iPadを購入するときには、誰もがモデル選びに頭を悩ませるでしょう。スタンダードのiPadを選んでも、Apple Pencilや専用キーボード、AppleCare+を含めれば10万円超え。また、最上位の13インチiPad Proともなれば本体だけで20万円オーバーになります。今のご時世、決して安い買い物ではありません。そこで、自分に最適なモデルがわからない!という人のために、iPadの機能・性能を左右する要素ごとに分けてiPadの見極め方をレクチャーしていきます。1回目のテーマは「チップ」についてです。
iPadに搭載されているSoCとは?
ノートブックPCやデスクトップPC同様に、iPadを買うときに必ずチェックすべきポイントの1つが「チップ」です。ひと昔のコンピュータでは演算処理を行うCPUや画像処理を行うGPUが別々のチップで搭載されていましたが、現在のiPadではCPUやGPUなどのプロセッサやコントローラなどを1つに統合したチップ「システムオンチップ(SoC)」が搭載されています。このSoCの性能が高ければ高いほど、iPadがより素早くさまざまな処理をこなすことができます。
最近はiPadでもMシリーズを搭載
iPadにはAppleが自社開発したSoCである「Appleシリコン」が搭載されており、世代ごとに名前が付けられています。現行のiPadシリーズでは、iPad Proは「M4チップ」、iPad Airは「M2チップ」、iPadは「A14 Bionicチップ」、iPad miniは「A15 Bionicチップ」です。
このうち「M」を冠したMシリーズはMacBookシリーズやMac miniにも搭載されるパソコン同様の処理性能を持ったチップであり、Mに続く数字が大きいものほど最新=高性能となっています。そのため、iPadを購入する際は、まずはMシリーズにするか、それ以前の世代のAシリーズにするかという見極めが大事になってきます。
MシリーズとAシリーズの差は?
では、MシリーズとAシリーズではどれくらいの違いがあるのか。Appleによると、M4はM2と比べてCPU性能が1.5倍、レンダリング(GPU性能)が4倍、M2はA14 Bionicと比べて最大3倍高速なパフォーマンスを発揮します。
また、CPUやGPU性能と並んで近年重要なのがチップ内で機械学習関連の処理を行う「Neural Engine」ですが、M4では(A14やA15より3世代古い)A11 Bionicに搭載された初のNeural Engineに比べて60倍も高速とされます。スペック上ではM4もM2もA14もすべて「16コアのNeural Engine」とだけなっていますが、その性能には大きな違いがあるのです。
チップの性能差をさらに詳しく知りたかったら、インターネットで公開されているベンチマークテスト結果を参照するとよいでしょう。有名な「Geekbench」のサイトによると、M4チップを搭載したiPad Pro(11インチ)のスコアは3691のところ、M2チップを搭載したiPad Air(13インチ)は2591、iPad(第10世代)は1564、iPad mini(第6世代)は2114(ともに1コアの性能)となっています。
「iPadで何をするか」が大事
このように性能だけを見ればM4やM2を選ぶのに越したことはないのですが、自分に最適なチップは「iPadを使って何をするか」によって変わってきます。AppleはいずれのiPad(どのチップ)もユーザが快適に使えるように設計しているため、Aシリーズ搭載機でも標準アプリやサードパーティ製アプリを使った多くの作業を難なくこなすことができます。言い換えれば、一般的なことをするだけなら、処理性能は"普通は"iPad(第10世代)やiPad mini(第6世代)で十分なのです。
では、Mシリーズはどのような場合に選ぶべきなのか。一言で言えば、それは高い負荷のかかる処理を行う場合です。たとえば、4Kや8Kなどの高解像度ファイルを扱う動画編集、リアルタイムで複雑なグラフィックを描画するゲーム、高解像度のモデルやアニメーションのレンダリングを行う3Dモデリングやアニメーション、そのほか音楽制作や科学計算、データ解析などが当てはまります。プロをはじめ、こうした高負荷な処理を頻繁に行う人はM4、またはM2を選んでおいたほうが正解でしょう。
ステージマネージャはMシリーズのみ
またもう1つ、MシリーズかAシリーズかの判断の分かれ目となるのが、「一部の機能の使用有無」です。iPadOSはさまざまな機能を提供しますが、この中で一部「Mシリーズ」でしか使えないものがわずかに存在します。
具体的には、ステージマネージャ、仮想メモリスワップ、拡大鏡のドアの検知と人の検知機能、画面との距離(これはチップというようりもTruedepthカメラ搭載有無による)です。
特にiPadOS 16で搭載された目玉機能であるステージマネージャは画面に開いているアプリやウインドウを自動的に整理し、マルチタスクを快適に行うのに便利な機能。人によってはまったく使っていない!という人もいますが、そのほかの機能も含めて詳細を確かめて自分に必要かを吟味すると良いでしょう。
ちなみに、仮想メモリスワップは、iPadのストレージの一部を仮想的にメモリとして使うことができる機能で、もっとも負荷の高いアプリケーションに最大16GBのメモリを提供します。
Apple Intelligenceを使う? 使わない?
このように「高負荷な作業をするかしないか」と「一部の機能の使用有無」が従来のiPad(チップ)選びの1つの判断基準だったわけですが、ここに来てもう1つ考えるべき重要な要素が出てきました。それは、これからの時代に多くの人が使うようになる「人工知能(AI)」の利活用です。
2024年6月10日(米国時間)に開催されたWWDC24でAppleは、AIではなく、パーソナルインテリジェンスシステムと呼ぶ「Apple Intelligence」を発表しました。今秋からiPadOS 18にベータ版が英語(米国)で利用可能となりますが、このApple Intelligenceが利用可能なのは「M1以降を搭載したiPad」となっています。つまり、iPad(第10世代)やiPad mini(第6世代)を購入しても、Apple Intelligenceを利用することができないのです。
Apple Intelligenceの日本でのリリース時期は明らかにされていないものの、個人的な予想でいえば1年後、また遅くとも2年以内には日本にもやってくる可能性が高いでしょう。そのため、今iPadを購入する場合は「Apple Intelligenceを使うか」も考えてチップ選びをする必要があります。
もちろん、Apple Intelligenceが出たときに新しい対応モデルを買い直すというのも1つの選択肢ですが、iPadの国内販売価格が年々高くなる昨今は、できる限り1台を長く使い続けたいという人のほうが多いはず。今秋リリース予定のiPadOS 18は2019年にリリースされたiPad(第7世代)やiPad mini(第5世代)もサポートするように、iPadは比較的長い間使い続けることができます。
そのため、Apple Intelligenceをリリース後すぐに使いたいのであればMシリーズを搭載したiPad(iPad Proがオーバースペックに感じるようならば、M2を搭載したiPad Air)を選ぶのが正解となります。チップ以外のポイント(ディスプレイやカメラ等)についても吟味して、自分に最適なモデルを選びましょう。
なお、Apple Intelligenceに対応したiPadやiPad miniが今後登場するのは間違いないでしょう。ただし、次期モデルでそれが実現するかはAppleのみ知るところです。