多くの経済活動や生活インフラは、IT基盤の上に成立しています。システム障害などが原因で、私たちの生活を直撃するリスクが高まりました。東日本大震災や北海道胆振東部地震では、携帯電話サービスが長時間ストップしました。災害時の障害はどんなもので、なぜ起きるのか、また災害に備えた準備についてまとめます。

災害時の携帯電話サービス障害

地震や台風などの大規模災害では、携帯電話サービスの障害が発生します。東日本大震災では、基地局への光ファイバーの切断・停電・輻輳などにより数日間不通となりました。2018年に起きた北海道胆振東部地震では、停電により携帯電話サービスが長期間ストップしています。

スマートフォンと携帯電話サービスはライフラインであり、特に災害時は情報収集や安否確認、不安感の解消のためにどうしても必要なもの。しかし現実には、巨大災害時には携帯電話サービスはいくつかの要因でストップすることがあります。

その要因をまとめたのが以下の図です。ひとつ目は「輻輳」(ふくそう)です。輻輳とは、電話やデータ通信が集中したときに、回線がパンク状態になって繋がりにくくなる現象です。一度輻輳が起きると解消するのが難しいため、携帯電話会社では輻輳を防ぐために通信制限をかけます。たとえば巨大地震では「通話制限」や「データ通信の流量制限」をかけます。電話や通信をあえて止めることで、輻輳を防ぎ、119番や公衆電話などの非常通信を優先させます。

  • (イラスト:タラジロウ)

光ケーブル切断など物理的被害

ふたつ目は物理的な切断・崩壊です。災害で起きやすいのは基地局とデータセンターを結ぶ光ファイバーが切断し、基地局からの電波が止まる事態です。めったにありませんが、基地局タワーや基地局が置かれているビルが崩壊することもあります。東日本大震災では、太平洋沿岸部の基地局に物理的ダメージがありました。

これらの切断・崩壊への対処として、移動基地局や臨時の基地局が派遣されます。そのため各携帯電話会社は、大型のワゴンや専用トラックを使った移動基地局を全国に配置しており、巨大災害時は全国の移動基地局が被災地に向かいます。東日本大震災の時点では移動基地局が少ない会社もありましたが、震災の反省をもとに台数を増やして災害対策を強化しました。また大ゾーン基地局と呼ばれる、1か所の基地局で広いエリアをカバーする臨時基地局も準備されており、北海道胆振東部地震でNTTドコモが運用しています。

影響が大きいのは停電→基地局ストップ

三つ目は停電で、災害時にはこの影響が一番大きいと言えるでしょう。たとえば北海道胆振東部地震では停電が長期化したため、携帯電話サービスが長期間ストップしました。被災地の取材では経験的に「信号機が停電で止まったエリア=携帯電話が使えないエリア」だと認識されていました。

ほとんどの基地局では、停電に備えて非常用電源が用意されています。災害時のバックアップと言える非常用電源ですが、稼働時間は短いと数時間、長くても1日から2日程度が中心です。短い停電であればカバーできますが、停電が半日を超えたあたりから、基地局が動かなくなってしまいます。

そのため被災地では、「災害直後は携帯電話が使えていたのに、少し時間が経ってから圏外になる(携帯電話サービスが止まる)」という事態が発生することがあります。これらの対策として、携帯電話各社では移動電源車を多数用意しています。移動基地局と合わせて、災害対策の要となります。

災害に遭ったらスマホでやるべきこと

では、私たちは災害に遭ったら、どんな対処をすればいいのでしょうか。まず安否確認ですが、前述したように輻輳(パンク)対策として、災害時には通話制限がかけられます。非常通信を守るためにも、音声電話での安否確認はするべきではありませんし、制限によってできなくなる可能性が高くなります。

それに対して、データ通信は制限対象になる可能性は低くなります。過去の災害では、電話はつながらないがメールやメッセンジャーは使えた、という事例が多くあります。

普段使っているSNSやメッセンジャーで、無事であることを全体公開でアナウンスしましょう。LINEならタイムライン、SNSではX・フェイスブック・インスタグラムなど、誰もが見られる場所に無事であることを投稿しておきます。普段から家族や友人とSNSやメッセンジャーで連絡がとれるように、アカウントを準備しておくことも大切です。

また、災害時は各社の災害伝言板が稼働します。携帯電話会社のトップページから、災害伝言板に自分が無事であることを登録しておきます。自分の携帯電話番号を登録するだけで利用できます。また、NTTでは災害伝言ダイヤル(171)も稼働しますので、離れた地域にいる親戚などに向けて無事であることを録音しておきます。

災害から少し経つと、無料の災害用Wi-Fi「00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)」が動きます。誰でもパスワード(暗号化キー)なしで使えるWi-Fiです。フリーWi-Fiがある避難所、役所など公共施設、駅周辺、コンビニ周辺などで利用できます。圏外になってしまうようなら00000JAPANが使える場所を探しましょう。

災害時のスマホバッテリー対策

災害での停電は、私たちのスマートフォンにとっても死活問題です。スマホの充電ができなくなるわけですから、少しでもバッテリーを長持ちさせる必要があるのです。災害や停電時のスマホ電池節約術をまとめたのが以下の図です。

まずは当たり前ですが、スマホを極力使わないことが基本。特に動画・ゲームなどバッテリーを大きく消費するものは使わないようにします。

節約術のひとつ目はスマホの省電力機能を使うこと。iPhoneなら「低電力モード」Androidでは機種により名称は異なりますが「バッテリーセーバー」などの省電力機能を設定で有効にしてください。

ふたつ目は液晶画面をできるだけ暗くすること。スマホでもっとも電池を使うのは液晶画面なので、画面をできるだけ暗くすれば長持ちします。

またアプリの通知をオフにする、ロック解除時間を短くすることも大切です。各種アプリの通知がオンだと、そのたびに画面を点灯するため、バッテリーを使ってしまいます。アプリの通知はほぼすべて切って、重要なLINEの通知などだけ生かしておきましょう。同様に、画面が自動的に暗くなる画面ロックの解除時間を短くしておいてください。

最後は、停電が長引いて圏外になった場合の対処です。もし停電が長引いて携帯電話サービスがストップ(圏外になる)したら、電池節約のために機内モードにすることをお勧めします。

圏外だとスマホはフルパワーで電波を出して基地局を探すため、電池が早くなくなってしまうからです。機内モードにして利用できるならWi-Fiを利用しましょう。

災害対策は事前の準備が大切

災害に備えてスマホの準備も欠かせません。

上の図にまとめましたが、まずはモバイルバッテリーを持っておくこと。容量としては1万mAh(ミリアンペアアワー)以上あれば、スマホを2回から3回は充電できます。価格は2,000~4,000円程度ですから、ひとり1個持っておくべきでしょう。ネット通販が間に合わない場合は、家電量販店で購入し、災害が起きる前にフル充電しておきましょう。

そして安否確認のために、複数の連絡手段を用意しておくこと。メールやSMS(ショートメッセージ)、LINEなどのメッセンジャー、XやフェイスブックなどのSNSなど、複数の連絡手段を確保しておきましょう。また災害伝言板・災害伝言ダイヤルでの安否確認の練習もしておくべきです。毎月1日に試験運用されていますから、離れた親戚・高齢者などのために一度使ってみるといいでしょう。

また台風や水害などでは防水スマホがあると安心です。次の機種変更時には、防水機能があるスマホを選ぶことを勧めます。

そしてスマホが使えなくなることを想定して、乾電池式ラジオを防災リュックに入れておくことも忘れずに。数千円で購入できますから、予備の乾電池とともに購入してください。余裕があればワンセグのテレビも見られるラジオがあると便利です(ただし、電池の保ちはよくないので注意)。

災害大国である日本では、スマホの災害対策が欠かせません。災害リュックと合わせてスマホの災害準備もしておきましょう。

深掘り! IT時事ニュース──読み方・基本が面白いほどよくわかる本

今回の記事は、テレビ・ラジオなどさまざまなメディアでニュースを解説してきたITジャーナリストの三上洋氏の著書「深掘り! IT時事ニュース──読み方・基本が面白いほどよくわかる本」(技術評論社刊、1,870円、発売中)から取り上げました。ワイドショーなどでもすっかりおなじみとなったIT時事ニュース。しかし、日々のニュースに関連するIT技術は進展が目まぐるしく、なんだかよくわからない、ついていけないと感じている人も多いのではないでしょうか。「SNSで炎上が頻繁に起こるのはなぜ?」「ネット犯罪はどんな仕組みで起こるの?」「生成AIってなにが問題なの?」といった気になるIT時事トピックについて深掘りしています。