ノートPCの使い勝手を考えるとき、どうしても逃れられないのが「ディスプレイサイズと本体の重さ」の関係だ。ディスプレイが大きければ大きいほど表示できる情報量は多くなって使い勝手がよくなるが、大きくなれば大きくなるほど重くなって使い勝手が悪くなる。

このトレードオフ問題に果敢に挑んできたのが、LGエレクトロニクスのLG gramシリーズだ。ノートPCで一般的なディスプレイサイズである15.6型を超える16型や17.3型モデルでも、本体を1kgに“限りなく近い”重さに抑えた製品を投入している。

  • 16型ディスプレイを採用しているのに1kgちょっとの軽さ「LG gram 16」の最新モデルをレビュー

    16型ディスプレイを採用しているのに1kgちょっとの軽さ「LG gram 16」の最新モデルをレビュー

そこで今回紹介するのが、2023年4月に登場したLG gramラインアップの16型の最新モデルである「16ZB90R」だ。16型で2,560×1,600ドットのディスプレイを搭載しながら、その本体重量は約1,190gにとどまっている。本体サイズは幅355.9×奥行き243.4×厚さ16.8mmとディスプレイに見合ったフットプリントながら、16.8mmという薄さでもって1.2kgを切る軽量化を実現している。

なお、筆者が2022年9月にレビューした「LG gram 16 16Z90Q」と16ZB90Rを本体サイズで見比べてみると、幅と奥行きがわずかに増えていることがわかる。(16Z90Qは幅354.4mm×奥行き242.1mm×厚さ16.8mm、本体重量1,199g)。

  • 本体カラーは落ち着いたオブシディアンブラック

  • 本体の重さは実測で1111gだった

  • ディスプレイは最大開度で約135度

フットプリントがそれなりにあって、それでいて薄いボディとなると気になるのが本体の堅牢性だ。本体の材質はマグネシウム合金を用いて十分な堅牢性を備えているが、ぱっと見の外観では「隅をもって本体を持ちあげたらパキッといっちゃいそう」と思わなくもない。

しかし、堅牢性を示す指標として使われることが多いMIL SPECでは最新のMIL-STD-810Hで規定されている衝撃落下、運送時落下、振動、高温、低温、低圧、砂塵、塩水噴霧の各項目で耐久試験をクリアしており、日常ユースにおける耐久性には十分すぎるほど配慮されている。

搭載するディスプレイは、解像度が2,560×1,600ドット、アスペクト比が16:10とノートPCでは一般的なフルHD(1,920×1,080ドット)対応ディスプレイと比べて、縦方向の表示情報量が多い点が特徴だ。そのおかげでテキストを扱うアプリケーションでは表示できる行数が多くなり、機能パレットを用いるアプリケーションでは、展開したパレットやメニューバーを画面の下や上に配置して編集対象のデータを広く確認できるなど、見通しがよくなって快適に利用できるようになる。

  • 色域はDCI-P3を99%カバー。画面輝度は最大で350nit

加えて、非光沢パネルを採用しているので、周りの光や風景画も映り込みも抑えられている。このおかげで、大画面ディスプレイにありがちな「画面端まで視線を巡らせようとするとディスプレイの周辺では視線の角度が浅くなり、光沢パネルでは映り込みがひどくなる」という事態を回避できている。

また、ノートPC、特にモバイル志向で筐体サイズ、ひいては、ディスプレイサイズに制約のあるディスプレイが高解像度になった場合、往々にして表示されるフォントのサイズが小さくなって視認性が低下することになる。最近のモバイルノートPCでは3,840×2,160ドットといった4K解像度に対応するモデルも登場しているが、やはり、視認性の問題からスケーリングを150%程度に設定して高解像度としての使い勝手を抑制することも少なくない。

しかし、本製品では16型という大画面ディスプレイを搭載しているので、2,560×1,600ドットという高い解像度設定でも表示されるフォントのサイズが大きく、しっかり文字を識別できる十分な視認性を確保できる。“アラ還”の筆者が実際に使ってみたところ、スケーリング設定を100%にした状態でもフォントの識別には問題ない。125%まで引き上げれば長時間の作業でも楽に視認することができた。

キーボードのサイズは、幅19.05×高さ18.5mm(キートップサイズは実測で15mm)を確保している。これも16Z90Qと同等の値だ。キーボードレイアウトも共通で、Enterキーの右には同じ間隔でテンキー群を配置している。アルファベットキー群と同じピッチでテンキー群が並ぶので、慣れていないユーザーはしばらくEnterキーをタイプするときにミスタイプが気になりそうなのも変わらない。

  • 電源ボタンはテンキーの右上隅にあって他のキーと異なり引っ込んでいるので識別しやすい

キーストロークは、カタログスペックで1.65±0.2mm。タイプをするとストロークが明確に認識できるほどで、数値以上に深く感じる。押し切る直前に「カチッ!」というかなり明瞭な音とクリック感があって、押し返してくる力も十分にあるので快適で使いやすいのも16Z90Qと共通だ。

  • カチッというかなり明瞭で独特なタイプ感がある

本体搭載のインタフェースは、2基のThunderbolt 4(USB 4.0 Gen3×2 Type-C)と、2基のUSB 3.2 Gen2 Type-Aを備えるほか、HDMI出力、microSD、ヘッドホン&マイクロ端子を用意する。無線インタフェースとしては、Wi-Fi 6EとBluetooth 5.1が利用できる。16Z90Qと並べると「見た目はほぼ共通する」が、対応する規格は有線、無線共に最新の規格にアップデートされている(16Z90QはUSB 4.0がGen2、USB Type-AはUSB 3.0 Gen2x1、無線LANはWi-Fi 6対応だった)。

  • 左側面にはHDMI出力と2基のThunderbolt 4、ヘッドホン&マイクコンボ端子を備えている

  • 右側面にはmicroSDスロットに2基のUSB 3.2 Gen2 Type-Aを搭載する

  • 正面

  • 背面

セキュリティ機能では、16Z90Qと同様に「LG Glance by Mirametrix」が利用できる。離席時には画面ロックを自動で有効にできる他、ユーザーの目線やユーザーの周囲の映像をチェックして、画面を見ていないときには画面にぼかしを入れたり、背後に人がいるときは画面上に警告を表示したりすることが可能だ。また、ユーザーインタフェースとしても、目線の動きに合わせて作業中のアプリケーションやマウスポインタを自動でディスプレイに移動する機能をサポートしている。

  • フルHDに対応した内蔵カメラ。顔認証用の赤外線カメラも内蔵する

CPUには第13世代Intel Coreプロセッサの「Core i7-1360P」を搭載している。Core i7-1360Pは処理能力優先のPコアを4基、省電力を重視したコアを8基組み込んでいる。Pコアはハイパースレッディングに対応しているので、CPU全体としては12コア16スレッドとなっている。ターボ・ブースト利用時の動作クロックはPコアで5GHz、Eコアで3.7GHzまで利用可能。TDPはベースで45W~64Wとなる。グラフィックス処理にはCPU統合のIris Xe Graphicsを利用し、演算ユニットは96基で動作クロックは1.5GHz。

  • CPU-ZでCore i7-1360Pの仕様情報を確認する

  • GPU-ZでIris Xe Graphicsの仕様情報を確認する

16ZB90Rの処理能力に影響するシステム構成を見ていくと、試用機のシステムメモリはLPDDR4x-4266を採用していた。容量は16GBで、ユーザーによる増設はできない。ストレージは容量1TBのSSDで試用機にはSamsung製「MZVL41T0HBLB-00B07」を搭載していた。接続バスはNVM Express 1.4(PCI Express 4.0 x4)。

主な仕様 LG gram 16 16ZB90R
CPU Core i7-1360P
メモリ 16GB (LPDDR4-4266)
ストレージ SSD 1TB(PCIe 4.0 x4 NVMe、MZVL41T0HBLB-00B07 Samsung)
光学ドライブ なし
グラフィックス Iris Xe Graphics(CPU統合)
ディスプレイ 16型 (2,560×1,600ドット)非光沢
ネットワーク IEEE802.11a/b/g/n/ac/ax対応無線LAN、Bluetooth 5.1
サイズ / 重量 W355.9×D243.4×H16.8mm / 約1199g
OS Windows 11 Home 64bit

Core i7-1360Pを搭載した16ZB90Rの処理能力を検証するため、ベンチマークテストのPCMark 10、3DMark Night Raid、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 8.0.4 x64、そしてファイナルファンタジー XIV:漆黒のヴィランズを実施した。

なお、比較対象としてCPUにCore i7-1260Pを搭載し、ディスプレイ解像度が2560×1600ドット、システムメモリがLPDDR5-5200 16GB、ストレージがSSD 1TB(PCI Express 4.0 x4接続)のノートPC(要は16Z90Q)で測定したスコアを併記する。

ベンチマークテスト 16ZB90R 比較対象ノートPC(第12世代)
PCMark 10 5884 4732
PCMark 10 Essential 10846 9370
PCMark 10 Productivity 7860 6475
PCMark 10 Digital Content Creation 6485 4740
CINEBENCH R23 CPU 9054 7549
CINEBENCH R23 CPU(single) 1570 1398
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Read 3660.30 6539.61
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Write 2992.64 4940.85
3DMark Night Raid 12167 11262
FFXIV:漆黒のヴィランズ(最高品質) 3229「やや快適」 2371「普通」

結果を見ていくと、第12世代Coreプロセッサを載せた比較対象ノートPCと比べて順当に高いスコアが出ていることがわかる。特にコンテンツ制作に関連した処理能力スコア、3DMark Night Raid、ファイナルファンタジー XIV:漆黒のヴィランズといったゲームベンチマークテストで大きくスコアを向上させている。

なお、ストレージの転送速度を測るCrystalDiskMark 8.0.4 x64は、比較対象ノートPCのスコアを大きく下回っているが、これは、16ZB90Rの評価機材に搭載したストレージ「MZVL41T0HBLB-00B07」が比較対象ノートPCに搭載したストレージ「MZVL21T0HCLR-00$00/07」と比べて転送速度が半分程度に抑えられたミドルレンジモデルであることが影響しているようだ。

バッテリー駆動時間を評価するPCMark 10 Battery Life Benchmarkで測定したところ、Modern Officeのスコアは11時間16分(Performance 5592)となった。ディスプレイ輝度は10段階の下から6レベル、電源プランはパフォーマンス寄りのバランスにそれぞれ設定している。16ZB90Rのバッテリー駆動時間は、公式データにおいてJEITA 2.0の測定条件で最大30時間となっている。内蔵するバッテリーの容量はPCMark 10のSystem informationで検出した値は79470mAhだった。

16Z90Qは薄くて軽量なボディということで内部から発生した熱がボディ表面に伝わりやすい印象がある。そうなると本体の発熱やクーラーファンの発する音量が気になるところだ。加えて、LG gram標準ユーティリティーとして導入している「LG Smart Assistant」では冷却モードに関する設定項目を設けており、主にクーラーファンの回転速度に対して「正常」「低」「高」「ノイズなし」の4段階から選択できる。それぞれのモードで発生する騒音の音量と本体表面の温度、そして、発熱の影響を受ける処理能力が異なる。

これらの状況を把握するために、冷却モードのそれぞれで電源プランをパフォーマンス優先に設定して3DMark NightRaidを実行し、CPU TESTの1分経過時において、Fキー、Jキー、パークレスト左側、パームレスト左側、底面のそれぞれを非接触タイプ温度計で測定した表面温度と、騒音計で測定した音圧の値は次のようになった。

冷却モード ノイズなし 正常
表面温度(Fキー) 45.5度 43.6度 40.4度 44.1度
表面温度(Jキー) 40.4度 39.6度 36.5度 37.5度
表面温度(パームレスト左側) 29.8度 29.0度 28.2度 27.5度
表面温度(パームレスト右側) 28.5度 28.9度 28.0度 27.3度
表面温度(底面) 52.4度 45.3度 45.3度 46.9度
発生音(暗騒音36.7dBA) 36.7dBA 37.5dBA 40.2dBA 46.1dBA
3DMark Night Raid 4492 9342 12167 15752

クーラーファンを止めた状態、そして「低」に設定すると確かに静かになるが、処理能力は「正常」モードの半分にも満たない。体感でもはっきりと認識できるほどに遅くなる。一方「高」モードに設定すると3DMark Night Raidのスコアが明らかに向上する。ただ、キートップ周辺は熱くなり、何より、クーラーファンの音量は明らかに気になるレベルでうるさくなる。「正常」モードは処理能力も表面温度もクーラーファンの発する音量もバランスよくチューニングされており、実利用シーンではこれが最有力候補となるだろう。

  • 底面で最も温度が高かったのは奥側中央で、クーラーファンを止めた状態で50度を超えた

ここまで製品についてみてきたが、16ZB90R最大の特徴はやはり、16型の大画面ディスプレイを搭載したことで2,560×1,600ドットという高解像度表示を無理なく使える点と、大画面ながら重さ1,199gというモバイルノートPCと同等の軽さを実現した点だといえるだろう。

処理能力も最新の第13世代Corシリーズの採用で過不足ない。コンテンツ制作などでいつも締め切りに追われていて、「どこでも快適に作業ができる大画面で軽いノートPCがあれば……。やっぱないよねえ」と嘆いているユーザーにぜひ教えてあげたいモデルの1つといえそうだ。

  • ちなみにACアダプタのサイズは実測で97×60×26.5ミリで重さは283g