これからのマーケティングに向けたオンラインイベント開催

社内外の協力を得ながら、3つのプログラムによって開催されたKYOCERA BIZ TECH FORUM 2023。では、なぜ京セラは初めての全社オンラインイベント開催に踏み切ったのだろうか。そこには、昨今の社会変動の流れを受けた"マーケティング戦略の転換"があるという。

もはや不可欠となっているデジタルマーケティング

冒頭でも述べたが、同イベントは2部署が主体となって開催された。その部署は、広報室コミュニケーションデザイン部と、デジタルビジネス推進本部デジタルマーケティング課である。企業の認知向上や事業支援を目指す前者と、セールスマーケティングのデジタル化を進める後者といったところだろうか。

現在両部署の責任者を務める北垣氏は、もともと広報室内でウェブサイトの改善などを担当しており、企業を顧客としたBtoBビジネスにおけるデジタルマーケティングの重要性を強く感じていたという。そして、その課題に特化しデジタルマーケティングを専門に扱う部署を、デジタルビジネス推進本部に立ち上げたとのことだ。

  • ウェブサイト改善などを行う中で、ビジネスのデジタル化に対する課題を感じたという北垣氏

    ウェブサイト改善などを行う中で、ビジネスのデジタル化に対する課題を感じたという北垣氏

重要性を増すリードビジネス

デジタルマーケティングの中でも、昨今特に重要性が高まるのがリード(見込み客)だろう。特に、さまざまな領域にまたがる事業を展開する京セラにとって、各事業部が保有しているリードは、顧客獲得に向けた宝の山にもなりうる。しかし同社では、その活用がまったくと言っていいほど行われていなかったという。

そこでデジタルビジネス推進本部では、事業部門を横断した「マーケティングオートメーションシステム」の導入を決定し、2021年7月から運用を開始しているという。「自分たちが抱える顧客に、ほかの部門が声をかけることで、印象を悪化させたくない」といった懸念から、まだ社内全部署が導入を完了しているわけではないが、現時点で7部門がこのシステムを導入しているとする。

北垣氏によると、実際にこうしたリード活用戦略は効果が出ており、売り上げにつながっているとする。そして今後、さらにリードの重要性は高まるとしたうえで、来期以降もデジタルマーケティングに注力するとしている。

イベントで目指す「企業認知向上」×「リード獲得」

そして、企業の認知向上とリード獲得の両方に貢献する施策として開催されたのが、今回のイベントというわけだ。特にリードについては、獲得数だけではなく、その後の購買プロセスまでを追跡し、商談機会の創出や売り上げへの貢献といった指標までを目標としているとのことだ。

2023年2月のイベント当日に向けては、参加登録者の獲得に向けて広報施策を実施。メールマガジンや広告出稿など、さまざまな方面から手を打っていったという。

また、イベント当日以降も登録者は増え続けているとする。その要因は、同イベントのオンデマンド配信だ。2月16日から開始された配信では、イベント当日には視聴することができなかったコンテンツが追加されたこともあり、継続的に参加者が増加しているという。なおこのオンデマンド配信は、3月31日までとなる。

前例のないイベント開催には数多くの苦労も

京セラ社内で掲げられる「壁を越えたチャレンジ」として、2つの事業部門で連携しながら、前例のない取り組みに挑んだ鍜治氏。開催から1か月以上経った今、イベントを振り返ってもらった。

  • 京セラ初の全社オンラインイベントで先頭を走った鍜治氏。その道のりでは多くの苦労があったという

    京セラ初の全社オンラインイベントで先頭を走った鍜治氏。その道のりでは多くの苦労があったという

難しかったことは何か、という問いかけに対し、真っ先に挙げられたのは「なぜイベントをやるのか」という目標設定の部分だった。1から作り始めることになったため、その礎になる目標については、確固たるものを作り上げる必要がある。また、各事業部門に対して協力を仰ぐ中でも、「なぜやるの」という問いは何度もぶつけられたという。リード獲得の面では理解を得られるものの、参加する工数以上のメリットを浸透させることに、とても苦労したとのことだ。

加えて、「コンテンツづくり」についても苦労があったという。ある意味では番組制作のような準備が求められる中で、特にそういった経験がなかった鍜治氏は、テーマの設定や登壇者のアサインなどに戸惑うこともあったと話す。また、良いものを目指す中で、タイトル1つの決定においても意見がぶつかることがあったとのことだ。

「できることなら年次イベントにしていきたい」

KYOCERA BIZ TECH FORUMの今後について、鍜治氏は「オンラインからリアルへの回帰の流れがある中で、このイベントもハイブリッド開催などを検討していきたい」とする。実際に対面することの強みもあるとのことで、熱量の伝わり方や個別の課題へのフォーカスについては、リアルだからこそのメリットが大きい。リアルイベントの代表例がCEATECで、企業認知向上と商談機会創出という目標に向けた機会として、大きな効果を持つという。

しかし、オンラインだからこそのメリットもある。それは、効果の最大化や定量化だ。リード情報の共有活用や追跡を行うことで、それ以降の戦略におけるノウハウが蓄積されるため、時間を追うごとに効率化などの効果は大きくなっていく。その強みを活かし続けるためにも、オンラインを活用したイベント運営を中心に考えていくとのことだ。

「できることなら年次イベントにしていきたい」と北垣氏と鍜治氏が口をそろえるKYOCERA BIZ TECH FORUM。だがまずは、今回の効果検証などを行った上で、最適な方法を模索していくという。最初の1歩は3月末に閉幕するが、その先にも道のりはまだ続く。デジタルビジネスの活用に向けて動き出した京セラは、これから一体どんな施策を仕掛けていくのだろうか。