました。それに伴って温度もCPU、GPUともにバッテリー駆動で10度ほど下がっています。

  • 3DMark TimeSpy Extreme実行時における動作クロックと温度の変化。右(もしくは上)がバッテリー駆動時、左(もしくは下)がAC駆動時

ううーん、このギャップを埋めることはできないものか。ということで「手動モード」を試してみることにしました。この機能は「ProArt Creator Hub」から変更することができます(MyASUSからは(表示されているもののグレーアウトでアクセスすることはできず)。

ProArt Creator Hubのオペレーションモードからアクセスできる手動モードの設定ではCPUの動作モードごとに駆動電圧の上限値とセンサーで測定したCPU温度ごとのCPUクーラーファンの回転数、そして、GPUの高負荷時上限温度をそれぞれ指定できます。ASUSではAMDプラットフォームにおいてCPU(APU)の駆動電圧は「SPL」「SPPT「FPPT」といった3種類のモードを用意しています。ASUSではSPLを「持続可能な電力」、SPPTを「最大2分間維持できる最大の電力値」、FPPTを「10秒間維持できる最大の電力値」とそれぞれ定義しています。

  • 手動モードの設定はProArt Creator Hubで設定することになる

  • 手動モードではCPU(APU)の駆動電圧上限とクーラーファンの回転数、GPUの温度上限を設定できる

手動モードにはデフォルトで用意されたモードが1パターン用意されています。まずは、そのモードを選択して処理能力がどれだけ向上するか試してみましょう。

電源 オペレーションモード (Windows電源プラン) GPUモード 有効GPU ベンチマークテスト スコア
Battery スタンダード パフォーマンス スタンダード 4070 Time Spy Extreme 4053
Battery 手動(初期設定) パフォーマンス スタンダード 4070 Time Spy Extreme 4064
Battery スタンダード パフォーマンス スタンダード 4070 PugetBench for Premiere Pro 6471
Battery 手動(初期設定) パフォーマンス スタンダード 4070 PugetBench for Premiere Pro 6798

んんんんー、あまり変わりませんね。初期設定のSPL、SPPT、FPPTを確認してみるとそれぞれ「25W(設定可能上限値は35W)」「32W(設定可能上限値は44W)」「81W(設定可能上限値は85W)」と“控え目”に設定されています。

ということは……、

「それぞれの値を高めに設定すれば、がっつりブーストできるのではないか?」

というわけで、それぞれの値を上限値に設定したうえで、高温によるサーマルスロットリング(高温によるダメージを回避するため駆動電圧を抑制して動作クロックを下げることで発熱によるダメージを防ぐ)を回避するため、クーラーファンの回転数を初期設定の値から上げ、60度以上ではフル回転するようにカスタマイズしてベンチマークテストを走らせてみました(なお、カスタマイズした設定内容は名前を付けて保存可能)。

  • CPU(APU)の各モードで駆動電圧を上限までかけ、ファンもフル回転に全振りしたカスタマイズを用意した

電源 オペレーションモード (Windows電源プラン) GPUモード 有効GPU ベンチマークテスト スコア
Battery 手動(初期設定) パフォーマンス スタンダード 4070 Time Spy Extreme 4064
Battery 手動(最大電圧) パフォーマンス スタンダード 4070 Time Spy Extreme 4098
Battery 手動(初期設定) パフォーマンス スタンダード 4070 PugetBench for Premiere Pro 6971
Battery 手動(最大電圧) パフォーマンス スタンダード 4070 PugetBench for Premiere Pro 6684

んんんんー、3DMark Time Spy Extremeは“駆動電圧上限”設定でスコアが上がったもののその差はわずか。PugetBench for Premiere Proに至っては逆に落ち込んでいたりします。ファンは“轟々”と回っているものの、やはりチップの保護を優先しているためか駆動電圧は抑えているようで、処理能力にそれに伴ってAC電源使用時よりは低くなるのは(少なくともユーザーが設定できる範囲では)避けられないようです。

ただ、3DMark TimeSpy Extreme実行時における動作クロックと温度を比較すると、動作クロックはCPUとGPU共に両モードで同じですが、温度はフル回転カスタムで初期設定より5度ほど下がっているのが確認できました。半導体にダメージを与える温度という観点では有意義な設定といえるかもしれません。

  • 3DMark TimeSpy Extreme実行時における動作クロックと温度の変化。右(もしくは上)が初期設定時、左(もしくは下)が筆者で用意した全力フル回転設定時

以上、ProArt PX13の電源管理機能(というかMyASUSとProArt Creator HubのオペレーションモードとGPUモード)をいろいろと設定してネチネチと検証してみました。AC電源使用時に比べてバッテリー使用時は処理能力が控えめとなってしまいますが、それでも、外出時にディスクリートGPUのパワーを存分に使えるのは「とにもかくにもコミケに間に合わせないと!!!!」という切羽詰まった状況の中(この記事3回目)では実に実にありがたい。

持ち出しやすいコンパクトなボディと軽さでこれだけのパワーを発揮できるクリエイター向けノートPCがあるなら、次の即売会もぎりぎりまで粘れるね、と学習することのない私は期待するのでありました。