医療用内視鏡メーカーとして世界トップのシェアを誇るオリンパスは、小学生から高校生までの年代に向けた「次世代教育支援」の取り組みを推進しており、教育機関との連携のもと、特別教育プログラムを提供している。
最初は地元高校との協力により連携授業を展開していた同社は、2021年度からは東京都教育庁とも連携し、さまざまな都立高校で“内視鏡授業”を実施。日常的な学校生活では得られない学びの機会を創出している。
では、企業と教育機関が連携することによる価値はどのようにして生まれているのか。そして、教育庁はどういった取り組みを進めているのか。内視鏡授業を実施した都立富士高校の様子に迫った前編に続き、後編の今回は、教育庁 都立学校教育部 教育改革推進担当課長(2023年11月29日取材当時)の横田雅博氏へのインタビューを通じて、次世代育成に携わる教育機関から見た企業連携の価値について考える。
次世代人材の育成に向け注目される2つの教育トレンド
近年の教育現場でトレンドとなっている“STEAM教育”は、科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・芸術(Arts)・数学(Mathematics)の5領域を対象とした教育理念。技術革新が急速化する現代で活躍する人材を育てるため、プログラミング教育をはじめとするさまざまな学習が推進されている。
横田氏によると、教育庁としてはこれまで10年以上にわたって理系教育を重視してきたとのこと。その発端には、都立高校の中で理系の進路を選択する生徒が少なかったことがあるといい、「ITに限らず、ものづくりやインフラを支える、あるいは先端技術の開発に関しては、理系人材の力が不可欠」であることから、理系教育にも力を入れてきたとする。
また、別の角度から教育現場で関心が高まっているのが、生徒の“キャリア教育”だ。高校生としての時期をただ漫然と過ごすのではなく、将来の姿を想像しながら必要な学びを得ようとすることで、より意欲的な時期にすることを目指したこの教育方針について、横田氏は「それぞれの発達段階に応じてできることはさまざま」としたうえで、特に高校生の年代については「卒業と社会がすぐにつながる時期であるため、それを意識した状態で学習に臨んでもらえるようにするのが教育を行う側の役目」と語る。
いま求められる教育に効果を発揮する企業連携授業
STEAM教育とキャリア教育という2つのトレンド。そのどちらにも効果的だと横田氏が語るのが、企業と連携した特別授業だ。
STEAM教育の推進に向けては、先述した通り理系離れが進んでいることもあり、生徒の興味をかき立てる授業内容にすることが求められる。もちろん教員の創意工夫によってさまざまな授業形態が実現可能ではあるものの、授業に限らず日々多くの業務を抱える教員にさらなる負担がかかることは避けられず、より専門的な内容にまで到達することは難しい。
しかし、業界のプロフェッショナルとして事業を展開する企業と連携することで、より専門的な内容を踏まえた授業を展開することができる。また日常的な光景とは一風変わった教室になることで、生徒にとっても新鮮で興味深い時間になるだろう。加えて前編で取材したオリンパスの内視鏡授業のように、実際に用いられる製品を活用した“体験型”の授業にできうる点も、生徒たちにとっては大きなポイントとなる。
一方でキャリア教育の面では、新たな興味が将来の選択に影響を与えるのはもちろんのこと、実際に社会で企業に勤める社会人との触れ合いに価値があるという。横田氏は、「企業では、モノを作る人や売る人などさまざまな業種が集まって仕事をしている。そういった“企業はどういうものなのか”を知るという意味でも、企業との連携は意味がある」と話す。
「小学校や中学校では町の探検や職場体験などが行われる中、高校年代ではよりリアルな社会とのつながりを感じる形として、インターンシップや“本物”に触れる体験を通じて、自分のキャリアを考えることになる。そういった意味で、さまざまな企業と連携して機会を作ることは大きな意義があると思う」と、横田氏は語った。
「企業と連携していない業界の方がもはや少ない可能性も」
STEAM教育とキャリア教育という2つの軸で大きなメリットをもたらすと期待される、企業連携授業。教育庁としても積極的にその施策を進めており、さまざまな業種にわたって企業と連携しているという。
IT企業と連携したプログラミング授業は、次世代を見据えたSTEAM教育の典型例ともいえる。また連携の分野は理数教育に限らず、食品メーカーや百貨店などとの連携授業では、新たな商品の企画を通じてアントレプレナーシップ教育を実施。横田氏によれば、「今となっては企業との連携を行っていない業界の方が少なくなっているかもしれない」とのことだ。
企業との連携による教育機会の価値は先に述べたが、その機会はどのように生み出されているのか。横田氏いわく「企業側からのアプローチがあることがほとんど」とのことで、若手人材の育成に力を入れる企業からの打診を経て、連携授業の企画に至るという。
とはいえ教育庁側もただアプローチを待っているわけではなく、さまざまな企業との架け橋となるための専任ポストを用意しているとのこと。産業界で人脈を持つ人物をその役職に起用することで、企業連携の幅を広げ取り組みを活発化させている。