当たり付き乾電池やスマホと連携するカメラ搭載ワイヤレス耳かき、クールな見た目の電動アシスト自転車など、ドン・キホーテ(パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)のPB商品「情熱価格」シリーズはどこか面白い特徴を持っている。家電メーカーでもなく、家電量販店とも少し違う、小売り店舗ドン・キホーテのオリジナル商品だ。

“驚きのない商品は発売しない”をコンセプトに掲げる情熱価格の家電アイテムは、どんなアイデアから生まれるのだろうか。ドン・キホーテ PB商品開発部の今井潤(いまいじゅん)氏、柄澤喜行 (からさわよしゆき)氏、川上知大(かわかみともひろ)氏に話を聞いた。

  • 当たりが出たら1パックもらえる当たり付き乾電池(価格は2023年12月時点のもの)。乾電池が必要なとき楽しい気持ちで買えそうだ

    当たりが出たら1パックもらえる当たり付き乾電池(価格は2023年12月時点のもの)。乾電池が必要なとき楽しい気持ちで買えそうだ

  • (左から順に)ドン・キホーテ PB商品開発部の今井潤氏、柄澤喜行氏、川上知大氏

――「情熱価格」といえば一味違った商品や尖った機能の商品が多いイメージがありますが、意識していることは。

今井氏: 市場にある商品との差別化は確実に図っていきたいと意識しています。例えば、2024年の夏家電のコンセプトである「ド風量」シリーズは、“大風量の扇風機”というだけなら、方向性の近い商品も市場にはあります。ただ通常、日本向けの商品はその製品が出せる最大の風量は必要ないという(製造工場や発注側の)判断でリミッターをかけて商品化する場合が多いんですよ。今回の「ド風量」シリーズでは従来より強い風を実現すべく、安全性を担保した上でリミッターを外し、大風量を突き詰めて開発しました。

それと商品パッケージの工夫ですね。製品だけだとお客様に響かないところがあるので、「情熱価格」のパッケージは「ド」のロゴと、商品の特徴を端的に伝えるデザインで、しっかりお客様に伝えることを心がけています。

  • スポットクーラー「どこでも置くだけエアコン」(2024年モデル)。左タテ型ポップの上側にあるのがPB商品「情熱価格」を示す「ド」のロゴ

川上氏: あとは、家電量販店と我々は主戦場が違っているので、我々しか表現できない機能を意識しています。戦う場所を変えるため、量販店では大風量やマイナスイオン機能を高価格帯で出していても、我々は同じ機能を持たせながら低価格で出す。

例えばドン・キホーテのイメージに合うゴテゴテに光るスピーカーなど、量販店だとブレーキを踏んじゃうような機能にもチャレンジしてやっていっています。小さい規模の会社ではないですが、開発スピードを意識していますね。お客様が求めているものを、いかに早く形にするかは常にアンテナを張っています。

――尖った商品というものは家電メーカーでも特に検討していると思いますが、市場にたくさん出回るものではないと思います。「情熱価格」ではなぜ尖った商品が高頻度で商品化できるのでしょうか。

柄澤氏: 企画にあたってはまず、「核」となる機能はどこなのかを考えるんですよ。例えばドライヤーだったら、ドライヤーの核となるべき機能は「髪の毛を乾かすこと」だと思うんです。開発の段階でそこがブレてしまうと、最終的に作りたいものもブレてしまう。開発メンバーは全員そこを癖づけるようにしています。

この「核」となるべき機能を突き詰めるために、どんな機能を載せて、どんな機能を省けばいいのか。例えば、髪を素早く乾かすためには風量を限界まで上げる必要がある。そこに集中特化して企画します。開発メンバーは全員その視点を持ち、パートナー会社(商品を製造するメーカーや工場)も同じ考え方で製造していただいています。だから、「核」の部分に集中特化したものがスピーディに生まれる仕組みになっていると思います。

  • テレビ用チューナーを省いてネット動画視聴に特化したチューナーレステレビも“インターネット動画を見る”という「核」の機能を突き詰めた商品の1つという

――機能が尖り過ぎて、上層部からストップがかかるようなことはないんでしょうか。

柄澤氏: 「情熱価格」の商品は、開発会議で議論に議論を重ねて商品化するんですが、各企画の担当者の権限が大きいので、お客様のニーズに速く対応できるし、尖ったこともできる。多分そこが、(家電メーカーとの)一番大きな差ですね。

開発会議は毎月1回やるんですよ。実は商品開発部には、さっきの「『核』となる機能がどこか」もそうですが、商品で何を大事にするかの指標になる「ものづくりの6箇条」がありまして。プレゼンした開発メンバーは、今回は価格に振っていますとか、ここを尖らせていますとか、いろいろ説明するんですが、出席者もみんな同じ目線で判断するので、受け入れられやすい土壌にはなっていますね。

社長決裁のようなものもなく、企画会議(現場)に決済権限が与えられているのも強みかもしれません。商品化する判断の速さにもなっていると思います。

――「情熱価格」商品で最近特に売れたものはありますか。

柄澤氏: 最近でいうとスポットクーラー「どこでも置くだけエアコン」の2023年モデルですね。それ以外だと、実はアイリスオーヤマさんと共同開発したIH炊飯器が非常に売れてるんですよ。IH炊飯器はメーカー製の標準的なモデルを買おうとすると2~3万円かかりますが、我々は1万円台前半の価格で販売します。部材高がない少し前までは1万円を切っていましたが……。

――メーカーと共同開発した商品は市場で“競合”しないのでしょうか。メーカーと商品を共同開発するメリットはどこですか。

柄澤氏: 共同開発のメリットは商品力の強化と品質向上にあります。共同開発して生まれた商品は我々独自のパッケージや販促物に沿って売り出すので、メーカーさんの既存商品とバッティングはせず、自信を持ってお届けできるオンリーワン商品になっています。

今はドン・キホーテが一緒ならやってみたい、と多くのメーカーさんから声を掛けられるようにもなりました。改めてになりますが、メーカーさんと組むことで商品力と品質の高さが担保できることはメリットですね。そういったところで、共同開発も非常に大切にしています。

川上氏: 小泉成器さんと共同開発した潤い特化のドライヤーなんかは、プラスとマイナスのイオンを交互に発生させて静電気を抑える機能など、通常であれば“高価格帯”の製品に入る機能を載せているんですが、我々は1万円を切る価格で売っています。

1万円以下の価格帯の商品っていうのは、メーカーさんからみたら“主役”にならない、低い価格帯の製品なんです。でも、ドン・キホーテで扱うドライヤーの売れ筋は1,980円~2,980円あたりで、1万円に近い価格帯の商品は高級な花形の商品です。

それを家電量販店とは別に、全国に600店舗弱あるドン・キホーテ店舗で売る。我々にとっては高価格帯の商品を売るチャレンジになりますし、メーカーさんにとっては低価格帯の商品が主役級になれます。メーカーさんにとってのメリットもあるんじゃないかと思っています。

  • 小泉成器とのコラボで生まれた潤髪(うるがみ)イオンバランスヘアドライヤーの価格は9,878円。コラボ後継商品として潤いに特化したヘアアイロンも予定している

――スマホで耳穴が見られるカメラ付き耳かきなど、非常にニッチな商品もあるかと思いますが、こういったニッチな商品も売れると判断して企画するものなのでしょうか。

柄澤氏: 当然売れるという確信があってやっています。単に「面白いからやる」ではなく、同じカテゴリーの商品がこういう風に売れている市場だから、こう出したら売れるんじゃないかとか、仮説を細かく立てていく。開発会議で「我々はこうやって、このくらい売ります」と宣言して商品化します。

そういう作業をすることで「こういう使い勝手がいいんですよ」とお客様にしっかり訴求できて、それが実際にお客様に届いて売れたという経験を、現場担当者も企画開発も持っています。

開発メンバーは「ニッチな商品はしっかりやれば売れる」という気持ちから、「じゃあ自分の実生活の中でニッチなものを探し当ててみよう」みたいな“ネタ探し”を日々やっていると思うんです。その積み重ねが企画のアイデアにつながっていると思います。

川上氏: ドン・キホーテは単品拡販(商品を1つに絞って売る販売形式)が文化として非常に強くて、これがずっと続いている会社なんですよ。それぞれの企画担当者は数字の責任を負ってるんですけど、結局予算に勝つためには「売れるものをより売る」「儲かるものをどんどん売る」ことに尽きる。

スマートフォン連動のイヤークリーナ―(カメラ付き耳かき)は目標予算の7倍近く売れましたが、これも企画としてはスマホ連動のトレンドと、「耳かきすごく好きな人が多いよね」という部分から生まれました。通常の耳かきだと、耳垢が取り切れないこともあるので、実際に耳の中が見える方法があれば、お客様に「使ってみたいな」と刺さるかなと。

  • スマートフォンと連動して耳の中をのぞける、小型カメラ付き耳かき「スマホ連動イヤークリーナー」。想定の7倍売れた大ヒット商品になったという

――PB商品を開発するメンバーは、どんなバックグラウンドを持っているんでしょうか。例えば家電メーカーの企画担当出身など、ずっと企画開発にかかわってきた方々なんでしょうか。

柄澤氏: 出身は結構バラバラで、家電メーカーさんから中途採用された方もいますが、店舗担当者や責任者を経験した人間が、本部に来て開発担当になることもあります。例えば今井は家電ではないですが、雑貨系のメーカー出身ですね。

川上は店舗担当やエリア責任者を経験していて、売り場での見せ方や演出でずば抜けたセンスを持っているんですが、「店舗でどう売ればいいか」がわかっている人は、商品開発においても強みになるんです。

簡単に言うと商品はお客様にどう届けるかが一番重要なので、適した社内の人材が抜擢されて開発者になる、というケースが多いですね。

  • 売り場に立つ川上氏(左)と今井氏(右)。川上氏が理美容を担当、今井氏が季節家電を担当している

――ありがとうございました。