なおここまでの観察は、蛍光の散乱を防ぐため、腹側ノードを覆っている胚体外膜を除去して行われてきた。しかし同膜は、腹側ノード中に比重の高い溶液をとどめておき、PKD1L1の移送を助ける役割を果たしている可能性があったとする。そこで研究チームは、胚体外膜越しの観察を実施。すると腹側ノードの床はメッシュ状の構造で底上げされており、その空隙の部分から胚体外液が出入りしてノード流を整えていることが突き止められた。
その後改めて胚体外膜を除去したところ、蛍光タンパク質を含む網状の構造の存在が観察された。つまり、腹側ノードからPKD1L1を含んだ線維状の構造がノード流により左に吹き流されていくとともに、その線維が互いにより合わさってメッシュワークを作り、ノード流を構造的に安定化させていることが確かめられたとしている。
研究チームは続いて、ノード流内のファイバーの吹き流しにより、腹側ノード左側に移送された「ポリシスチンタンパク質」が、どのようにして活性化され細胞内カルシウム上昇を引き起こすのかを調べたとのこと。そしてまず、腹側ノードの免疫染色と近接ライゲーションアッセイの結果から、ノード左縁でPKD1L1ポリシスチンタンパク質は、「ノーダルタンパク質」と結合していることが判明した。
そこで、ノーダルタンパク質がポリシスチンレセプターチャネルの新たなリガンドである可能性を考慮し、線維芽細胞に「PKD1L1/PKD2ポリシスチン」を共発現させ、ノーダルタンパク質で刺激したとする。そして細胞のカルシウム上昇を定量すると、ノーダルタンパク質による刺激に伴って、共発現細胞のカルシウムが上昇したという。この上昇はポリシスチンが発現していない細胞では起こらず、また発現している細胞もほかの刺激では応答しなかったとのこと。つまり、ノーダルタンパク質が左側に移送されたポリシスチンに結合することでポリシスチンチャネルが開口し、細胞内へのカルシウム流入が生じるという、新しい仕組みが示唆されたのである。
研究チームは今回の研究成果について、細胞外のメッシュワークに関係した新しいタンパク質の細胞外移送機構を示唆するもので、これをターゲットとしたまったく新しい視点の抗がん剤の開発などの臨床応用が期待されるとしている。