古くからMicrosoftはOSにバックアップ機能を備えてこなかった。機能そのものはあったのだが、Microsoft製ではなく、MS-DOSはSymantec&Quest Development、Windows NTはVeritas Technologies製のアプリをOSの標準機能としてきたのである。

  • MS-DOS 6.2Jのmsbackupコマンド。コピーライトの部分に注目してほしい

それでもWindows NTの本流となるWindows 2000やXPは、UI面や一部機能を改良しながら標準機能として提供してきた。機能的には物足りない部分があったのだが、そのぶんサードパーティー製の優れたバックアップツールがいくつも登場して賑(にぎ)わっていたものだ。オールドユーザーなら記憶にあると思う。また、Windows 8.xはバックアップ機能が正常に動作せず、しまいには「バックアップと復元(Windows 7)」と名称を変更して、Windows 8.x/10/11では正常に動作しないことを暗に示していた。

  • Windows NTの標準バックアップ機能はWindows 8.xで事実上終了した

翻ってWindows 10になると、「ファイル履歴」で任意のフォルダーを指定すれば、文字どおり世代管理のバックアップができて有用だ。筆者も数年間は使い続けたが、Windows 11に移行してからはバックアップ先のドライブを見失うなど挙動不審が目立ち、無効にせざるを得なかった(筆者の環境によるものかもしれないが)。

それでも困らなかったのは、OneDriveというクラウドストレージをバックアップ兼作業フォルダーとして使用できたからだ。今ではOS本体もリセット機能を備えるようになり、OneDriveフォルダーの同期機能さえあれば、再セットアップも容易だろう。蛇足だが、winget(Windows Package Manager)を使えば、アプリの再インストールもほぼ自動化できる。

  • Windows 11 22H2(ビルド22621)は「Windowsバックアップ」という名称でOneDriveフォルダーの同期機能を提供している

OneDriveフォルダーの同期機能は、OneDriveクライアントのバージョンアップにあわせた連携で標準提供するようになった。Microsoftはさらに一歩進めるため、単独アプリ「Windowsバックアップ」の提供を予定している。現在はDevチャネルのWindows 11 Insider Preview ビルド23466以降で使用でき、新たにMicrosoft Store経由で入手したアプリ、Windows 11の設定、資格情報がバックアップ対象に加わった。復元はWindows 11のOOBE(Out-Of-Box Experience)で実行する。

  • DevチャネルのWindows 11 Insider Preview標準アプリの「Windowsバックアップ」

一昔前のバックアップといえば、HDDをイメージファイル化してリムーバブルメディアに保存していたユーザーも多いだろう。これならHDDが物理的に故障しても、かなり楽に復旧できる(イメージファイル化に使ったバックアップツールの機能を用いて、イメージファイルをHDDへとリストアするだけでよい。OSやアプリの再インストールは不要。リストア後に各種アップデートの適用が必要な場合もある)。

だが現在は、個人的なファイルをクラウドストレージと同期し、アプリの設定情報もクラウドストレージに格納するようにと、Microsoftも公式ドキュメントで推奨している。OS起動直後にMicrosoft Azureの特定仮想マシンに即時アクセスする「Windows 365ブート」の機能提供からも分かるように、ゲームユーザーやワークステーション級の業務を自宅で行うエンジニアを除いては、手元に高性能なPCを置く意味がますます薄れてきた。デスクトップPC派の筆者も考えを改めなければならなそうだ。