次世代のアプリ開発者を発掘・応援するべく、アップルが学生を対象に開催したアプリコンテスト「Swift Student Challenge」。今年は、6名の日本人が見事に受賞しました。驚くことに、最年少の受賞者は中学生、1名は世界で50名の優秀受賞者(Distinguished Winner)にも選出されてティム・クックCEOに直接プレゼンする機会を与えられ、2名は昨年に続いての連続受賞、という快挙ずくめの内容となりました。
その日本人受賞者6名が、Apple 丸の内で開かれたToday at Appleの特別セッション「スポットライト:Swift Student Challenge 2024の入賞者をお祝いしよう!」に登壇。受賞した自作アプリを紹介しつつ、Swift Student Challengeに応募する際のポイントを解説。次世代のアプリ開発者を目指す親子や若者にエールを送りました。
アップルが認めたアプリに込められた工夫
8月17日、土曜日の10時30分という朝早い時間にもかかわらず、Apple 丸の内にはアップルに認められた若きアプリ開発者の話を聞きたいと考える参加者が多く集まりました。
2023年のSwift Student Challengeに続いて2年連続の受賞を果たしたのが、大学4年生の秋岡菜々子さん。iPadでフラワーアレンジメントを楽しみながら、花への興味を深めることを狙った「LifeWithFlowers」のアプリで受賞をつかみました。
「部屋にお花があるとリラックスできますよね。お花がある心豊かな生活をもっと多くの人に広めたい、と考えたのが開発のきっかけです。実は、私はフラワーアレンジメントをやったことがないのですが、アプリ上で手軽に体験できるようにしました。アプリの完成度を高めるべく、花を配置する時に自然なアニメーションを付けています。チュートリアル機能も付け、何をすればよいか分からないという困りごとをなくしました」
続いて登壇したMonga, Reonaさんは、なんと中学3年生! 受賞した「Cones」は、iPadで色覚検査ができるアプリ。色覚異常の人の見え方をシミュレートする機能や、色覚異常についての知識を学べるコンテンツも用意しています。
「僕は視力が低いこともあり、もともと目について興味がありました。学校で実施した色覚検査をiPadで実行したいと考えたのが開発のきっかけです。アップル自身がアクセシビリティを大切にしていることもありますが、このアプリも色覚異常の人が使えるよう色やレイアウトを工夫しています」
高校2年生の曽田柑さんが開発した「Mogic」は、日本語を母国語としない人たちに向け、日本語に興味を持ってもらうためのアプリ。右下のダイヤルを回して音を設定すると、その音に合ったひらがなが画面に現れ、文字は自由に動かして単語が作れます。
「アプリ開発でこだわったのは、どこまで要素を削れるか、ということ。チュートリアルなしでも使えるようにしました。締め切りの関係で実装できませんでしたが、“すし”と入力したら寿司のイラストが出るような楽しさも盛り込みたかったですね」
続いて登壇した大学3年生の河原慶太郎さんは、なんと優秀受賞者(Distinguished Winner)に選出され、アップル本社に招待されてティム・クックCEOにアプリを直接説明する栄誉を得ました。
受賞した「PuzzlePix」は、iPadに保存した写真を使い、世界で1つだけのパズルが作れるアプリです。「今年のお正月、昔遊んでいたパズルを引っ張り出して小学生の妹と遊んでいた時に思いつきました。制作途中のアプリを実際に妹に試してもらったらメチャクチャ楽しんでくれたので、自信を深めました。紙のパズルはデザインが決まっていますが、このアプリなら思い出の写真や大切な写真でオンリーワンのパズルが作れるので、より楽しめると思います」
大学院2年生の尾崎正和さんは、誰しも子どものころに遊んだ「あっち向いてホイ!」をiPadと楽しめる「Look that way!」のアプリで受賞を手にしました。FaceTimeカメラで顔の上下左右の向きをとらえる仕組みで、実際に頭を動かして楽しむのが特徴です。
「コロナ禍のなか、自宅から出られなくなったことが影響してか、祖父の認知機能がちょっとずつ低下しているのを感じたんです。認知機能の低下を防ぐには、頭を使うだけでなく運動をして体を動かすことが大事だと知ったため、両方を使う手軽な遊びを考えました。画面のアニメーションと音がぴったりシンクロするようチューニングし、違和感なく楽しめるように仕上げました」
大学4年生の山口響也さんも、秋岡菜々子さんと同じく2年連続での受賞となりました! iPadとApple Pencilを使って1フレームずつ絵を描き、それを基に作成したアニメーションをARで壁などに表示して楽しめる「Graffiti」アプリが受賞をつかみました。
「僕はiPadもApple Pencilも持っているのに、残念ながら絵がうまくないんです。どんな人でも楽しく絵が描け、描いた絵を壁やテーブルに貼り付けて楽しめるアプリを作りたいと考えました。作成した絵を現実世界と一緒に動画で撮って残せるので、仲間や家族とわいわい楽しめると思います」
受賞者の1人はあの「日経空間版」アプリを手がけていた!
冒頭で、今年のSwift Student Challengeの日本人受賞者は快挙ずくめと紹介しましたが、受賞者のなかにはすでに大手企業でアプリ開発に携わっている凄腕の学生もいました。「Look that way!」のアプリを作った尾崎正和さんで、実は日本経済新聞の紙面がApple Vision Proで見られる「日経空間版」アプリの開発に大きく貢献した人物なのです。
「僕が赤ちゃんの時に初めてつかまり立ちした時、机の上にあった父親のキーボードに手を掛けていたそうなんです」と幼少期のエピソードを笑顔で語る尾崎さん。自由に使えるパソコンが自宅にある環境で育ったこともあり、小学校低学年のころにはブロックプログラミングを操っていたそう。中学生になると、コードを書いてプログラムを作成するほどになりました。
尾崎さんが本格的にアプリ開発を手がけるきっかけとなったのが、かつてアップルストアの初売りで売られていた「Lucky Bag」でiPod touchを手にしたこと。「このiPod touchでiOSに触れ、ものすごい可能性を感じました。まさにビビッときた感じです。Lucky BagにMacでもなくiPod nanoでもなくiPod touchが入っていたことが、間違いなく僕の人生を変えました」と振り返ります。
そんな尾崎さんですが、昨年のSwift Student Challengeでは残念ながら落選したそう。「過去のSwift Student Challengeの応募作品は多くの人が公開しているので、受賞した作品と受賞できなかった作品の両方を徹底的にチェックしました。多くの人は受賞作品だけを見ると思いますが、受賞できなかった理由がなぜかを分析するのも大事だと感じています」
今回受賞したアプリ「Look that way!」の制作では、身の回りの人の課題を解決することを第一に考えたそう。「アプリは自分のために使うことがほとんどですが、周りの人にとって役立つ内容の方がインパクトがありますから」
すでにApple Vision Pro用アプリの開発も手がけている尾崎さん。「iPhoneやiPadの画面は2次元の長方形の枠の中だけにとどまりますが、Apple Vision Proは自分が見える範囲の空間を自由に使えるのが魅力ですね。2023年夏に参加したApple Vision Proのデベロッパーラボで実機に触れて衝撃を受け、日経空間版のアプリを作ろうと決意しました」と振り返ります。
プログラミングに興味を持つ学生に向けてのアドバイスとしては、「目指すことがないまま単純にプログラミングをやりたい、と考えるのではなく、日常生活での困りごとに対してこういうアプリがあったらいいな、こうなったら便利だな、という考えを大切にしてほしいと思います。常に好奇心を持ちつつ、身の回りの不満を解決する方法を探ってほしいですね」
「僕みたいな極度の“新しもの好き”になると、すでに世の中にあるものに満足できなくなっちゃうんです。新しいものを作れないか、常に考えていますね」と語る尾崎さん。尾崎さんの考えに共感する人は、各地のアップルストアで9月初旬まで開かれている無料のToday at Apple「Appleとコーディングを楽しむ夏」に参加し、プログラミングの第一歩を体験するのもよいでしょう。