2024年10月8日にPlayStation 5(PS5)とSteamで発売予定の「SILENT HILL」シリーズ最新作『SILENT HILL 2』。2001年にPlayStation 2(PS2)で発売された『SILENT HILL 2』のフルリメイク作品だ。
開発は『Layers of Fear』や『The Medium』といった作品を手掛けたポーランドの「Bloober Team」が担当。加えて、オリジナル版を手掛けたクリエイターであるコンセプトアーティストの伊藤暢達氏、コンポーザーの山岡晃氏も参加している。
2022年に開発の発表があり、続報が待たれていた本作の世界最速試遊会がメディア向けに開かれた。体験時間はなんと4時間! シリーズのなかでもファンが多く、最高傑作とうたわれる『SILENT HILL 2』は、どのように生まれ変わったのだろうか。PS5版の“たっぷり試遊”でわかった、リメイクの進化要素をお届けする。
追加エンディングも実装? 制作陣が明かすリメイクの新要素
20年以上の時を経てよみがえった『SILENT HILL 2』。サバイバルホラーと称されることもあるが、公式にはサイコロジカルホラーと銘打たれている通り、主人公の心理に深く踏み込むストーリーや演出が本作を大きく特徴づけている。
シリーズの始まりは、1999年に発売された『SILENT HILL』。登場人物の暗い内面に切り込むストーリー、不気味かつ記憶に残る強烈な個性をもったクリーチャーデザイン、静的な緊張と恐怖を高めるサウンドなど、シリーズ特有の魅力は多くのファンを生み、多数の後継作に加え、映画や小説などメディアミックス作品も作られた。
新作は2013年発売のPS Vita向けタイトル『Silent Hill: Book Of Memories』からしばらく途絶えていたが、2022年にシリーズの復活がアナウンスされた。その後、2023年にはインタラクティブ・ストリーミング・シリーズ『SILENT HILL: Ascension』が、2024年2月にはPS5向け無料タイトル『SILENT HILL : The Short Message』が配信されたが、メインタイトルのゲーム作品としては本作『SILENT HILL 2』がシリーズ復活の第1弾となる。
ちなみに『SILENT HILL 2』は、第1作と物語の舞台が共通するものの、「2」のみで独立して楽しめるストーリーなので、1作目未プレイでも全く問題ない。
試遊会のオープニングでは、シリーズプロデューサーの岡本基氏、コンセプトアーティストの伊藤暢達氏、コンポーザーの山岡晃氏、開発会社であるBloober Teamといった主要制作陣が壇上に並び、改めてリメイクの見どころについての紹介が行われた。
リメイクでは、グラフィックやサウンドが進化しただけでなく、フェイシャルモーションキャプチャーによる感情表現豊かなカットシーン、ドッジ(避ける)、射撃エイム(狙う)といったシステムを追加。さらに、探索エリアが拡張されたほか、いくつかのエンディングも追加実装される。カメラは、オリジナルの見下ろし視点から、キャラクターの目線に近い肩越し視点に変更された。
なかでも、原作プレイ済みの筆者が驚いたのは、エンディングの追加だ。ストーリーが高く評価されている本作だけに、エンディングはストーリー全体の印象を大きく左右する重要な要素。20数年ぶりの「新解釈」がかなり気になるが、今回の試遊ではもちろん確認できない。製品発売が待ち遠しくなる。
シリーズの再始動を担う本作について、プロデューサーの岡本氏は「自信を持ってお送りできるクオリティ」と太鼓判。「ぜひ本作をプレイしていただき、シリーズを支えるファンの皆様に、今後展開するシリーズ作品のクオリティについても安心していただければ」と語った。これはかなりの期待ができそうだ。
では、実際にどのように生まれ変わったのか。街の探索、戦闘、謎解きなど、試遊でわかったことを詳しく見ていこう。
霧の街に深く潜り込むような没入感がすごい新生『SILENT HILL 2』
物語は、3年前に妻・メアリーを病気でなくした主人公・ジェイムスのモノローグで幕を開ける。死んだはずの妻から届いた、ありえないはずの手紙に誘われ、ジェイムスはかつて妻と訪れた思い出の土地「サイレントヒル」に向かう。
冒頭のシークエンスで、物悲しさと心地よさが同居するBGMが流れる。原作でも印象的だった音楽だ。グラフィックもサウンドも、PS2時代から新しく生まれ変わっているにもかかわらず、湖を見下ろし、街へと歩き出すまでの流れは、まさしくあの『SILENT HILL 2』である。
車を降りたあとは、サイレントヒルまで徒歩移動。原作では、街に着くまで延々と長い道を歩くのだが、今作には、ちょっとしたチュートリアルや寄り道が用意されていて、飽きない工夫が施されていた。一方で、霧が深まるなか、徐々に街へと潜り込むような、サイレントヒルらしい体験も損なわれていない。冒頭からバランスの取れた調整が感じられる。
到着した「サイレントヒル」は濃霧に包まれており、まるでゴーストタウンだ。街を覆う霧の表現は圧倒されるほど見事で、プレイヤーとしては帰りたくなるほど陰鬱な雰囲気を醸し出している。
しかも、屋内は明暗のメリハリがあって、暗がりが本当に怖い! 道中で手に入れた携帯ライトは、闇を照らすのはもちろん、地図を見るのにも必要だが、使用中はクリーチャーに気づかれやすくなるリスクもある。とはいえ、屋内の探索に明かりは必要不可欠。破壊可能な壁を見つけなければ進めないこともあるので、クリーチャーとの戦闘を覚悟してでも明かりは灯したほうがいいだろう。
なお、探索で役立つ新要素として、「ガラス破壊」がある。武器となる角材を手に入れれば、放置された車や一部の建物で窓ガラスを割ることができるため、やろうと思えば、パトカーの車上荒らしも可能。攻略に関係なさそうでも、回復アイテムや弾薬、住人のメモなどが手に入ることもあるので、壊して回るのもいいかもしれない。
クリーチャーとの戦闘はあれど、バトルゲームではない
サイレントヒルでは住民が見当たらない代わりに、異形のクリーチャーが道を阻む。ときには勇気をもって戦わなければならないときがある。
実は、原作のバトルは退屈と評されることが多い。開発陣もそのことは把握していたらしく、試遊前のトークではテコ入れを行った旨の説明があった。
一方で、ユーザーのなかには原作の演出意図を汲み取って、バトルに力点が置かれていない点を『SILENT HILL 2』らしさと捉える向きもあった。そのため、トレーラーで近接武器とハンドガンを巧みに使い分けて戦う主人公の姿を見た一部のファンからは、ゲームのテイストが変わってしまったのではないかという懸念が吹き上がった。
このような経緯もあってのことだろうか。試遊前にはコンセプトアーティストである伊藤氏が「バトルゲームではない」と強調する場面があった。
実際にプレイしてみるとどうだろう。まず、追加アクションである回避が重要な役割を果たすのは間違いなさそうだ。最初に遭遇するクリーチャー「ライングフィギュア」でも危険な攻撃を仕掛けてくるため、一方的に殴って打ち倒すのは難しく、予備動作を見て避けないと、難易度ノーマルでもあっという間に体力がなくなる。
反対に、回避のゴリ押しで進めるかというと、そうでもない。回避アクションは連打することもできるが、プレイヤーが攻撃する際にはどうしても隙が生まれるため、敵のノックバック(ひるみ)を発生させていなければ、被ダメージリスクは高まる。また、複数の敵に囲まれると回避を連打したとしても逃げ切るのは難しい。
試遊の範囲で使えた武器は、近接武器である角材とハンドガン。原作では武器の切り替えをメニュー画面で行う必要があったが、今作では近接武器とハンドガンをシームレスに切り替えられた。物語が進行して、武器種が増えたときにどうなるかは気になるところだ。
ハンドガンは、構えてから照準が絞られるまでに時間差がある。つまり、とっさの対応は難しい。照準が絞られるまでの緊迫感が、恐怖と焦りを駆り立てるうまい演出になっていると感じた。
また、今作はクリーチャーごとに動きのバリエーションが原作よりも増えている。さらに、同じクリーチャーに見えても、見た目が少し異なり特有の攻撃パターンを仕掛けてくる亜種も出現。クリーチャーの特徴や、配置に合わせた対処をする必要があり、原作より戦略性が増したと言えるだろう。
初見では対処に苦労する敵の配置もあり、序盤では回復アイテム、弾薬ともにカツカツ。全ての敵を倒しながら進むのは難しいと感じた。そのため、戦闘が必要な場面を見極めながら、ときには逃げ隠れする選択も必要になる。
結論、常に戦い続けるわけでもなく、すべてをアクションで解決するゲームではないと感じた。後半になれば武器も増えるので、また別のプレイフィールが用意されているかもしれないが、少なくともトレーラーのようにスタイリッシュにプレイするにはそれなりの習熟が必要だろう。忙しい操作よりも、敵を観察して、考えながら冷静に対処するスキルが求められる印象だ。
謎解きはけっこうシビア。恐怖のなかで冷静な観察力が試される
道を阻むのはクリーチャーだけではない。ギミックの謎を解いて道を拓くシーンもかなりあった。
シリーズの伝統として、謎解きの難易度設定も用意されているぐらい、サイレントヒルの謎解きは歯ごたえがある。原作をプレイしていれば余裕に感じられる……なんてことはなく、今作もしっかり頭を働かせる必要があった。 変更のポイントは2つ。第一に、原作にはないギミックが増えている。アパートにたどり着くまでに街を探索する機会が増え、アパートでも新しい謎解きが待ち受けていた。
もちろん、原作で印象的だった謎解きも残されている。コインや時計の針……と聞けば、原作プレイ勢には馴染みがあるはずだ。しかし、既プレイの記憶が、かえって攻略を妨げることもあるかもしれない。なぜなら、原作と共通のモチーフが用いられながら、アレンジが加えられているからだ。
これが第二のポイント。「あー、あの謎解きね」と余裕かましていると、「あれ、なんか違うな……」とドツボにはまるかもしれない。筆者は原作をプレイしているにもかかわらず謎解きで詰みかけて、会場のスタッフに助けを求めた。だって、時間内にできるだけ先に進みたかったから……。
グラフィックの進化によって高まった感情表現
カットシーンの人物描写にも触れておこう。試遊の範囲では、登場人物のうち、アンジェラ、エディ、(ちょっとだけ)ローラと会えた。
『SILENT HILL 2』のキャラクターは、危うさを感じる人物が多い。何やら事情がありそうな、情緒不安定な様子を垣間見せる彼・彼女の感情表現は、原作よりもさらに深まっているように感じた。
ちなみに、シリアスなカットシーンばかりではなく、ジェイムスのさりげない行動において、表情が読み取れるのも地味にうれしい。ジェイムスがどんな気持ちで行動しているか、原作ではわからない場面もあったためだ。
3D音声によって、環境音による恐怖演出もレベルアップしている。本作には、クリーチャーが近くにいるとラジオノイズが鳴るという特徴的なシステムがあるが、クリーチャーのなかには、動き出すまでラジオが反応しない、いやらしいヤツもいる。
もしも背後に潜むクリーチャーに気づかなければ……、本当に背後から襲われたような気分になる。試遊の後半になると、会場内からは参加者の悲鳴が何度も上がっていた。
システム設定にも触れておこう。PS5とSteamに対応しているだけあって設定項目も充実していた。特に印象的なのがUI設定だ。
たとえば、プレイヤーが干渉できるアイテムやオブジェクトに対して表示されるアイコンについて、有無や大小を変えられる。大きさについてはいくつか段階が用意されており、好みに応じて没入感を阻害しない設定ができそうだった。
また、本作の特徴の1つ、敵の存在を知らせるラジオノイズについても、サウンドだけではなく、画面隅に視覚的に波形を表示することもできる。音声を絞ったプレイやユニバーサルデザイン面にも配慮されていると感じた。
演出に特化した「90年代モード」というグラフィックモードもあった。選択すると、画面全体にざらついたエフェクトのようなものがかかり、暗い部分が増える。どことなく、ブラウン管テレビを彷彿とさせる画面になるのだ。
『SILENT HILL 2』の時代設定は諸説あるが、後年に出たシリーズ作品などを踏まえると、90年代前半が有力とされている。つまりゲームの舞台設定に合わせて、ブラウン管で見るような画面でプレイできるように用意されたモード……と推察したが、詳しい演出意図を聞けなかったので、別の機会に改めて確認したいところである。
そして三角頭戦へ
さて、試遊も終盤。道中、何度かゲームオーバーになったものの、なんとか最初のボス戦まで辿り着いた。キャラクター、クリーチャー、インタラクション可能なオブジェクトが強調表示される「ハイコントラストモード」を使ったり、会場スタッフに助言を求めたりと、なりふり構わず進めたので、普通に進めて4時間でたどり着くのは難しいだろう。
登場したのは、シリーズの看板クリーチャー「レッドピラミッドシング(通称、三角頭)」。リアルになった分、頭部が硬そうに見える。原作では鳥瞰視点なので気にならなかったが、いざ肩越し視点でエイムができるようになると、ヘッドショットに意味があるのか不安になってくる。
相手の攻撃は、大振りだが油断はできない。スペースを十分に活用して距離を離して戦いたいところだ。が、弾薬も尽きてしまう。なかなかのタフさがあるうえ、一撃が痛い。焦る一方で、「三角頭はそうでないと!」という気持ちも湧き上がる。
ともあれ、なんとか撃退。三角頭とはこれから長い付き合いになりそうだ、というところで試遊は終わった。
プレイを終えると、どっと疲労感に襲われた。まさにジェイムス本人として霧の街の危険な探索を終えたような錯覚に見舞われる、4時間の濃密な体験がもたらした疲れだ。
序盤の試遊ではあるものの、すでに知っているはずのさまざまな要素が全く新しい体験として生まれ変わり、思い出補正をいい意味で吹き飛ばすクオリティを感じられた。本作は新旧どちらのプレイヤーにとっても、印象深い作品になりそうだ。