試遊を終えたあとは、プロデューサーの岡本基氏(以下、岡本氏)、伊藤暢達氏(以下、伊藤氏)、山岡晃氏(以下、山岡氏)、Bloober TeamへのQ&Aセッションと合同インタビューの時間が設けられた。
オリジナルチームが復帰した経緯、カメラ視点の工夫、アンジェラの顔が原作から変更された理由、原作への思いなど、気になる色々について回答を得た。
グラフィックで特にこだわったのは霧の演出
――オリジナルメンバーである山岡氏と伊藤氏はどのような気持ちでリメイクに取り組みましたか?
山岡氏:この作品をまさか作り直す日が来るとは思いもよらず。リメイクへの取り組みは、まるでセルフカウンセリングのようでした。原作の制作当時、自分はどういう生き方をしていて、どんなことを考えて『SILENT HILL 2』に挑んだのか、思い出そうとしたんです。
たとえば、原作の制作時には、お金がなかった。ベースが買えなくて、「Theme Of Laura」には、実はベースではなく、ギターのチューニングを下げてベース音として使っているんです。そういうギリギリの制作環境でも、いいものを作りたい、尖ったものを作りたいという気持ちがあった。
でも、今回のリメイクを作るときには、そういった当時の気持ちや葛藤なんか忘れちゃってて。この曲どうやって作ったんだろうとか、自分との問答がすごく苦しかったですね。とはいえ、このような形でお送りすることができてうれしいです。
伊藤氏:2019年ごろに岡本さんからリメイクに参加してくれないかと打診された時点では断ろうと思いました。オリジナルをいじる必要が全くないと思っていたんです。ただ、全く違う方向性になってしまうよりは、原作のストーリーテリングや体験の核だけは引き継いでもらうために、参加することにしました。
岡本氏:伊藤氏、山岡氏ともに非常にクリエイティビティが高いため、実はプロジェクト開始時点では、ゼロベースで完全新作としての『SILENT HILL』を作ることも議論したんです。クリーチャーのデザインを全て一新するアイデアも出ました。
伊藤氏:最終的には原作を尊重する形でリリースすることになりましたが、原作をまだやったことのないプレイヤーに対して、原作のインパクトを当時よりもさらにブラッシュアップした形で伝えるという、個人的に目指していた目標は達成できたと思います。
岡本氏:『SILENT HILL 2』は非常に長く愛されてきたタイトルで、ファンの考察も盛んなタイトルです。オリジナルに携わったお2人の参加によって、作品世界について深く掘り下げながら作ることができたのは、作品にとって非常にプラスでした。
――リメイクで新たに書き下ろされた楽曲はありますか?
山岡氏:全曲作り直しています。すべて合わせると9時間超。リメイクを原作に忠実に作るのは、ある意味、簡単なんです。20年以上前の音楽が今も愛されているのは、それはそれでうれしいんですけれども、シリーズファンにも、新しく知る人にも伝わる感動や興奮を描ければと思い、オリジナルにあったパートを使いつつ、新たなサウンドを作りました。
――クリーチャーにはどのような変更が加えられていますか?
伊藤氏:全く新しいクリーチャーではなく、原作のクリーチャーに微妙な違いを加えて、バリエーションを増やしています。ちなみに数体、ある人物のストーリーを踏まえて、オリジナル版で「こうしたら良かったのに」という思いがあった部分について改変を加えたクリーチャーがいます。プレイしていただければ原作との違いがわかると思うので、その違いを考察していただくのも今回の楽しみの1つとなっています。
――シリーズ初心者向けに気を使った点は?
岡本氏:原作にもある要素ですが、初めてでも遊びやすいように戦闘、パズルそれぞれに難易度を選択できます。また、日本版に関しては吹き替えを入れています。字幕でゲームを遊ぶことに慣れていない方でも広く遊んでいただけると思います。
――グラフィック表現について、特に注力した点について教えて下さい。
Bloober Team:特に気をつけたのは、霧の演出です。一般的なホラー作品で注力される血の表現やゴア表現は原作の趣旨ではないため、力点を置いていません。
伊藤氏:霧の演出についてはBlooberTeamにかなり口酸っぱく注文をつけました。だから僕に対してBlooberTeamは嫌な思いを抱いているかもしれません(笑)。『SILENT HILL 2』における霧は、ストーリーの核心をセリフではなくビジュアルで表現するうえでも重要な要素です。その点を踏まえても、霧のグラフィックはリメイクにおいて最も成功した点だと感じています。
――本作のフェイシャルキャプチャーは他作品と比べても高クオリティに感じました。どのように制作を進めたのでしょうか。
Bloober Team:本作が情緒に訴えかける物語であることを踏まえ、カットシーンやキャラクターの表情は完璧以外許されないつもりで制作しました。特に表情や口周りの動きは、キャラクターの表現を最大限伝えるうえで妥協できない要素です。そのため、俳優の選定はもちろん、3Dモデル等においても、私たちだけではなく、優秀なパートナーの助力も得て完璧なクオリティにすべく仕上げました。
――キャラクターの見た目について、特にアンジェラはかなり原作から変わっています。どのような理由で変更されたのでしょうか。
岡本氏:アンジェラに限らず、本作はキャラクターをリアルに表現するにあたって、モデリングによってイチから顔を作る手法ではなく、俳優の顔をフォトスキャンし、フェイシャルキャプチャーを使用することにしました。そのため、顔の造形が、実際にキャラクターを演じる俳優に似せて作られています。キャスティングは、顔の造形だけではなく演技力も含めて決めたので、原作と異なる印象を持たれるかもしれませんが、俳優の演技力でアンジェラの魅力を表現できたと考えています。
視点変更はマップや演出にも大きく影響
――カメラ視点の変更で苦労したポイントはどこでしょうか?
Bloober Team:肩越し視点のカメラへの変更を最大限活用するために、既存のマップを再構成する必要がありました。特に屋内のマップは、肩越し視点のカメラでプレイヤーが探索するうえで非常に探索しがいがあるように、一新しています。また、部屋の移動がシームレスになったため、恐怖演出もシームレスな移動に合わせて再構築しました。
――戦闘における恐怖演出の工夫はどのようなものがありますか?
Bloober Team:やはり視点の変更が影響しています。三人称の肩越し視点に変えることによって、クリーチャーのデザインや挙動を、今回のカメラスタイルに合わせて変える必要がありました。
たとえば、主人公を操作する際の自由度が増した分、クリーチャー側の動きも変わっています。地上を這い回って動くものや、飛び道具で攻撃するもの、戦闘から離脱して隠れてしまうものなど、さまざまな挙動を盛り込むことによって、出会うクリーチャーが何をしてくるか、常にわからないという不安をプレイヤーに与え、緊張感を高めています。
――最後に、皆さんが考える『SILENT HILL 2』ならではの魅力を教えてください。
Bloober Team:3つあります。1つ目はプレイヤーの心に刻まれるストーリー。2つ目は、作品全体を覆う、ほかの作品では見られない独特の雰囲気。3つ目はまるで実在しているかのように感じられるぐらい設定が作り込まれ、プレイヤーの心に刻まれるキャラクター。私たちは原作に対して、非常に深い愛情と思い入れを持っています。今回のリメイクでは、ゲームプレイ全体のあらゆる要素を深く見つめ直して、現代のゲーム体験として成立することを目指しました。ぜひ実際にプレイして体験してもらいたいです。
岡本氏:世界中のスタジオから手が上がりましたが、なかでもサイレントヒルに対しての愛情が非常に強いチームがBloober Teamだったんです。彼らがすでに挙げましたが、私にとっても、『SILENT HILL 2』は、ストーリーが特別だと思っています。特にエンディングの苦さ、ハッピーエンドにならないところですね。
山岡氏:僕らにとって『SILENT HILL 2』はホラーゲームというよりも、ジェイムスとメアリーの愛の物語。1つのかけがえのない“体験”だと思っています。システムが良い、グラフィックが良いということではなくて、ゲーム機の電源を入れて、画面で映像を見て音を聞いて、コントローラーを持ってという体験がユーザーの心に残ったのではないでしょうか。
「街にたどり着くまでが長くて苦痛」とか、「あの三角頭のクリーチャー、よく分かんねえな」とか。原作にある、そういうチグハグな部分も含めて、当時のメンバーがオリジナリティを持って作ったものが、ユーザーの心に長く残る体験として届けられた。だからこそ、ここまで長い年月の間、愛され続ける作品になったと思っています。
伊藤氏:こんなに長く愛される作品になるとは制作当時は思いませんでした。1作目制作後、サイレントヒルチームにはデザイナーが数人しかいなかったんです。にもかかわらず、開発期間は決まっていて、予算は少ない。いいものを作るためにどうすればいいか手探りの状況でした。
そのため、1作目で指摘のあったバトルデザインの優先度を下げると決めたんです。その分、ストーリーや、ゲームプレイの体験、道のりを重視しました。主人公が抱えている感情をセリフで語るのではなく、霧や、クリーチャーの象徴性によって表現することに力を入れたんです。そうやって、僕らにしか作れないものを作ろうとして生まれた結果が、『SILENT HILL 2』の一番の肝だと思っています。
――ありがとうございました。
現在、新しいトレーラーが公開されている。マリアが登場しているシーンを軸に、オリジナル版のトレーラーをオマージュした構成で、初披露となるエディーの姿なども確認できる。4時間の試遊でも、明かされていない要素はまだまだ多い。10月8日の発売まで、続報も要チェックだ。