6月10日(日本時間)に開かれたWWDCの基調講演では、生成AI技術を用いた新機能「Apple Intelligence」の発表や、音声アシスタント「Siri」の大幅な進化が話題の中心となりました。基調講演の半分近くの時間を割いて説明するなど、アップル自身も相当力を入れていることがうかがえます。
基調講演後、米アップルでソフトウエア開発を統括するクレイグ・フェデリギ氏と、機械学習や人工知能戦略を担当するジョン・ジャナンドレア氏によるトークセッションが開かれ、Apple Intelligence開発の狙いや機能などの詳細が語られました。
iPhoneはあなたのすべてを知っている
「Apple Intelligence発表。Siri刷新/ChatGPT連携/プライバシー配慮も」の記事で詳しく解説している通り、Apple Intelligenceは生成AIの技術を用いてユーザーがやりたいさまざまなことを支援する機能です。
フェデリギ氏は「Apple Intelligenceは、iPhoneなどアップル製品のユーザーを中心に考えた機能。ふだん使っているアップル製デバイスに統合され、ユーザーを深く理解し、ユーザーにとって有用で関連性の高い提案をもたらし、ユーザーに力を与えてくれる存在。しかも、誰でも直感的に使えるものに仕上げた」と語ります。
その鍵となるのが、デバイスに保存されたメールやメッセージ、スケジュール、写真、動画などのデータを参照し、それらの内容をAIが分析しつつ予測も交え、最適な提案をしてくれる仕組みにあるとしました。その際、ユーザーはいくつものアプリをまたいでさまざまな情報を確認したり、情報をズラズラと入力する必要はありません。
「これまで、チャットボットに何かを質問しようとしたとき、それまで使っていたアプリを中断して別のアプリを呼び出し、必要な情報すべてを入力する必要があった。だが、いつもポケットに入れて持ち歩いているiPhoneは、あなたのすべてを知っている。それらの情報をすべて取り入れ、強力な生成モデルの力を組み合わせ、きわめて高度な提案をしてくれるようにした」(フェデリギ氏)
もちろん、大切な個人データを扱うからこそ、日ごろからアップルがもっとも重要な要素と位置づけているプライバシーにはひときわ留意していることも解説します。「パーソナルな情報を扱うだけに、プライバシー保護には細心の注意を払う必要がある。Apple Intelligenceは、ユーザーのデバイスに蓄積された膨大な情報を基に、プライバシーデータの要求があった場合のみオンデバイスで処理し、そのデータをクラウドに送ることはない」とジャナンドレア氏は語ります。
そのような基本思想ながら、より高度な分野の外部AIモデルの力を借りてApple Intelligenceをサポートする仕組みも整えました。「私たちは、素晴らしい知識を持つAIモデルがあることを知っている。より高度な専門知識を引き出したいと思った時、私たちがやっていることを補完するものとして、それらのモデルの能力をユーザーが活用できるオプションを用意した。ユーザー自身が許可したうえで、必要に応じてChatGPTの高度な構成と創造的な機能の一部を利用できるようにした」(フェデリギ氏)
今回はChatGPTとの連携を発表しましたが、将来的には他のモデルとの連携も検討していると言及。「最終的には、人々は特定のAIモデルを使いたいという嗜好を持つようになるだろう。文の創作に適しているモデル、コーディングに適しているモデルというように。だから、私たちは最終的にユーザーが自分の選択したモデルを持ち込めるようにしたい。将来的には、GoogleのGeminiのようなモデルとの統合も期待している」(フェデリギ氏)。
Siriはユーザーのことをより深く理解するようになる
Apple Intelligenceの搭載を受け、Siriも大幅に進化。「Siriはもはや単なる音声アシスタントではなくなった」と自信を見せます。
新しいSiriのキーワードは、ユーザーの意図や目的を理解する「セマンティック理解」だとしました。「Siriはメール、写真、動画、メッセージなどデバイス上のすべてのデータにアクセスし、そのデータの意味やユーザーの意図を深く理解する。これらすべてが検索用のインデックスの一部になり、Apple Intelligenceで利用できるようになる。時間の経過とともに、その理解はより豊かになり、よりスマートで役立つ存在になっていく」(フェデリギ氏)
「誰でも使える難しくない生成AI」がやってくる
Apple Intelligenceは、iOS 18、iPadOS 18、macOS Sequoiaに順次搭載されますが、利用できるデバイスはiPhone 15 ProとiPhone 15 Pro Max、Apple SiliconシリーズのM1以降を搭載したiPadとMacに限られるうえ、当初は英語のみの対応となる見込みです。
このように、日本の多くのユーザーにとっては当分縁遠い存在になるApple Intelligenceですが、難しいプロンプトを学んだり指示を入力する必要なく、誰もがスマートに最高のユーザー体験を得られる生成AIとして、現在の生成AIの常識を変えてくれる存在になりそうです。
かつて、使いこなしが難しかったモバイルインターネット端末を誰でも使える存在にしたiPhoneが登場して多くの人に普及したように、使いこなしが難しい生成AIをApple Intelligenceが誰でも使える存在にしてくれそうです。