Qualcomm Snapdragon 8 Gen 3を搭載するゲーミングスマートフォン「REDMAGIC 9 Pro」をお借りして試用しました。
結論から言えば、ライバル機種の在り方が変わりつつあるなか、純粋にゲーマーが求める性能・機能を突き詰めた従来路線のゲーミングスマートフォンを最新のスペックで手にしたいと考えるなら“買い”の機種です。
冷却ファンやLEDなどゲーミングデバイスらしさが詰まった個性的な外観
日本向けのラインナップではメモリ・ストレージの容量と本体カラーの組み合わせが3通りあり、12GB+256GBの「Sleet」は113,800円、16GB+512GBの「Cyclone」は139,800円、同じく16GB+512GBで色違いの「Snowfall」も139,800円。今回は白色のSnowfallをお借りしました。
やはりゲーミングデバイスと言えば、気分を盛り上げてくれるルックスを抜きには語れません。まずは外観からチェックしていきましょう。
背面パネルは透明で、ロボットアニメに出てきそうな近未来的なメカのようなパターンが印刷されています。そしてREDMAGICシリーズは本体内部にスマートフォンとしては珍しい冷却ファンを内蔵していることが特徴で、冷却中はファン部分をLEDでライトアップ。このほか、機種名(世代)にちなんだ「09」の文字部分や、側面のトリガーボタンが光ります。
「なんとなくメカっぽいデザインで光る」までは、よくあるゲーミングデバイスのイメージ通り。しかし、もう少し注意深く観察してみると、これが万人向けのスマートフォンではなくゲーマーのためだけの機種だからこそできる割り切りと工夫がデザインから見えてきます。
普通のスマートフォンなら今はカメラ競争の時代ですから、外観もとにかくカメラ性能をアピールするように強調したものが多いのですが、REDMAGIC 9 Proを眺めてみると、むしろゲームプレイ中は邪魔になるカメラの存在感を消していることに気付きます。
リアカメラはなんと、最近のスマートフォンではほとんど見かけないフラットな仕様(正確にはLEDフラッシュ部のみわずかに突起がある)。先述の冷却ファンの近くに広角・超広角の2つのカメラが並び、段差なく背面全体を覆うガラスパネルの下に隠されています。
この形状のおかげで、机に置いて「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」のような音楽ゲームをプレイする際も、さほど手の込んだ滑り止め対策をせずとも布を1枚敷く程度で問題なく遊べました。
そしてインカメラに至っては、使わない時は“消える”仕様です。アンダーディスプレイカメラ(UDC)という技術で有機ELの裏にインカメラが隠されており、ノッチやパンチホールなどで表示領域が欠けることもないという優れもの。角に余計な丸みのない形状や93.7%という画面占有率の高さと相まって、映像への没入感は格段に上がります。代償としてインカメラの写りはあまり鮮明ではありませんが、eKYC(本人確認)に使う程度であればなんとかなりました。
縦持ち時の右側、横持ち時の上側となる面を見ると、両端にタッチ式のショルダートリガーがあります。アプリごとに操作を割り当てることができ、単に画面内のどこかをタッチするのと同等の動作だけでなく、モーション検知と組み合わせたり2連続のアクションも設定できます。
側面中央の赤いスライダーを動かすと「ゲームスペース」が起動します。通常のホーム画面にゲームアプリを並べておかなくてもこちらのランチャー経由でゲームアプリだけを探し出して起動できるだけでなく、タッチ感度やGPUパフォーマンスなどの細かな設定も可能です。
低遅延の有線イヤホンが求められるシーンも多いゲーミングスマートフォンらしく、イヤホンジャックも搭載しています。ただ、イヤホンジャックもUSB Type-C端子も一般的なスマートフォンのような縦持ちを前提とした配置で、横持ちでゲームをする際には邪魔になってしまうのが少し残念。特に左上に来るイヤホンジャックはトリガー操作との相性の悪さが気になりました。
動作は快適そのもの。冷却ファンは急速充電時にも活躍
REDMAGIC 9 PROの主な仕様は以下のとおり。なお、評価機はメモリ16GB/ストレージ512GBのモデルです。
- OS:REDMAGIC OS 9.0(Android 14ベース)
- SoC:Qualcomm Snapdragon 8 Gen 3
- メモリ(RAM):12GB/16GB LPDDR5X
- 内部ストレージ(ROM):256GB/512GB UFS 4.0
- 外部ストレージ:非対応
- ディスプレイ:6.8インチ 2,480×1,116(20:9)有機EL リフレッシュレート最大120Hz
- アウトカメラ:広角5,000万画素+超広角5,000万画素+マクロ200万画素
- インカメラ:約1,600万画素 アンダーディスプレイカメラ(UDC)
- 対応バンド(5G):n1/n3/n28/n41/n77/n78
- 対応バンド(4G):1/3/5/8/18/19/26/28/34/41/42
- SIM:nanoSIM×2
- Wi-Fi:Wi-Fi 7対応
- Bluetooth:5.3
- バッテリー:6,500mAh
- 急速充電:最大80W(専用充電器付属)
- 外部端子:USB Type-C、3.5mmステレオミニジャック
- 生体認証:画面内指紋認証、顔認証
- サイズ:約163.98×76.35×8.9mm
- 重量:約229g
まずCPU/GPU性能に関しては、発売から5カ月ほど経った現時点でもAndroidスマートフォンとしてはトップクラスのものです。Qualcommの最新世代のハイエンドチップ「Snapdragon 8 Gen 3」に加え、メモリ・ストレージともに大容量かつ高速なものを採用しています。そして、普通のハイエンドスマートフォンでは排熱の問題でチップのパフォーマンスを十分に引き出せないこともありますが本格的な冷却システムを備えている効果もあって、重量級ゲームの長時間プレイにも耐え得る性能があります。
映像表現と操作入力の両面でスマートフォンゲームにおいてはプレイ体験を大きく左右する要素であるディスプレイも優秀で、インカメラや角の余計な丸みなどに妨げられない全画面デザインによる没入感の高さは先述の通り。加えて、BOE Q9+発光材料を採用した最大輝度1600nitsのディスプレイパネルの表示品質も高く、タッチサンプリングレートは常時最大960Hz(マルチポイント)、瞬間最大2,000Hzとゲーミングモデルらしい高速仕様です。
FPS系などでは特に音の聴こえ方も重要になるでしょうが、ステレオスピーカーの音の出方そのものは悪くありません。ただ、画面占有率を極限まで高めた代わりにフロントスピーカーにはできていないので、横持ちで両手で握った際にスピーカーを覆ってしまいやすいのが玉にキズ。
そして高負荷の動作を長時間続けるならバッテリー性能も重要。6,500mAhの大容量バッテリーを搭載しており、ゲームプレイ中よりむしろ普通のスマートフォンとしての使い方をしている時に、長編の動画を観たりテザリングをしたりしてもなかなか残量が減らず驚きました。プロセスの微細化によって省電力性能が大きく向上した最新のハイエンドSoCだからこそというのもあるでしょう。
「横持ちでのゲーム中に使いにくい端子配置なのが惜しい」とは申し上げましたが、実のところ80Wで35分あればフル充電できてしまうという急速充電性能の高さゆえに、休憩を取ったり接続待ちをしたりする時間を有効活用すれば困ることは少ないはずです。
最近は中国メーカーを中心にスマートフォンの充電性能が進化していますが、80Wなどの極端な急速充電を行う場合、発熱で効率が低下してしまうことも夏場は特にありがちです。REDMAGIC 9 PROはゲーム中だけでなく急速充電を行う際にも冷却ファンが働くため、効率を落とさず理論値に近いタイムで充電できるうえ、充電中に通知確認などのために操作することがあっても特段熱くはありませんでした。
ファン音の大きさは一般的なノートPC程度。充電中のファン使用は設定で止めることもできるので、寝ている間に充電する方などは充電速度が多少落ちても静かに充電してもらうという選択肢もありでしょう。また、「通話中はノイズが入らないようにファンを切る」といった設定も可能です。
ゲームモードはさすがの充実ぶり。ゲームアプリ起動中であればスワイプ操作でいつでも呼び出せるメニューから、電話の着信や通知を遮断したり、小窓でブラウザを開いて攻略情報を調べたり、見どころを逃さず画面録画をすぐに開始したりできます。きめ細かな設定メニューが用意されており、CPU/GPUを最大クロックに固定する「ディアブロモード」をはじめとしたパフォーマンス設定はもちろん、バッテリーに負荷をかけずにUSB経由の電源供給で駆動する「充電分離」、DP Altモードでの映像出力中に本体をコントローラー代わりにする「仮想ジョイスティック」など、プレイスタイルに応じて柔軟な運用が可能です。
フラットなボディ形状を優先したカメラは、性能は控えめかと思いきや、メインには1/1.57型のサムスン製センサーと光学式手ブレ補正を採用、メイン・超広角ともに5,000万画素と悪くないスペック。画像処理も通常のNubiaスマートフォンでは評価されているところですし、フラッグシップモデルには敵わないにしても、十分見栄えの良い写真が撮れると感じました。
純粋な「ゲーミングスマホ」は減少傾向にある
数年前、eスポーツブームが波及する形で、通常のハイエンドスマートフォンとは異なる設計思想でゲームに特化した「ゲーミングスマホ」というジャンルがにわかに盛り上がった時期がありました。
2024年現在は少し落ち着き、日本市場で正規販売されている機種で明確にゲーミングスマートフォンとして売られているのは、nubia(ZTE)のREDMAGICシリーズとASUSのROG Phoneシリーズに絞られます。どちらも初代モデルの登場は2018年で、長きに渡ってゲーム特化のスマートフォンに求められる要素を磨き上げてきたブランドです。
しかし、最大のライバルであるROG Phoneシリーズは、2024年モデルの「ROG Phone 8」で大きく方向転換をしました。一般向けのZenfoneシリーズで培われたジンバル内蔵カメラを移植、日本向けモデルではFeliCa対応も行うなど、ゲームだけでなく普通のハイエンドスマートフォンとしても通用する方向に舵を切ったのです。
また、2年前に低価格ゲーミングスマートフォン「POCO F4 GT」を投入したシャオミのサブブランド「POCO」も、5月に新機種「POCO F6 Pro」を発表しましたが、こちらは完全にゲーミングというキャラクターを捨て、「1世代前のハイエンドSoCを搭載したコスパモデル」としてターゲット層を広げに行きました。
REDMAGIC 9 ProはこれまでのREDMAGICシリーズの流れを汲んだ正統進化版で、ゲーム特化という本来のコンセプトを貫いたことで結果的にオンリーワンのポジションを獲得できています。
最新のハイエンドチップと冷却システムを搭載し、あらゆるゲームアプリが快適に動作する環境を、一般的なハイエンドスマートフォンの相場からすれば比較的手頃な11万円台から手に入れられます。
唯一惜しまれる点としてはコントローラーや外付けコントローラーといった専用アクセサリーによる拡張ができない点でライバル機種に一歩劣るのですが、ハイエンド・フラッグシップスマートフォンの多くはユーザーが求める以上の付加価値を競って20万円オーバーもざらにあるほど高価格化が進んでいるなか、「ゲームのために必要だから最新の高性能スマートフォンを買う」という人にとっては、地に足のついた選択肢であり頼もしい相棒となることでしょう。