NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの携帯キャリア4社は1月18日、令和6年能登半島地震の被災地におけるネットワーク復旧状況についての共同記者会見を開いた。

  • 能登半島地震の被災地におけるネットワーク復旧状況について、携帯4社が共同会見を開いた

    能登半島地震の被災地におけるネットワーク復旧状況について、携帯4社が共同会見を開いた

会見には、NTTドコモ 常務執行役員 ネットワーク本部長 小林宏氏、KDDI 執行役員常務 技術統括本部 副統括本部長 兼 エンジニアリング推進本部長 山本和弘氏、ソフトバンク 常務執行役員 兼 CNO 関和智弘氏、楽天モバイル 執行役員 副CTO 兼 モバイルネットワーク本部長 竹下絋氏が登壇。MNO各社のネットワークを担当する役員らが一堂に会し、発災から約2週間を経た現地における携帯電話回線の復旧状況について説明した。

立ち入り困難地域以外の応急復旧は4社とも完了

はじめに、4社共通の復旧作業の現在地から説明する。簡潔にまとめれば、4社とも現時点では立ち入り困難地域を除いて応急復旧が完了しており、残る立ち入り困難地域については道路が啓開し次第、速やかな復旧を目指す。

  • 能登半島地震 携帯電話 復旧状況

応急復旧とは、たとえば「停電で稼働できなくなった基地局に発電機を持ち込んで復旧する」「伝送路の光ファイバーが切断された基地局に衛星通信の機材を持ち込んで復旧する」といった暫定的に使えるようにするための措置を指しており、本復旧の見通しは各エリアの道路・電気・光回線といった関連インフラの復旧状況による。

ネットワーク設備の被害とそれに対する応急復旧のイメージとしては、主なパターンは「ビル停電」→「移動電源車による電力救済」、「中継伝送路断」→「仮設伝送路の敷設等による復旧」、「基地局伝送路断」→「移動基地局車や可搬基地局による復旧」、「基地局停電」→「発電機や移動電源車による電力救済」の4つが挙げられた。

  • 能登半島地震 携帯電話 復旧状況
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こういった対応は過去の災害復旧でも繰り返し行われてきたことだが、今回の能登半島地震で特に復旧の難易度が高い要因としては、地震の規模の大きさと地形などの特性から、道路の被害が大きくアクセスが困難なエリアが生まれたこと、さらに冬期であり積雪もさらに陸路でのアクセスを難しくしていることが挙げられる。加えて、初動の段階では多くの人が被災地に押しかけたことによる渋滞がこれらの状況を悪化させており、「金沢市内の拠点から復旧が必要な現場まで行くのに通常の3倍ほどの時間がかかった」(KDDI山本氏)という。

被災によりネットワークがダウンしたエリアにおいては、その原因の多くは「土砂崩れによる伝送路断」と「停電の長期化」だという。いずれも解決は他のインフラの復旧状況に依存する部分もあり、応急復旧が大部分で完了しているとはいえ、本復旧までは長期化も想定され見通しにくい状況といえる。

NTTドコモの取り組み:船上基地局を初運用

ここからは4社それぞれの取り組みを個別に紹介する。

まず、ドコモは1日最大600名体制で復旧を進め、先述の通り、立ち入り困難地域を除いて応急復旧を済ませた。復旧作業と並行して、避難所へのマルチチャージャー(スマートフォン充電設備)やモバイルバッテリー、Wi-Fiルーターの提供も行っており、避難所に設置したWi-Fiルーターの一部は衛星ブロードバンド「Starlink」を活用した機材も含む。また、自治体や自衛隊、警察、消防、医療機関などに対し、サービス中断エリアにおける通信手段の確保を支援するため、衛星電話「ワイドスターII」の提供も行っている。

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ネットワークの応急復旧に関しては、移動基地局車や可搬基地局による救済が累計90カ所、電源が絶たれた常設基地局を移動電源車または発電機によって復旧させる形での救済が累計81カ所。移動基地局車の展開に際して、陸路でのアクセスが困難であった一部の場所では、自衛隊の協力でエアクッション艇(LCAC)と呼ばれるホバークラフトのような特殊船に乗せて上陸する対応もとられた。

また、以前から訓練が重ねられてきた「船上基地局」も、ドコモでは実際の災害対応においては初めての運用となった。ドコモ系列のNTTワールドエンジニアリングマリンが運用するケーブル敷設船「きずな」を利用し、発災時点では長崎に停泊していたところから、1月2日に運用が決まり機材を積み込んで出航し、1月6日に目的地での設備展開・チューニングを終えて稼働した。1月6日~1月11日には輪島市町野町沿岸、1月13日からは輪島市大沢地区沿岸でのエリア復旧に使われている。

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KDDI:バックホール回線としてもWi-Fi設備としてもStarlinkを活用

KDDIは1日最大約500名体制で復旧作業を進め、1月15日に立ち入り困難地域を除いて応急復旧が完了した。また、UQ WiMAX(WiMAX 2+/WiMAX +5G)のエリアについても翌16日に応急復旧が完了した。輪島市や珠洲市の進入困難箇所では道路啓開後、アクセス可能となってから3日以内での応急復旧を目指す。

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KDDIの今回の対応で特に目を引くのは、Starlinkの活躍ぶりだ。光ファイバーによるバックホール回線が切断されてしまった基地局の応急復旧に159台のStarlinkアンテナを投入したほか、車載型基地局でも利用している。さらに、避難所でフリーWi-Fiを提供する目的で350台、DMATや船上災害対策拠点などの災害対応機関の通信用にも200台を提供した。

また、KDDIは以前から子会社の保有する海底ケーブル敷設船を活用した船舶型基地局を配備しており、2018年に起きた北海道胆振東部地震の際には実際に災害復旧のために運用した経験もある。一方で、2020年にはNTTドコモとの間で連携協定を結び、状況によっては互いのケーブル敷設船に両キャリアの船上基地局を相乗りさせる取り決めを交わしていた。

今回は先述のドコモ側のケーブル敷設船に相乗りする形で運用しており、ドコモ側にとっては船上基地局の本番での初運用、KDDIにとっても連携協定に基づく運用は初の事例となった。

  • 能登半島地震 KDDI 復旧状況
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ソフトバンク:3Gも復旧、被災地深部でのベースキャンプ設置で他社にも貢献

ソフトバンクも道路寸断で進入が困難な場所を除き、1月15日に応急復旧が完了した。他社と背景が異なる点として、4キャリアで唯一、3G契約が残存しているため、LTEエリアの復旧と並行して3Gエリアも復旧させている。

あわせて、当初は1月末に予定していた3Gサービス終了についても被災地や避難先におけるライフラインの維持を考慮し、延期を決定した(※関連記事)。全国一律で4月15日まで終了を延期し、4月16日以降についても被災地のユーザーの対応は復旧状況を見て検討していくという。

説明のなかで「復旧局に対する品質管理」に言及されたことも印象的だ。このような応急復旧の段階では、平時であれば数局の基地局でカバーされているエリアを1基で薄く広くカバーする状況も多く、まずは全域での復旧が最優先で通信品質はある程度下がるのが一般的だ。しかし、応急復旧の体制であっても通信品質をしっかりとモニターし、必要があればすでに1局で届いている範囲内でも停波中の別の基地局を追加で復旧したりと、「被災者ひとりひとりのつながりをケアする」という姿勢を見せた。

  • 能登半島地震 ソフトバンク 復旧状況
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また、迅速かつ効率的な復旧活動の進め方にも力を入れており、現地で活動するチームの現在地や復旧用機材の配置状況を対策本部でリアルタイムに可視化できるツールを導入したり、被災地深部への進出にあたってベースキャンプを先行して設置し、仮設拠点での他キャリアの移動基地局車などへの給油を行ったりと活動をリードしている。

このほか、資本業務提携先であるWOTAの水再生処理技術を入浴支援に活かすなど、通信分野以外での支援も行う。

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楽天モバイルの復旧状況

最後発となる楽天モバイルは前提としてエリア整備の途上にあり、被害の大きかった能登半島北部の多くがパートナー回線、つまりKDDIへのローミングでまかなわれていたことから、自社回線の支障エリアは比較的小規模に留まっている。

被災地域で停波した楽天モバイル基地局は77局で、そのうち76局が応急復旧済、残り1局は進入困難地域にあり道路啓開待ちという状況だ。

  • 能登半島地震 楽天モバイル 復旧状況

基地局の復旧対応や充電サービスの提供、他キャリアとの連携などのため、1日平均340名を動員し、復旧活動のため移動基地局車累計40台、可搬型発電機累計48台を投入した。

また、被災地域のユーザーに対しては、1月~3月分の料金を無料にする措置をとる(※関連記事)。

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