VAIO S13はクラムシェルスタイルのノートPCだ。ディスプレイサイズは13.3型で本体の重さは最軽量構成で1,072gと軽く、携行利用を重視した個人向けモバイルノートPCとなる。VAIOの個人向けラインアップ構成はハイエンドのSX、アドバンストのS、スタンダードのFといった3系統に分かれている。
その区分けに従うと、VAIO S13はVAIOのモバイルノートPCにおけるミドルレンジモデルという位置づけとなる。加えて、VAIO S13に対しては「ビジネスモバイルPCのベストバランス」という役割を課している。
等倍でも見やすい絶妙な13.3型/16:10フルHD解像度ディスプレイ
VAIOではVAIO S13のコンセプト、さらにはモバイルノートPCとして上位モデルになるVAIO SX12との違いについて、「価格と性能バランスを重視」「持ち運びをはじめ汎用的に用途をカバー」が主な要素だと述べている。価格にしても汎用的な用途にしても、その象徴ともいえるのが、ディスプレイに選択した13.3型というサイズ感だろう。
13.3型ディスプレイは、モバイルノートPCのいわば“標準装備”といえる仕様だ。しかも、VAIO S13のディスプレイは最大解像度1,920×1,200ドット、横縦比16:10と同サイズディスプレイで採用例が多い1,920×1,080ドット、縦横比16:9と比べて縦方向の表示量が多い。そのため、文章作成作業では表示行数が増えて文章の“見通し”がよくなり、画像編集作業では表示領域が広く確保できるので、いずれにしても作業効率は向上する。
ディスプレイサイズが13.3型のまま解像度が縦方向に増えたことから、「もしかして横方向のサイズ、短くなっていない? ていうか、フォントの表示サイズが小さくなって文字が見づらくなっていない?」と懸念する人がいるかもしれない。13.3型(対角線の長さが13.3インチ)ディスプレイの場合、解像度が1,920×1,080ドットなら幅は294.4mm、高さは165.6mmで、1,920×1,200ドットなら幅が286.4mm、高さは179.0mmとなる。
ディスプレイサイズが同じならディスプレイの横縦比が16:9から16:10となることで高さは増えても幅は短くなるわけで、にもかかわらず解像度が増えることで粒度は細かくなる。計算上、1,920×1,080ドットでは画素密度は166dpiで画素ピッチは0.153mmなのに対して、1,920×1,200ドットでは画素密度が170dpi、画素ピッチは0.149mmと数値としては“細かく”なる。
個人的に、文字が細かくなると途端に見えにくくなるがゆえに、解像度が増えることにたいして手放しで喜べないお年頃だったりする。これは特に、画面サイズがコンパクトにならざるを得ないモバイルノートPCで顕著になる。
と、ここまで書いてある内容を読むと「ははぁー、筆者は画面の文字が見づらくて解像度が上がったからかえって使いにくくなったって言いたいんだな」と思うかもしれない。実は筆者もそうなるのではないかと危惧していた……のだが!
評価機材のディスプレイを実際に見てみると、表示は鮮やかで明瞭なおかげかくっきりとしてとても見やすい。スケーリング設定がWindows推奨の150%になっているのは当然として、一段階細かい125%だけでなく、短時間の使用なら何とか使える100%設定でも普段使いとして利用することが可能だった。1,920×1,200ドットの100%設定なら13.3型ディスプレイのモバイルノートPCでもデスクトップPCと遜色のない見通しで作業が快適になる。
新しくなったブロンズカラーはシックな印象
改めて、VAIO S13の外観からチェックしていこう。前述のとおり、本体サイズに影響するディスプレイサイズは従来モデルと同じ13.3型だが、横縦比が16:9から16:10となったことでボディサイズは幅が約299.3×奥行き約221.1×高さ約17.7~19.6mmと、従来のVAIO S13(W305.8×D215.1×H14.4(前端)~18.4(後端)mm)と比べて奥行きが6mm、高さが最薄部で3.3mm、最厚部で1.2mmほどサイズアップしているものの、使い勝手に影響しやすい幅の関しては6.5mmもコンパクトになった。なお、既に紹介した本体の重さは従来モデル(最軽量構成で1.05kg)と比べて20g強増加とほんのわずかに増えている。
カバンへの収納のしやすさや机への置きやすさなどでは、幅がコンパクトであるほうが取り回しはいい。ただし、キーボード関連のサイズに関していうと本体の幅がコンパクトになるとタイプがしづらくなる傾向にある。VAIO S13新モデルのキーピッチは公称値で19mm、キーストロークは1.5mmとされている。これは、従来モデルと変わらない(なお、評価機材の実測値はキーピッチが19.2mm、キートップサイズが14.8mmだった)。
タイプした感触も従来モデルと同様で、やや軽めだ。なお、こちらも従来モデルと同じく、ディスプレイを開くと本体奥側がリフトアップして傾斜がかかる機構を採用している。確かにタイプをするときに指の動きが楽になるが、本体を浮かせたことでタイピングの衝撃がボディに少し伝わりやすくなっている。
なお、タッチパッドのサイズは実測で90.2×55.8mm。下側に独立したクリックボタンを備える。その高さは実測で9.9mm。やはり、独立したクリックボタンがあるのは操作が確実でストレスを大幅に削減してくれる。タッチバッドを使うシーンが確実に想定されるなら、独立したクリックボタンは必須装備だ。
ビジネス利用を重視しているVAIO S13の従来モデルでは、本体カラーとしてシルバー、もしくは、ブラックを用意していた。その存在を主張しすぎないように、というのがその理由だったが、今回登場したVAIO S13では「ブロンズ」が加わった。
ブロンズ系統の本体カラーは既にVAIO SX12で「アーバンブロンズ」が用意されている。しかし、VAIO S13のブロンズはビジネスシーンでも違和感がないようにアーバンブロンズとは異なる「主張しすぎない、ビジネスにちょうどいい高級感」として新たに調色された点がポイントだ。
キーボードからパームレストに至る部材(製造現場でいうところの「C面」)は1枚のパネルとなっていて、その表面にはヘアラインが施されている。このヘアラインも含めてビジネスシーンに合うデザインを追求したとVAIOでは説明している。
そのため、ヘアライン加工では加工圧力の違いによるパネル面の輝き(輝度)や染料配合の違いにより色合い、さらには、薬剤によるパネル表面の処理時間から染色時間の次回により色合いなど各工程において試作を繰り返して、ビジネスシーンに最も適したブロンズを作り出している。
性能をチェック! 第13世代Core Uプロセッサ搭載
上位ラインアップともいえるVAIO SXシリーズは、CPUにTDP 28WのCoreプロセッサ“P”シリーズを載せているが、ミドルレンジともいえるVAIO SシリーズはTDP 15WのCoreプロセッサ“U”シリーズを採用した。ただし、従来モデルで第12世代だったCoreプロセッサは第13世代へと強化された。
店頭モデルのCPUとしては「Core i7-1355U」「Core i5-1334U」「Core i3-1315U」の3種類を用意している。評価機材にはこの中で最上位のCore i7-1355Uを載せていた。
Core i7-1355Uは処理能力優先のPコアを2基、省電力を重視したコアを8基組み込んでいる。Pコアはハイパースレッディングに対応しているので、CPU全体としては10コア12スレッドとなっている。TDPはベースで15W~55Wとなる。グラフィックス処理にはCPU統合のIris Xe Graphicsを利用し、演算ユニットは96基で動作クロックは最大1.3GHz。
そのほか、評価機材のシステムメモリはLPDDR4-4266(MT53E1G32D4NQ-046)を採用していた。容量は16GBでユーザーによる増設はできない。ストレージは容量512GBのSSDで試用機にはSamsung電子のMZVLQ512HBLU-00B07を搭載していた。接続バスはNVM Express 1.4(PCI Express 3.0 x4)だ。
- 評価機材の主な仕様:VAIO S13
- CPU:Core i7-1355U
- メモリ:16GB (LPDDR4-4266)
- ストレージ:SSD 512GB(PCIe 3.0 x4 NVMe、MZVLQ512HBLU-00B07 Samsung)
- 光学ドライブ:なし
- グラフィックス:Iris Xe Graphics(CPU統合)
- ディスプレイ:13型 (1,920×1,200ドット)非光沢
- ネットワーク:IEEE802.11a/b/g/n/ac/ax対応無線LAN、Bluetooth 5.2
- サイズ / 重量:W299.3×D221.1×H17.7~19.6mm / 約1072g
- OS:Windows 11 Pro 64bit
Core i7-1355Uを搭載したVAIO S13の処理能力を検証するため、ベンチマークテストのPCMark 10、3DMark Time Spy、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 8.0.4 x64、そしてファイナルファンタジー XIV:暁月のフィナーレを実施した。
なお、比較対象として従来モデルのVAIO S13を併記する。CPUにCore i7-1255U(4+8スレッド:P-core 2基+E-core 8基、動作クロック:P-core1.7GHz/4.7GHz、E-core1.2GHz/3.5GHz、L3キャッシュ容量:12MB)を搭載し、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット、システムメモリがLPDDR4x-6400 16GB、ストレージがSSD 256GB(PCI Express 3.0 x4接続、)を搭載している
ベンチマークテスト | VAIO S13 | 比較対象ノートPC(Core i7-1165G7) |
---|---|---|
PCMark 10 | 5009 | 4877 |
PCMark 10 Essential | 10153 | 10326 |
PCMark 10 Productivity | 5940 | 5730 |
PCMark 10 Digital Content Creation | 5658 | 5322 |
CINEBENCH R23 CPU | 6711 | 5602 |
CINEBENCH R23 CPU(single) | 1657 | 1406 |
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Read | 3115.86 | 3152.75 |
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Write | 1328.16 | 1224.74 |
3DMark Time Spy | 1547 | 1480 |
3DMark Night Raid | 14936 | 13334 |
FFXIV:暁月のフィナーレ(最高品質) | 3665(設定変更を推奨) | NA |
大きくスコアが開いているわけではなく、一部拮抗している項目があるが、総じて第13世代のCoreプロセッサを採用したVAIO S13が上回っている。特に、マルチスレッドの処理能力を測定するCINEBENCH R23のマルチスレットテストのスコアは比較対象を大きく上回る。ゲーミングベンチマークテストの3DMark Night Raid、3DMark Time Spyも同様だ。
バッテリー駆動時間について、VAIOの仕様表によると約21.5時間(JEITA 2.0測定条件)となっている。ディスプレイ輝度は10段階の下から6レベル、電源プランはパフォーマンス寄りのバランスにそれぞれ設定し、「PCMark 10 Battery Life benchmark」で測定したところ、Modern Officeでの動作時間は11時間56分(Performance 5290)となった。容量をPCMark 10で検出すると、51,150mAhと表示されており、これは従来モデルのVAIO S13の53,020mAhと比べると若干少ないようだ。
なお、従来モデルのVAIO S13と同様にCPUとクーラーファンの動作モードを「パフォーマンス優先」「標準」「静かさ優先」の3種類から変更できる。ただし、今回登場したVAIO S13ではVAIOが開発した独自機能「VAIO True Performance」を利用できない。
では、それぞれのモードで処理能力とクーラーユニットの発生音量とボディの表面温度はどのように変わるのだろうか。CINEBENCH R23と3DMark Night Raidを実行したときのスコア3DMark Night Raid実行時に測定した表面温度と騒音は以下のようになった。
動作モード | 静音 | 標準 | パフォーマンス優先 |
---|---|---|---|
3DMark Night Raid | 11149 | 14936 | 15889 |
発生音量(暗騒音36.4dBA) | 36.3dBA | 42.2dBA | 47.5dBA |
底面 | 45.4度 | 43.5度 | 46.8度 |
上述したように、VAIO S13は独自の性能優先モード「VAIO True Performance」には対応していない。しかし動作モードの変更で挙動も明確に変化し、ベンチマークテストのスコアが上昇。ファンの回転数も高まり、排熱が大きくなって表面温度も高まっている。
これだけベンチマークテストのスコアが異なるのであれば、処理能力を優先したいときは「パフォーマンス」を選択するべきだろう。また、ファンの発する音は「標準」でもさほど多くはなく、「パフォーマンス」でやっと「隣に迷惑がかかるかな?」と気になるぐらいの大きさだった。
表面温度に関しては、底面の温度で“お風呂並み”の熱さになる。標準状態、パフォーマンス状態では熱めのお風呂を超える温度だ。ただ、VAIO S13はディスプレイを開くと本体が浮く構造なので膝には直接触れることはないので、低温やけどを危惧する必要はないだろう。
品がよく落ち着いたカラーが好感触。性能も使い勝手も両立されたモデルに
今回登場したVAIO S13は、見た目の印象としてカラーリングとして加わったブロンズの印象がやはり強い。確かに落ち着いた色合いはそのために調色しただけあって、ビジネスの現場にあってもその存在を声高に主張することなく、それでいて、その存在感は確実に、そして、品よく周囲に知ってもらえるだろう。
そして、モバイルノートPCとしての使い勝手という意味では、1920×1200ドットの解像度は文章作成においても画像編集においても作業効率を格段に向上させる。特に、ディススプレイ表示の見やすさといったカタログスペックだけでは分かりにくい部分のクオリティの高さはスケーリング設定が100%でも十分に実用的で、それが競合するモバイルノートPCに対して圧倒的なアドバンテージとなる。
“見た目”だけでなく“真の実力”という意味でも新生VAIO S13は(モデルによる構成の違いが多種多様で把握しにくいという難点もあるが)検討必須のモデルとなるだろう。