ゲーム『龍が如く』シリーズに登場する関東最大の極道組織「東城会」。その四代目会長を襲名するも、すぐに引退し、カタギとして生きる道を選んだシリーズ主人公の「桐生一馬」は、『龍が如く6 命の詩。(以下、龍が如く6)』のラストで、裏社会で暗躍した「昭和のフィクサー」大道寺稔の秘密を守るため、そして、なにより桐生がもっとも大切にしている児童養護施設「アサガオ」の子どもたちを守るため、自らの死を偽装することを決めた。
『龍が如く6』のあとに発売されたナンバリングタイトル『龍が如く7 光と闇の行方(以下、龍が如く7)』では、主人公が元「東城会」荒川組の「春日一番」に引き継がれることになる。さらに、戦闘システムもこれまでのアクションバトルからコマンドバトルへ変更された。
姿を消した桐生の出番はもうないのかもしれない。『龍が如く7』を始めたとき、筆者はそう思った。だが桐生は、同作中にてサプライズ登場を果たす。それは、関西最大の極道組織「近江連合」と「東城会」が同時に組織を解散させる宣言をする場だった。
解散宣言をした「近江連合」若頭の「渡瀬勝」の用心棒として登場した桐生。その場には、「堂島大吾」「真島吾朗」「冴島大河」など、桐生を知っている人物が多くいるにもかかわらず、渡瀬は桐生のことを「名前も知らないただの用心棒」と話す。
死んだはずの人間がここにいるわけがない。桐生が生きていることは決して知られてはならないタブーなのだ。しかし、「なぜ渡瀬の用心棒に?」という疑問は『龍が如く7』の最後まで解消されることはなかった。
2023年11月9日に発売されたシリーズ最新作『龍が如く7外伝 名を消した男(以下、龍が如く7外伝)』は、桐生が単独主人公の物語。ここで、『龍が如く7』の裏側で桐生が何をしていたかが明らかになる。
桐生は、“名を消した男”として、大道寺一派のエージェントになり、コードネーム「浄龍」の名で、一派から命じられた任務をこなす日々を過ごしていた。寺の縁側で座禅を組む姿は、まるで修行僧。そこへ、大道寺一派の管理者である「花輪喜平」がやってくる。告げられた任務は「横浜港での金塊密輸取引の警護」だ。桐生が現場へ向かうと、想定外の事態が起きる。実はこの取引、大道寺一派をおびき寄せる罠だった。
裏切りの裏切り――。引き込まれるストーリーは今作も健在
同シリーズの魅力の1つは、何と言っても個性豊かなキャラクターが織りなすストーリー。極道の世界が舞台だが、ただドンパチするだけではない。交差する思惑、裏切りのさらに裏切り、黒幕の意外性など、最後の最後まで息つく暇なく展開される物語が、プレイヤーを夢中にさせる。
今作も例にもれず、おもしろい。だが、ストーリーのどんなところがよかったか詳細を話すと、すべてネタバレになってしまうので、記事ではあまり多く語れないのが残念だ。
1つ言えるとするならば、シリーズのファンはマストプレイ。人生をすべて捨てたとはいえ、桐生一馬は相変わらず桐生一馬で、敵に情けをかけたり、感情的に後先考えずに動いたりと、今作でも“らしい”生き様を見せてくれる。死を偽装した桐生が、『龍が如く6』のあと、どのように過ごし、「近江連合」と「東城会」の解散にどう関わっていくのか知れるだけでも、価値があるのではないだろうか。
また、春日と桐生がダブル主人公の次回作『龍が如く8』では、桐生がガンであることを告白するシーンが公開されているし、おそらく今回が最後の“桐生一馬単独主人公”作品になるだろう。プレイしない手はない。
なお、メインストーリーは比較的コンパクトにまとめられている。『龍が如く7』での登場シーンに向かって一直線に進んでいくイメージだ。とはいえ、サブストーリーやプレイスポットをうまいこと経由しながら進むので、ホッとコントローラーを握る手が緩むシーンも多い。緊張と緩和がちょうどいいバランスで展開される。
意外だったのは、あまり死人が出ないこと。世界観が世界観だけに、同シリーズでは「誰かが死なないと物語が進まない」と思わせるほど、最初から最後まで、主要キャラクターでも容赦なくバンバン死んでいく。だが、今作では、「え、このキャラ死ぬの?」といった絶望はなかった。まあ、最初の金塊取引現場ではモブが数人死んだけど。
そしてなんと言っても、本編クリア後にアンロックされる『龍が如く8スペシャル体験版』。体験版では、「ストーリー体験モード」と、物語の舞台を散策できる「ハワイ体験モード」をプレイできる。なぜ桐生一馬がハワイに行くのかは『龍が如く7外伝』の本編で語られるが、桐生視点で春日と出会うシーンを体験できる貴重な機会だ。『龍が如く8』本編にはないシーンなども収録されているため、こちらもプレイしたほうがいい。
しかもこの体験版は、「『龍が如く7外伝 名を消した男』動画・生放送等配信ガイドラインのお知らせ」で、配信禁止区間に設定されている。自分でプレイしないことには見ることができない。
2つのバトルスタイルで広がる戦術
『龍が如く7外伝』は、伝説の元極道である桐生一馬単独主人公の作品だ。『龍が如く7』や『龍が如く8』とは違い、『龍が如く6』までと同様のアクションバトルを採用している。街でチンピラやヤクザに絡まれたら、パンチやキックで応戦。看板や自転車などを拾ってぶん回すアクションバトルならではの立ち回りも可能だ。
違うのは、ケンカアクションを進化させた「応龍」に加え、大道寺で身につけた武術とガジェット装備を組み合わせた「エージェント」というスタイルに切り替えられること。エージェントでは、ワイヤーを射出する「蜘蛛」、AI搭載ドローンを使った「蜂」、タバコ型爆弾「蛍」、ジェットシューズ「蛇」といった専用ガジェットを駆使する、テクニカルなバトルを楽しめる。
筆者のお気に入りはエージェントの「蜂」だ。呼び出したドローンがチクチクと攻撃をしてくれるのだが、敵に近づくことなくダメージを与えられてかなり便利。時間はかかるものの、回復アイテムの節約にもなるため、拳は使わずに大量のドローンに攻撃させることが多かった。
タバコ型爆弾の「蛍」も強力。ポイっと捨てた爆弾が一定時間後に爆発し、複数の敵に対してダメージを与える。桐生らしくない戦い方かもしれないが、斬新でどれも使ってみたくなるガジェットばかりだ。
とはいえ、エージェントだけしか使わないかというと、そんなことはない。ドローンの召喚ばかりしていたら、シンプルに暴れるシリーズならではのケンカアクションが恋しくなる。応龍とエージェントは、戦闘中いつでも切り替え可能なので、わりと頻繁にモードをチェンジさせてプレイしたのではないだろうか。
さらに、応龍とエージェント、それぞれのモードのヒートアクションも用意。「能力強化」で取得するれば、新たなアクションが使えるようになる。また、エージェントの場合は、ガジェットレベルの強化も行える。
ギュッと詰まったプレイスポットでミニゲーム遊び放題!
横浜港での金塊密輸取引事件のあと、桐生は少しだけ横浜の伊勢佐木異人町にいるが、すぐに大阪の蒼天堀へ行くことになる。歴代シリーズをプレイしたことがある人ならば、何度も訪れたであろう地だ。桐生はそこで、なんでも屋「赤目」に出会う。
赤目は、蒼天堀に独自のネットワークを構築しており、街のさまざまな依頼を受けている。桐生はその仕事を手伝うことになり、蒼天堀の住人と交流しながらあちこち駆け回る。これがいわゆるサブストーリー。シリアスな本編ストーリーとのギャップが大きく、クスッと笑えるようなシーンもあって一つひとつがおもしろい。お茶目な桐生の一面が垣間見えることもあるだろう。
また、同じ「龍が如くスタジオ」が開発した『JUDGE EYES:死神の遺言』『LOST JUDGMENT:裁かれざる記憶』からは海藤正治、東徹がゲスト出演。桐生とどんなやり取りがあるのか、ぜひプレイして確かめてほしい。クリアすると、闘技場のメンバーとして戦ってくれるようになる。
プレイスポットも豊富。「カラオケ」「ダーツ」「ビリヤード」「将棋」「ゴルフ」「ゲームセンター」をはじめ、カスタマイズしたマシンでレースに挑む「ポケサー」、「キャバクラ」など、マップ自体はそこまで広くないが、バラエティに富んだ遊びがギュッと詰まった印象だ。
特に、「キャバクラ」は必見。発売前には作品に登場する権利をかけた「生キャバ嬢オーディション」が実施されており、その合格者が“生キャバ嬢”として出演している。
一体何が“生”なのかというと、キャバクラでは実写のシーンをふんだんに使っているのだ。実際にプレイしてみると、ゲームなのになんだかイケないことをしているみたいでドキドキする。手始めにオーディションでグランプリを受賞したksonさん演じる「ケイ」ちゃんを指名してみた。
やはり実写だからリアリティもあって、ふむふむ。これは。なんとまあ。ほほお。なるほどではもう1回。うん、これには桐生さんもご満悦である。たしか、このときは大道寺一派の管理者である花輪が拉致されていた状態だった気がするが、そんなことを忘れるほど必死にケイ嬢の好感度を上げていた。
そしてもう1つ、特徴的なプレイスポットが「闘技場」だ。通常のバトルに近いタイマンルールもあるが、「浄龍会」というチームを編成して大乱闘する「ZIGOKU TEAM RUMBLE」がおもしろい。
チームメンバーは街で声をかけたり、サブストーリーをクリアしたりすることで追加される。桐生以外のキャラクターを操作できるので、実際に先述した海藤を操作してみたところ、ドロップキックなど桐生があまり使わない技を使えて新鮮さを味わえた。モブ含めてさまざまなキャラでプレイしたくなる。
完成度の高いストーリーで体感するエージェントとしての桐生一馬の物語、そして生キャバや闘技場といった豊富なプレイスポットなど、“滾る”遊びがたくさん詰まった『龍が如く7外伝』。今作からシリーズをプレイする人でも楽しめるだろうが、できれば『龍が如く7』や『龍が如く6』、願わくば歴代シリーズに触れてから、桐生一馬の人生の行く末を見届けてほしい。
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