カシオ計算機は5月11日、2023年3月期の決算発表をライブ配信した。当期の通期実績は、売上高2,638億円、営業利益は182億円。利益率は6.9%となり、売上高は対前年同期比で105%となった。売上高は前年を超えたものの、営業利益と経常利益、当期純利益は前年を割り込んでおり、昨今の世界的な生産・流通面におけるコストアップの影響を受けたことがわかる。

  • G-SHOCKのスポーツライン「G-SQUAD」の最新モデルとなる「GBD-H2000」シリーズ。ポラール社のアルゴリズムを採用し、ライフログや睡眠計測をはじめとして、各種アクティビティ、スポーツ、トレーニングなど多彩なログに対応している

時計事業が復調を牽引。日本市場の戻りにも期待

コストアップに対しては、別記事『G-SHOCKが6月1日から最大15%の値上げ - カシオのクロック製品も価格改定』でも紹介した通り、製品の価格改定で対応することがすでに発表されている。たとえばG-SHOCKの場合、5%~15%の値上げ幅となる。

  • 営業利益と経常利益、当期純利益は前年を割り込んだが、売上高は前年を超えており復調傾向

  • 原材料の高騰などの影響を受けやすい楽器など、コンシューマセグメントの利益回復が課題

セグメント(事業)ごとの実績は、時計、コンシューマ、システムともに売上高は前年超。しかし、前述のように利益はやや低調となった。

この結果について、カシオ計算機 執行役員IR財務戦略担当の田村誠治氏は「日本、北米、欧州、その他地域では、第4四半期および対前年実績では増収」とする一方、「中国でゼロコロナ政策および政策転換後の感染者増加の影響があった」と説明。その結果「利益率の高い中国、日本地域の売上構成比が低下し、収益性が悪化した」と、コストアップ以外の要因についても述べた。

  • 中国市場の動向が全体の実績に影響

  • 時計事業の第4四半期は、新定番のメタルG-SHOCK「GM-B2100」、マルチスポーツ対応のG-SQUAD「GBD-H2000」も話題に

  • G-SHOCKの新しい定番となった、8角形ベゼル&メタル素材の「GM-B2100」シリーズ。写真は2023年3月発売の新色イエローゴールド(GM-B2100GD-9A)

ただし「現状では、他の地域と比べると戻りが鈍いという印象があるが、これからの戻りが期待でき、特に今期の伸び率は他の地域よりも期待できると考えている」(田村氏)とした。

実際、日本市場における時計事業の第4四半期実績は前年超となっている。中国については「人の流れ自体は戻りつつも、購買意欲自体はまだ低迷しており、先を見通すのは正直難しいという状況」(田村氏)とのこと。

  • 第4四半期は世界市場が復調傾向にある中、中国市場のみ出遅れた。そのぶん、EC販売比率は最も高い

  • 教育事業は復調へ。関数・一般電卓が売れており、利益率も高い

  • 楽器事業は電子ピアノのPriviaブランドが好調も、製造・流通コストの高騰が利益に影響

  • 2022年9月発売のPriviaシリーズ最新モデル「PX-S7000」は、コンパクトな本体に加えて、部屋の中でどこに置いても違和感のない全周囲デザインを目指している。本体カラーのハーモニアスマスタードも好評(ほか、ブラック、ホワイト)

「収益基盤強化期」に戦略的な事業投資を実施

今回の配信では、カシオの中長期経営方針についても説明。決算報告と同等以上の時間と熱量をもって語られた。田村氏は「前半は事業構造の立て直しに全力で取り組み、以降は2030年度に向け企業価値の最大化を目指す」と語った。

たとえば時計事業では、前回の中期経営計画の振り返りとして、成果と対応すべき課題に触れた。

  • 前回の中期経営計画の振り返りによる成果(左:青字)と課題(右:黒字)。「中国などへの過度な依存から脱却」も急務

「時事業の中心であるG-SHOCKは、そのブランディングを強化していく」と田村氏は言う。そして「そのためには、マーケットの変化に合わせて独自のポジションを確立することが重要」と続けた。

  • 新たな価値軸を生み出すことは得意なカシオ。これらを「どう育てていくか」が大きな課題

そのポイントとして以下の3点を掲げ、G-SHOCKが「タフネスという独自の価値観を持つ本物の時計」だからこそ、これら多方向への商品展開が可能とも。

  • メタル素材を使うなどデジタルガジェットとは異なる高級感を持つプレミアムライン
  • G-SQUADなどG-SHOCKの機能や性能を生かし、スマートウォッチの単純な価格競争に巻き込まれないスマート機能搭載モデル
  • ボリュームゾーンに個性的なデザインを提供するファッションライン
  • G-SHOCKは多方面への商品展開やユーザーへのアプローチが可能

G-SHOCKの収益力を回復する施策としては、メタル素材を用いた高価格帯モデルの強化、直営店・直営ECの強化といった足元を固める流通の再構築も発表された。

ここで目を引いたのは、成長国であるインドにおける新規市場の拡大だ。先行きが不透明な中国市場をカバーする役割に加え、今後はより大きな市場への成長を見込んでおり、直営店やECなど販売や流通チャネルの充実化だけでなく、製品の現地生産も考えているという。

  • 青色の破線で囲まれた項目が重点的な強化要素。インドでの販売拡大と現地生産にも触れている

  • G-SHOCK収益力回復へのストーリー

カシオは中期3ヶ年(2024年3月期~2026年3月期)は世界的な景気減速による影響が残ると想定している。この期間を「収益基盤強化期」と位置付け、戦略的な事業投資も積極的に行うという。投資額は、G-SHOCKの高額メタルラインのブランディング投資に30億円、EdTech(教育)事業ではWebアプリビジネスへの積極投資に10億円、DXに向けたにデジタルマーケティング等バリューチェーン改革の加速に5億円を計上する。

  • 中期3ヶ年(2024年3月期~2026年3月期)を収益基盤強化期と位置付け、戦略的投資を積極的に実施

  • G-SHOCKプレミアムラインのブランディングには30億円を投資

3ヶ年の計画としては、今年度の売上高を2,650億円、営業利益を160億円、経常利益を150億円、当期純利益を105億円に設定。2026年3月期は、売上高を3,100億円、営業利益を360億円、利益率を約12%に見込んでいる。

  • 収益基盤強化期間の成長見込み