働く人の生産性を上げる。ThinkPadに込められたコダワリ
2024年3月26日、レノボはThinkPadシリーズ新製品発表会を開催しました。一挙に14シリーズを刷新したのですが、今回はその背景となる社会情勢の変化、顧客のニーズにテクノロジーの観点で、レノボがどのように取り組んでいるかに重点を置いてレポートしたいと思います。
なお、今回紹介する機能やテクノロジーがすべてのThinkPadに含まれているわけではないので、その点はご注意下さい。
概論として、製品企画部 マネージャーの元嶋亮太氏はが明日の働き方を変えるワークツールと題して説明しました。
ThinkPadがなぜ生まれたかと言えば「オフィスから仕事を開放すること」です。ノートパソコンゆえにいつでもどこでも仕事を手助けしてくれるのがThinkPadであり、これは生まれた1992年から変わりません。
生産性向上のために計算しつくした機能とデザイン、テクノロジーの力で働く環境を新たな次元にする継続的なイノベーションと言うコアバリューも変わりません。
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レノボ・ジャパン PC・スマートデバイス企画本部 企画本部 製品企画部 マネージャーの元嶋亮太氏
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ThinkPadの理念は30年以上経過しても変わりません。持ち運べるゆえにどこでもお仕事です
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そしてThinkPadのコアバリューも変わりません
一方で近年、働き方の環境が大きく変化しました。レノボの調査によれば、雇用型テレワーカーがハイブリッドワークを実践しているのは74%、そのハイブリットワーク実践者のうち毎日オンライン会議を行う人は88%と、ハイブリッドワークとそれに伴うオンライン会議の割合は非常に大きなものになっています。
もう一つ世界的潮流となっているのがSDGs。会社として調達するパソコンに関してもサステナビリティ性が要求されています。2024年のThinkPadはこれらの要求事項に応えなければならないというわけです。
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そして、昨今の要求事項としてサステナビリティも要求されました。数年前からの取り組みですが、一気に拡大したイメージがあります
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2024年のThinkPadのポイントをまとめたのがこちら。個人的には右上の緑の部分(サステナビリティ)が注目ポイントです
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2024年ThinkPadの製品ラインナップがこちら。ハイブリッドワークの増大を受けてハイブリッド・テレワーカー向け製品が大拡充されました
入力性、コラボレーション、持続可能性とAIの技術にフォーカス
課題を解決するためのテクノロジーとイノベーションに関しては、大和研究所の米田氏が説明しました。ポイントは4つあります。
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レノボ・ジャパン 大和研究所ThinkPad Platform Development #2 マネージャーの米田雅春氏
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開発・設計の観点からの2024年ThinkPadのフォーカスエリアは4つあります
まず一つ目は「創るためのツールとしてのインプット体験の向上」です。今回はキーボードとタッチパッド、トラックポイントすべてで改修が行われています。
基本的にキーボードにはホームポジションの手助けとして、FとJのキーに突起など触覚でわかる手がかりが付いています。ここに手を加えて、Fn、F2/F3(正確にはファンクションキーのVol.Up/Down)、下矢印、エンターキーに新しく突起を搭載しました(一部製品は未実装)。Fnキーは左手でよく使いますし、右手はエンターキーやカーソルキーに移動する事が多いため、ここに手がかりがあるのは使いやすそうです。
またFn+F8~F11のファンクションキー設定に見直しが入り、特にモード切替となるFn+F8がわかりやすい位置に移動。そして、従来のThinkPadでも設定変更できますが、標準でキーボードの左下がCtrlとなり、Fnキーが一つ内側に移動しています。
タッチパッドも大型化し、ThinkPad X1では120×70.5mmと超大型に。そして感圧型タッチパッドの解像度も4倍に。そしてX1の一部のモデルではトラックポイントを重視したいユーザー向けの3ボタンクリックパッドと感圧式クリックパッドの選択式になっています。
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キーボードはかなり変化があります。よく使うキーポジションを把握しやすくするために、FJの突起以外に5カ所に突起をつけています。またファンクションキーも見直し
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ThinkPadが7列から6列になった背景がタッチパッド面積の増大です
ThinkPad X1 2-in-1 Gen.9にはさらに面白いギミックが含まれています。ペンを仮置きするためにディスプレイ側に磁石で止めておくことができますが、ディスプレイを閉じるとより磁力の高い本体側に自動スライドして吸着位置が変わります。
普段の利用でも本体側に止めることができますが試してみると、確実な保持のためか磁力が強く外しにくい感じでした。使うときは気軽に取れて、移動時は容易に外れないというギミックはなかなか実用的だと思います。
先日レノボで見てきたThinkPad X1 2-in-1 Gen.9用スタイラス収納エリアの磁気ギミック。画面側にくっつけたまま閉じると、本体側のさらに強力なマグネットに吸い寄せられていきます pic.twitter.com/8O9SzSAASG
— マイナビニュース「+Digital」 (@mn_pc_digital) March 31, 2024
さらにヒンジ部も改良が施されていて、従来のヒンジは液晶側と本体側が均一に開くようになっていたのに対し、Gen.9のヒンジは開ける際に本体側が先に開き、閉じるときは液晶側が先に閉じるような仕組みになっています。これはノートモードで使う際に液晶位置が低く保たれるという効果があり、コダワリ加減に感心しました。
なお、レノボではYOGAをコンシューマー向けのプレミアムブランドにしたこともあり、ThinkPadからはYOGAの名前から一般的な2-in-1にしています(が、テントモードがなくなったわけではありません)。
二番目のポイントはコラボレーション体験の向上です。トラックポイントを二回叩くとTrackPoint Quick Menuが起動し、コラボレーション設定メニューが開かれます(ThinkPad X12 Detachable Gen.2以外搭載)。トラックポイントはポンと叩いても反応するのは知っていましたが、ここに機能を割り当てるというのは素晴らしい着想です。
カメラやマイクに関しては2019年以降さまざまな追加機能が割り当てられましたが、2024年は4辺狭額縁と高画質カメラの両立として、ディスプレイが四角くない「コミュニケーションバーデザイン」を採用。要するにカメラ近辺だけを太くした盛り上げデザインにしています。
これによって大型になるカメラを入れても上部の額縁を全面的に太くしなくてもよいため画面占有率が向上しました。この部分の変形によって落下時のトラブル増が気になりましたが、その部分も含めて落下試験を実施しているとのこと。またディスプレイが開けやすくなるという副次的効果もありました。
コミュニケーションバーデザインでひとつ気になったのは、従来カメラの左右に配置し、これが電波の繋がりやすさに影響すると説明があった無線アンテナの位置。これに関してはキーボード側に移動させたとの事ですが、性能劣化にはなっていないとの事です。
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コロナ禍時代もコラボレーション関係の機能拡充は徐々に進んでいました
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高画質の大型カメラと画面占有率の両立を目指し「四角くない天板」のコミュニケーションバーデザインとなりました
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コミュニケーションバーデザインの画面とTrackPoint Quick Menu。後者はちょっとコツが必要かもしれません。コミュニケーションバーデザインはキーボード部から出っ張るのですが、それに伴う落下強度は確保してある他、開けやすいというメリットがありました
カメラに関してはT / Xシリーズは5Mカメラを標準搭載し、オプションで顔認証IRカメラも搭載可能。さらにX1 Carbon Gen.12とX1 2-in-1は4K MIPIカメラの選択が可能。4Kによってより高解像度になりますし、4Kが不要という人でも隣接する4画素をまとめて利用する事で明るさをムリなく上げることができます(この機能はスマートフォンのカメラでよく使われています)。さらにマイクをベゼルの穴に正対するように配置することで、より良い収音を可能にしました。
X1シリーズは、従来キーボードの横にあったスピーカーをキーボードの真裏に配置。実際に音を聞く事はできませんでしたが、キーボードがビビることもないという事です。
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X/Tシリーズは標準で5Mカメラとなりました。これはビデオ会議が当たり前になったため
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X1シリーズは4K MIPIカメラも選択可能になりました
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スマートフォンでおなじみの2x2ピクセルの合体も加わり、暗所での画質向上がはかられています
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マイクの取り付け方法も変更し、マイク穴からストレートに拾えるようになりました
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X1ではスピーカーがキーボードの真下に配置。元々ThinkPadのキーボードは剛性感が高く、ビビリもないとの事
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実際の製品で紹介。両手の先にあるのがスピーカーユニットで、キーボードの真下に配置されます。従来は細長いエンクロージャーだったのが設計自由度が広がっています
三番目はAIのさらなる活用で、X1シリーズではComputer Vision 2.0を搭載。外部ディスプレイを使っていてカメラから視線が外れていても問題なく利用できます。
内蔵しているAIチップによって顔を判別するため、第三者がカメラアングルに入っても画面オンにはなりません。この顔認識にAIチップを使っており、SoCやOSから顔情報にアクセスできないのでセキュリティ上の問題もないとのこと。
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X1はカメラを使った省電力&セキュリティ機能のCompute Visionが進化。専用回路で顔認証を行うので他人が近寄ってもディスプレイが復帰しないようになりました
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一方、顔認証は専用チップで行っており結果のみを通知するため、セキュリティの問題は発生しません
最後にネットゼロへの道となるサステナビリティ。パッケージにプラスチックを使用しないことや、再生素材の利用という点は過去にも紹介がありましたし、他社も行っています。
一つだけ再生素材で特筆すべき点は、X1 Carbonの天板フレームに航空機産業の端材を使用したリサイクルカーボンファイバーを混入したプラスチックを採用し、天板と一体化している点が挙げられます。
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サステナビリティも昨今重要な要素。設計から使用後まで考慮されています。が、まだ「古いThinkPadを回収して使えないパーツをリサイクル素材にして新しいThinkPadになる」まで到達していないようです
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再生素材の利用が拡大したほか、かつてThinkPadの魅力の一つだったメンテナンス性が向上したのがうれしいところ
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主要パーツはリサイクル素材を大幅に使用しています
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マグネシウムパーツは90%とほとんどリサイクル素材です
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製品によって異なりますが、アルミニウムもかなりのリサイクル素材を活用
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ベースカバーも大幅に再生プラスチックを使用し、かつ「これはリサイクルプラです」と過剰に主張していないのもいい感じです(他社製品はわざとムラムラにしてリサイクルプラをアピールしている製品もあります)
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部分的ですが、X1 Carbon Gen.12では航空機製造で発生したリサイクルカーボンを使用
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左の天板にはめ込むフレーム部にリサイクルカーボンを含有したプラスチックを採用、右から二番目のように接合して、一番右のように塗装すると全く分かりません。ちなみに左から二番目は試作で作った織目のあるカーボンタイプですが、これは製品に使われていないとの事です
今回レノボらしさが復活したと感じたのは、一時期減ってしまったCRU(Customer Replacement Unit)の増加と分かりやすさの向上です。CRUとは修理が必要とコールセンターが判断しても、サービスマンを派遣したり保守拠点に輸送せずに交換部品をユーザーの元に送り、ユーザー自身がパーツを交換できるもの。
以前のThinkPadでは結構採用されていていましたが、近年薄型化が進むことでユーザーが内部を触りにくくなってしまっていました。これがサステナビリティという観点で復活し、さらに分かりやすさと言うイノベーションが加わりました。
T14 Gem.5/T16 Gen.3から開始される取り組みは二つあり、SSDやメモリと言ったCRUパーツのある部分に白いシルク印刷が施されて黒っぽい基板を見て分かりやすくなった事が挙げられます。
また、メーカーによってはユーザー交換はおろか、(認定)自営修理業者すら安全面の観点から交換させないバッテリーに関しても、「ネジでコネクタを固定するため、ケーブルを引き抜く等の技量がいらない」、「コネクタ取り付けネジは緩めても外れずトラブルになりにくい」、「本体取り付けのネジが外れていたとしても電池表面をグレーにして黒いネジが目立つようにする」、「下にネジが挟まっていてトラブルにならないよう電池下部はステンレスカバーで保護されている」と安全面を最大限配慮したバッテリーを採用。エンドユーザーにドライバーがあれば交換可能にしている点は高く評価できます。
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会社によっては自社修理拠点でしか触らせない内蔵バッテリーのユーザー交換にも対応。それに伴うトラブル解決も随所で配慮されています
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説明の途中で米田氏は実際のTシリーズを出して説明しました。下の長細いのがバッテリーですが、表面はわざとグレーにしており黒い取り付けネジが落ちても視認しやすくなっています
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バッテリーにコネクタが付いており、ねじ止めするだけで基板との接続も確実に行われます。万一下にネジが落ちていて気付かない際もステンレスプレートでカバー
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米田氏がバッテリーだけ取り出して説明。表面側はグレーのカバーでネジを発見しやすく
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裏面は黒いステンレスカバーで強化しています。電源コネクタ部のネジは緩めても取れない仕組みでこれもGood
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ユーザーが触れる部分は白いシルク印刷で分かりやすくなっており、メモリスロットも用意されています(メモリ部はシールドカバーが入るようになっています)。また、右側のコネクタ部は金属プレートで補強されています
ThinkPadのビジョンを体現し続ける日本発の製品開発
繰り返しになりますが、今回したイノベーションはすべてのThinkPadで利用できるわけではありません。しかしハイエンド製品だけ利用可能な技術でも時間と数量メリットによって下位製品でも利用できる日が来ますし、今回Tシリーズの一部で実現したユーザーによるより安全なバッテリ交換は同じ製品を長く使う人にとっては待望の機能です。
多くの改善が継続して行われているところはさすがThinkPadと感じますし、International Business Machines Corporation(注:IBMの正式名称)が作った仕事のための道具の思想が、30年以上受け継がれているというのも素晴らしい事です。
なお今回の説明会ではAI PCと言う単語は出てきませんでした。あとで伺うと、まだ具体的にビジネスに生かせるものが少ないのであえて言わなかったとの事。ThinkPad Compute Visionのように機能として使えない限り、仕事の道具としてすぐに利用できないものは紹介に値しないのかもしれません。