レノボ・ジャパンは、有機ELディスプレイを2画面搭載し、多彩な利用スタイルを実現できるコンバーチブル型ノートPC「Yoga Book 9i Gen8」を発売した。今回、実機を試用する機会を得たので、特にハード面を中心にチェックしていこう。

  • 「Lenovo Yoga Book 9i Gen8」レビュー - 上も下もディスプレイな新機軸PCの使いこなしとは

2in1の枠を超えた使い方に対応する”2-in-1 マルチモードPC”

レノボのYogaシリーズといえば、コンバーチブル型を中心として2in1 PCの可能性を大きく飛躍させたブランドとしておなじみだ。そのYogaシリーズの最新モデルが「Yoga Book 9i Gen8」だ。

Yoga Book 9i Gen8の最大の特徴が、2.8K(2,880×1,800ドット)表示対応の13.3型有機ELパネルを2枚搭載する点だ。通常のクラムシェル型PCのキーボード面もディスプレイとすることで、本体を開くと全てがディスプレイとなっている。

もちろん、Yogaシリーズということで、ディスプレイ面は360度開閉し、いわゆる2in1 PC同様の使い方が可能。そのうえディスプレイが2面もあるということで、これまでの2in1 PCの枠を超えた使い方を実現している。

まず、一方の画面にアプリなどを表示し、もう一方の画面にスクリーンキーボードを表示することで、クラムシェル型PC相当として使うというのが最も一般的な使い方だ。

  • Yoga Book 9i Gen8は、13.3型2.8K有機ELディスプレイを2枚搭載。本体を開くと2枚のディスプレイが現れ、クラムシェルスタイルでも2面ディスプレイ状態となる

  • 手前のディスプレイにスクリーンキーボードを表示することで、クラムシェルPC相当として利用できる

もちろん、2画面全てをディスプレイとしてフル活用した使い方も可能。その場合には、本体を立てかけて利用できる標準添付の折りたたみ式のスタンドを利用する。本体を縦、横どちらでも立てかけて利用可能で、使うアプリに応じて本体の向きを変えて利便性を高められる。

  • 2画面双方をディスプレイとして利用することも可能

  • 付属の折りたたみ式スタンド。このスタンドに本体を立てかけて利用するのが基本

  • このようにスタンドに本体を立てかければ、2画面スタイルを便利に利用できる

  • もちろん、本体を横向きにして2画面スタイルで利用することも可能だ

2画面モードでは、上下に異なるアプリを別々に表示して利用できる。また、2つの画面にまたいで1つのアプリを全画面表示することも可能。とはいえその場合には間に画面の切れ目が入ってしまうため、そこまで利便性は高くない印象。ここは無理せず、それぞれの画面で1つのアプリを使った方がよさそうだ。

  • 2画面スタイルでは、それぞれの画面に別々のアプリなどを表示して利用するのが基本

  • 2つの画面にまたがって1つアプリを全画面表示することも可能だが、画面の切れ目があるためそこまで利便性は高くない印象

これまでにないスタイルでの使い方を提案しているのがテントモード。テント型に置いて使う点は従来と同じだが、PowerPointの資料を表示する場合など、一方の画面で操作しつつ、もう一方にプレゼン画面を表示する、といったことが可能。これは、対面プレゼン時などにかなり重宝しそうと感じた。

  • テントモードでは、手前と奥双方でディスプレイを利用できる

  • このように、手前にPowerPointの操作画面、奥にプレゼン画面を表示でき、対面プレゼン時に活躍するだろう

タブレットモードはディスプレイを360度開いて一方の画面のみを使った使い方だけでなく、180度開いた状態の2画面同時利用での使い方も可能だ。

  • ディスプレイを360度開いたタブレットモードは、基本的に片側のディスプレイのみで利用する

  • ディスプレイを開いた状態でもタブレット相当として利用可能だ

レノボは、この他にも様々な使い方を提案しており、Yoga Book 9i Gen8を、2in1の枠を超えた”2in1 マルチモードPC”と呼んでいる。そして、この2in1マルチモードの活用方法や、アプリウィンドウの画面移動などの独特な操作法について詳しく紹介するアプリ「Yoga Book 9 User Center」を用意。こちらを参照することで、Yoga Book 9i Gen8を最大限活用できるはずだ。

  • Yoga Book 9i Gen8の特徴や独特な操作法などを詳しくチェックできる「Yoga Book 9 User Center」アプリを用意

物理キーボードが付属しスクリーンキーボードと使い分けできる

有機ELディスプレイを2面搭載しているYoga Book 9i Gen8は、通常の2in1 PCにはあるキーボードやポインティングデバイスを搭載していない。そのため、クラムシェルスタイルで利用する場合に気になるのがキーボードやポインティングデバイスをどうするか、という点だ。Yoga Book 9i Gen8では、下側の画面にスクリーンキーボードを表示して利用する方法と、標準添付のBluetoothキーボードを利用する方法を用意している。

スクリーンキーボードは、Windows標準のものではなく、Yoga Book 9i Gen8オリジナルの日本語配列のものを用意。このスクリーンキーボードがユニークなのは、指8本(両手4本ずつ)で下側の画面をタップすることでスクリーンキーボードを表示したり消したりできる点だ。クラムシェル型PCとして使っている場面でも、使いたい時だけスクリーンキーボードを呼び出し、不要な時は簡単にスクリーンキーボードを消してすぐに2画面をフル活用できる。

  • クラムシェルスタイルで利用するスクリーンキーボードは、Yogaシリーズのキーボードデザインをほぼそのまま再現したオリジナル仕様

  • スクリーンキーボードは、下側の画面を両手の指8本でタップすることで表示したり消したりできる

スクリーンキーボードを表示すると、キーボード下部に疑似タッチパッドも表示され、物理タッチパッド同様のカーソル操作が可能となる。

疑似タッチパッドは、標準では中央部分のみが操作領域となるが、左の矢印ボタンをタップすると疑似キーボード下の全領域を操作領域とすることも可能。

また、スクリーンキーボードは指8本(両手4本ずつ)でタップした状態で上下に表示位置を移動でき、画面下に移動させると疑似タッチパッドが消え、疑似キーボード上部を表示領域として利用可能となる。

  • スクリーンキーボードを表示すると、その下部に疑似タッチパッドを表示

  • 左の矢印アイコンをタップすることで下部全体を疑似タッチパッドとして利用できるようになる

  • スクリーンキーボードを指8本でタップしたまま下に移動させると、上部を表示領域として活用できる

スクリーンキーボードの利便性は、操作時に振動によるフィードバックが指に伝わる仕様となっていることもあって、単なるスクリーンキーボードよりは操作性が優れるという印象だ。とはいえキーの位置を指で物理的に判別できないため、物理キーボード同様の操作はさすがに望めない。そこでYoga Book 9i Gen8では、標準でBluetoothキーボードが付属する。

Bluetoothキーボードは、Yogaシリーズのキーボードとほぼ同等の配列を採用。英語キーボードをベースとして一部キーを分割して日本語化している点は少々気になるが、キーピッチは約19mmフルピッチを確保しており、扱いやすさはほぼ不満がない。

  • 標準で付属するBluetoothキーボード。こちらを利用すれば、スクリーンキーボードよりも快適なタイピングが可能

  • Bluetoothキーボードの仕様は、Yogaシリーズに搭載されているキーボードとほぼ同等で、なかなか扱いやすい

そして、このBluetoothキーボードは、下側の画面にマグネットで装着して利用できるという点が大きな特徴。しかも、画面上部にBluetoothを装着すると、下部にスクリーンキーボード利用時と同じように疑似タッチパッドが自動的に表示される。さらに、Bluetoothキーボードを画面下部に移動させると、画面上部に各種情報を表示するウィジェットを表示したり、ウィジェットを消して表示領域として利用する、といったことも可能。

もちろん、Bluetoothキーボードをデスクなど画面外で使用する場合には、2画面をフルに使った作業が可能だ。

  • Bluetoothキーボードは下側の画面上にマグネットで装着でき、装着すると疑似タッチパッドも自動的に表示される

  • Bluetoothキーボードを画面手前に移動させると、上部に天気やニュースなどのウィジェットを自動表示

  • ウィジェットを消して表示領域として利用することも可能

ちなみに、付属の折りたたみスタンドはキーボードを持ち歩く場合のカバーとしても利用できる。同時に、スタンドとして利用している場合には、下部にBluetoothキーボードをマグネットで固定できるようにもなっている。折りたたみスタンドも様々な使い方を想定した仕様となっている点は、よく考えられていると強く感じた。

  • 付属の折りたたみスタンドはキーボードカバーにもなる

  • スタンドとして利用している場合には、手前にBluetoothキーボードをマグネットで装着して利用可能

ディスプレイはさすがのクオリティ

先に紹介しているように、Yoga Book 9i Gen8のディスプレイは2面とも2,880×1,800ドット表示対応の13.3型有機ELパネルを採用している。約10億色の10bitカラー表示、DisplayHDR True Black 500、Dolby Visionに対応と、表示性能はさすが有機ELといったものとなっている。実際に映像を表示してみても、発色の鮮やかさはもちろん、明暗のコントラスト差、階調など、どれも非常に優れていることを実感できる。これなら、映像のプロでも全く不満がないはずだ。

同時に、2面ともに10点マルチタッチと、標準で付属する4,096段階の筆圧検知対応スタイラスペン「Lenovoデジタルペン」を利用したペン入力に対応。タッチ操作や、ペンを利用したクリエイティブ作業も軽快だ。

  • ディスプレイは2面とも2,880×1,800ドット表示対応の13.3型有機ELパネルを採用。また2面とも10点マルチタッチ、ペン入力に対応する

  • 10bitカラー表示、DisplayHDR True Black 500、Dolby Visionに対応で、有機ELパネルらしく映像を鮮やかかつ高コントラストに表示できる

スクリーンキーボードやBluetoothキーボードの下部に仮想タッチパッドを表示している状態で、右のペンアイコンをタップすると、付箋メモウィジェットが起動。ペンでメモを書き込めば、そのメモがロック画面に付箋紙のように貼り付けられる。簡単なアプリだが、ペンを普段から活用できるアプリとして重宝しそうと感じた。

ただし、表面が光沢処理ということも関係し、指紋の痕が目立ちやすいという印象だ。特に下側の画面はスクリーンキーボードや仮想タッチパッドなどで触れる機会が多いこともあって、かなり指紋の痕が気になった。実際に使う場合には、指紋の痕を頻繁に拭った方が良さそうだ。

  • 4,096段階の筆圧検知に対応するLenovoデジタルペンが標準で付属し、2画面ともペン入力が可能

  • 仮想タッチパッドの右にあるペンアイコンをタップすると付箋メモウィジェットが起動し、ペン入力で簡単にメモが取れる

  • 付箋メモでメモした内容はロック画面に貼り付けられる

  • Lenovoデジタルペンはキーボードカバーに装着して持ち運び可能

第13世代Coreプロセッサ搭載でスペック面は充実

Yoga Book 9i Gen8の主なスペックは、以下の表にまとめたとおりだ。

表1 Yoga Book 9i Gen8(試用機)の主なスペック
プロセッサ Core i7-1355U
メモリ LPDDR5x 16GB
ストレージ 1TB PCIe SSD
OS Windows 11 Home 64bit
ディスプレイ 13.3有機EL 2,880×1,800ドット、10bitカラー、DisplayHDR True Black 500、Dolby Vision、10点マルチタッチ、ペン入力対応(2面とも同じ仕様)
無線機能 Wi-Fi 6E(IEEE 802.11ax)、Bluetooth 5.1
生体認証 顔認証カメラ
インターフェイス Thunderbolt 4×3
サイズ/重量 299.1×203.9×15.95mm/1.34kg

Yoga Book 9i Gen8は2023年1月に発表され、海外では2023年夏頃に発売された製品ということもあり、搭載プロセッサは第13世代Coreプロセッサ、Core i7-1355Uとなっている。Meteor LakeことCore Ultra搭載ではないが、メモリは16GB、内蔵ストレージも1TBのPCIe SSDと申し分なく、実際に使ってみても性能面で特に気になる部分はなかった。

無線機能はWi-Fi 6E準拠無線LANとBluetooth 5.1搭載。生体認証機能は、指紋認証センサーは非搭載だが、Windows Hello対応の顔認証カメラを標準搭載しているので、こちらも問題ない。

また、Yogaシリーズでおなじみの、ヒンジ部にBowers & Wilkinsブランドの、Dolby Atmos対応高音質4スピーカーシステムを内蔵するサウンドバーを採用。高品質ディスプレイと合わせ、映像コンテンツを迫力のサウンドで楽しめる点も嬉しいポイントだ。

  • 天板

  • 本体正面

  • 左側面

  • 背面

  • 右側面

  • 底面

  • カメラには物理シャッターは搭載しないが、電気的に動作をオフにできるスイッチを側面に用意

  • ヒンジ部にBowers & Wilkinsブランドの、Dolby Atmos対応高音質4スピーカーシステムを内蔵するサウンドバーを採用

ただ、いくつか気になる部分もある。まずひとつはポートの種類。Yoga Book 9i Gen8に用意される拡張ポートは、Thunderbolt 4が3ポート(左側面×1、右側面×2)のみとなる。もちろんThunderbolt 4自体は拡張性が非常に優れるため、拡張性や周辺機器の接続性などに不満はない。とはいえUSB Type-Aなどがないためポートリプリケータなどの用意が不可欠で、その点は少々気になる部分。

  • 左側面にThunderbolt 4を1ポート配置

  • 右側面にThunderbolt 4を2ポート配置。ポートは全てThunderbolt 4で拡張性は優れるが、USB Type-Aなど他のポートが用意されない点は少々残念

もうひとつは本体の重量だ。サイズは299.1×203.9×15.95mmと、13.3型ディスプレイを2画面搭載するコンバーチブル型ノートPCとして十分にコンパクトかつ薄い。しかし重量は1.34kg、実測で1,336.5gと、サイズの割に重い印象だ。さらに、付属のBluetoothキーボードとキーボードカバー、スタイラスペンの全てを同時に持ち歩く場合の重量は実測で1,790gに達する。

近年、13.3型モバイルノートPCは1kgを切る軽さが珍しくないこともあってか、本体だけでもかなり重く感じてしまう。ディスプレイを保護したり、2in1 PCとして軽快に利用できるよう、ボディには優れた強度が求められるため、それによる重量増もあるだろう。もちろん、ほとんど持ち歩かないのであれば問題はないが、モバイルノートPC相当の使い方を想定するのであれば、重量に関してある程度の妥協が必要そうだ。

  • 本体重量は、実測で1,336.5gと、13.3型のモバイルノートPCとして考えるとやや重い

  • 本体と折りたたみスタンド、キーボード、Lenovoデジタルペン全ての重量は実測で1,790g。これを持ち歩くのはちょっとつらい印象だ

  • 付属の65W ACアダプタは比較的コンパクトで、持ち運びやすい

  • ACアダプタの重量は実測で172.2gだった

性能面に不満なし

では、ベンチマークテストの結果を見ていこう。まずはじめにPCMark 10の結果だが、搭載プロセッサからするとまずまずのスコアが得られている。より高性能なCore i7 Pプロセッサ搭載モデルと比べるとやや見劣りするのも事実だが、これだけのスコアが発揮されるなら少々重めの作業でも大きな不満を感じることなく利用できるはずだ。

  • PCMark 10は、搭載プロセッサを考えるとまずまずのスコア。よほど重いアプリでなければ十分快適に利用できそうだ

続いてプロセッサーの処理能力を計測するCINEBENCH R23の結果。こちらもまずまずのスコアといった印象で、搭載プロセッサなりの性能が引き出せていると言っていいだろう。

  • CINEBENCH R23の結果も搭載プロセッサなりのスコア。少々物足りなさもあるが、プロセッサの性能はしっかり引き出せている

3DMarkのテストは、Night RaidとTime Spyを利用。こちらも、搭載プロセッサを考えると十分なスコアだ。製品の性質を考えるとディスクリートGPUを搭載していても良かったかもしれないが、性能面だけでなく価格も含めた総合的なバランスを考えると、このあたりは妥協すべきだろう。

なお、ベンチマークテスト時のCPUクーラーの動作音は、しっかりと耳に届くレベルではあるが、うるさいと感じるほどではなかった。おそらく、オフィスなどで利用する場面ではほぼ気にならないはずで、この点はなかなか好印象だった。

ディスクリートGPU非搭載ということもあって特別飛び抜けたスコアではないが、用途を考えると特に不満はない。ちょっとしたゲームなら快適にプレイできるはずだ。

  • 3DMark Night Raidの結果

  • 3DMark Time Spyの結果

最後にバッテリー駆動時間だ。PCMark 10に用意されているバッテリーテスト「PCMark 10 Battery Profile」の「Modern Office」を利用し、ディスプレイ輝度50%、下側の画面にはスクリーンキーボードを表示して計測したところ、11時間39分を記録した。

公称の駆動時間は、JEITA 2.0で約11時間、JEITA 3.0で動画再生時約6.8時間、アイドル時約9.6時間とされている。そう考えると、今回の結果はなかなか優秀という印象だ。

おそらく、通常の使い方では、より駆動時間が短くなる可能性が高いが、2画面をフル活用し高負荷な作業を長時間行わなければ、8時間程度は十分使えそうと感じる。そのため、モバイル用途にも十分活用できそうだ。

  • PCMark 10のバッテリーテスト「PCMark 10 Battery Profile」の「Modern Office」で11時間39分と、なかなかの駆動時間を計測。実利用ではもっと短くなる可能性が高いが、それでもモバイルノートPCとして十分活用できそうだ

新機軸の2in1 PCを使いたい人にお勧め

2画面搭載のノートPCはこれまでにもいくつか登場している。それらの多くは登場時には注目されても、思ったほどの成功を収められていない。それは、2画面をうまく活用する使い方を提案できていなかった部分もあったと思う。

そういった中、Yoga Book 9i Gen8は、見てきたようにこれまでの2画面PCではできていなかった多様な利用スタイルを提案できている。実際に使ってみても、利便性や使い勝手に納得できるものが多い。スクリーンキーボードの利便性や、重さなど気になる部分もあるが、実際に使って利便性を実感すれば、手放せなくなるほどの魅力を備えていると感じた。

あとは、38万円ほどとなかなか高価な価格をどう考えるかだろう。確かに価格的には高いかもしれないが、有機ELディスプレイを2面搭載し、他にはない利便性を実現できる点を考えると妥当とも言える。利便性を重視した新機軸の2in1 PCを使いたいと考える人にお勧めしたい。