指先に乗る小ささで高音質な、あのポータブルオーディオプレーヤーが帰ってきた。2018年に発売され、マニアの間で注目を集めたShanling「M0」の後継機種となる、「M0Pro」(実売19,800円)が3月24日に発売日を迎えたのだ。さっそく入手したので、ミニレビューをお届けする。

  • M0Pro

M0Proは、2022年から何度かポータブルオーディオ関連イベントで出展されてきており、既に注目している人も多いと思う。サイズ感はM0そのままに、新たにESS製のDACチップ「ES9219C」をデュアルで搭載し、シングルエンドとバランスの双方を1つにまとめた独自設計の3.5mmヘッドホン出力も装備。別売の専用変換アダプターを組み合わせると、4.4mmバランス出力にも対応するのが大きな特徴だ。

別売オプションが必須とはいえ、2万円台前半でコンパクトながら4.4mmバランス出力に対応したハイレゾオーディオ再生環境が手に入ってしまうということで、筆者もいちマニアとして注目していた。さっそくM0Proに触れながら、使い勝手や音質をチェックしていこう。

M0Proの外観をチェック

パッケージを開けるとスポンジで保護されたM0Proの本体が登場。「サイズ感はM0そのまま」といったが、デザインは若干変わっている。なだらかな丸みのある側面の一部を平らに削り、くびれを持たせた形状で、最近のShanling(シャンリン)製ポータブルオーディオプレーヤーのカタチに似せているように見える。カラーはブラック、レッド、グリーンの3色があって、今回はレッドを買ってみたが、かなりイイ色合いで気に入った。

なお、Shanlingのお手ごろプレーヤーといえば、レトロな雰囲気をまとった「Q1」という機種も存在したのだが、あのデザインは復刻しないのだろうか……若干気になるところだ。

  • M0Proのパッケージ

  • パッケージを開けてM0Proと初対面

M0Proの外装は、全体的に梨地仕上げを施していてサラリとした手触りで、上下側面にはツヤツヤしたパネルがはめ込んである。手ごろな価格帯の製品ながら、上品にまとめられている印象で、安っぽさを感じさせない。本体サイズは43.8×45×13.8mm、重さは36.8g。

  • 電源オン時の起動画面

右側面には電源ボタンを兼ねた音量調整ダイヤルが備わっている。回すときにカチカチとした分かりやすいクリック感があるといいのだがそうではなく、コリッコリッという控えめな感触になっている。

  • 電源ボタンを兼ねた音量調整ダイヤルが右側面にある

手にしてみると本当に小さくて、四角い目薬のケースくらいしかない。参考までに手元のウォークマンAシリーズ「A100TPS」と一緒に手に持ってみたが、厚みはほぼ同じだがタテの長さはA100の半分もない。M0Proがどれだけ小さいのかよく分かるのではないだろうか。

  • M0ProとウォークマンAシリーズ「A100TPS」と一緒に手に持ってみた

有線接続だけでなく、Bluetoothによるワイヤレス接続にも対応している。送受信対応なので、M0Proの音楽ファイルをワイヤレス再生できるだけでなく、M0ProをスマートフォンとペアリングしてBluetoothレシーバー代わりにもできる。

M0Pro単体ではAmazon Musicなどの音楽ストリーミングサービスの楽曲を聞くことはできないが、スマホからM0Proにそれを飛ばして聞ける……というわけだ。このあたりは後ほど紹介する。

  • Bluetoothによるワイヤレス接続にも対応

付属品はUSB Standard-A to Cケーブルと、予備の画面保護シートのみ。ケーブルは頑丈なつくりだが、M0Pro本体をつなぐとケーブルの固さで振りまわされそうな気がするので、手持ちのケーブルで適合するものがあればそれで代用しても良いだろう。M0Proにあったサイズの画面保護シートはまだサードパーティからは登場していないはずなので、予備が用意されているのはありがたい。

  • 製品内容

別売の専用オプションである「M0Pro 4.4mm Adapter(3.5mm to 4.4mm バランスアダプタ)」(1,980円)は、M0Proとあわせてぜひ一緒に購入しておきたい。試聴インプレッションのところでも触れるが、4.4mmバランス出力では3.5mmシングルエンド出力とは別次元の良いサウンドに化けるためだ。なお、他の機種でこの変換アダプタを使うと故障の原因となるおそれがあるため、販売元のMUSINでは絶対にそういった使い方をしないよう呼びかけている。

  • 別売の専用オプションである「M0Pro 4.4mm Adapter(3.5mm to 4.4mm バランスアダプタ)」は、M0Proユーザーなら必携のアイテム

  • コンパクトなので、カーオーディオと組み合わせて使いたい向きもいるだろう。今回は試せていないが、M0Proには「車載モード」もある

素直で懐の深いサウンド。ジャケット表示の“崩れ”は気になる

M0Pro本体にはストレージを内蔵していないが、最大2TBまで対応するmicroSDカードスロットを備えていて、ここに音楽ファイルを保存した手持ちのmicroSDカードを差し込んで使う。最大384kHz/32bitまでのPCM音源と、5.6MHzまでのDSD音源を再生可能だ。対応するオーディオフォーマットはFLAC / ALAC / WAV / AIFF / MP3 / WMA / AAC / OGG / M4AやDSD(.dsf、.dff、.iso)、DXDなど。PCとM0ProをUSB-Cケーブルでつないで、microSDカードに音楽ファイルを保存することもできる。

  • 最大2TBまでのmicroSDカードが利用可能

試しに筆者の手持ちの音源から500曲ほど、PCM音源とDSD音源を混ぜて読み込ませてみると、ファイルスキャンが始まってから音楽を聴けるようになるまで2〜3分ほど待たされた。ライブラリ更新を[自動]に設定している場合、音楽ライブラリを入れ替えるためにmicroSDカードを交換するときだけでなく、Bluetoothレシーバーとして使い終わったときにも再スキャンが始まって若干時間がかかる。すぐに聞きたいときには結構ストレスなので、ここは今後ぜひ改良してほしい。

  • ファイルスキャンが始まったら一切操作できないので、気長に待たなければならない

  • ファイルスキャンが終わると、アルバムや楽曲がリスト形式で一覧表示できるようになる

試聴にはゼンハイザー「IE 40 PRO」(生産完了)や、茶楽音人(さらうんど)「Co-Donguri 雫 s2」(実売3,410円)といったイヤホン、フォステクスのヘッドホン「T50RPmk3n」(生産完了)を使った。

  • ゼンハイザー「IE 40 PRO」でM0Proのサウンドをチェック

  • 茶楽音人(さらうんど)「Co-Donguri 雫 s2」で試聴。この組み合わせなら2.5万円ほどでハイレゾ再生環境が整う

  • シングルエンド駆動時は、フォステクスのヘッドホン「T50RPmk3n」との組み合わせがお気に入り

3.5mmヘッドホン出力で、シングルエンド駆動できいたときのサウンドはそつなくまとまっている印象。音場はやや狭めに感じる。これはこれで悪くはないのだが、専用アダプタを介した4.4mmバランス出力ではM0Proの内部構成をフルに活かし、別次元のサウンドに化ける。スッキリとした傾向はそのままに、定位がより明確で分かりやすく、迫力もかなり増強されるのだ。

特にロックバンドの楽曲は、シングルエンドのときと比べると4.4mmバランスのほうが鳴りっぷりがよくなったのを実感できる。イーグルス「Hotel California」のように、のっけからベースが活躍する楽器では迫力が増して非常に良い。結束バンド「青春コンプレックス」も、冒頭からすべての楽器の音がパワフルに飛び出し、まるでライブハウスの最前で結束バンドの生演奏を聴いているような錯覚に陥るほど。

  • ゼンハイザー「IE 40 PRO」に社外品の4.4mmバランスケーブルを装着し、専用アダプタを介して4.4mmバランス出力で聞いているところ

かといって決してドンシャリというわけではなく、ラフマニノフの「交響曲第2番」や、吹奏楽向けにアレンジされた「ダッタン人の踊り」のようなクラシック楽曲もしっかり楽しめる。各楽器の音がきちんと分離し、見通しはとても良い。繊細さと迫力も両立していて、組み合わせたイヤホンやヘッドホンの音質傾向をそのまま活かす感じだ。“素直で懐の深いサウンド”がM0Proの持ち味のように感じられた。個人的には、バランス駆動ではなくシングルエンド駆動にはなるが、セミオープンタイプで開放感あるスッキリした音の「T50RPmk3n」との組み合わせが気に入っている。

  • 昨今あまり見かけなくなった2.5mm 4極バランスのケーブルも、AZLAなどから出ている2.5mm→4.4mmバランス変換アダプタを噛ますことで使えるようになる(音質的には少なからず影響が出そうだが……)

再生中に気になったところをあげるなら、ひとつはアルバムジャケットの表示の仕方だ。M0Proは1.54型/240×240ドットのディスプレイを備えていて、ここにアルバムジャケットを全画面表示できるのだが、正方形になっていないジャケット画像はご丁寧にタテヨコの比率をリサイズするので、いわば“崩れた状態”で表示してしまう。上下左右に余白を付けても構わないので、ここはオリジナルの比率を保ったままで表示してほしかった。

もうひとつは、画面の操作性。これは指先に乗るサイズ感を実現していることもあってトレードオフの部分ではあるが、アルバムや楽曲選択時にうっかり意図しないところをタッチしてしまったり、画面スクロールがうまく動かなかったりすることがある。これについては慣れていくしかないのかもしれないが、ソフトウェアのチューニングで改良できるのであれば今後改善してほしいところだ。

  • アルバムジャケットの表示の仕方が気になる。オリジナルの比率を保ったままで表示してほしい(この写真では、本来のジャケット画像がやや縦に引き延ばされている)

ハイレゾワイヤレスもお手のもの。手ごろに遊び倒せるのがイイ

最後にBluetoothによるワイヤレス再生の音もチェックしてみる。M0Proは前述の通り、Bluetooth送受信に対応しており、対応コーデックは送信時がSBC/AAC/aptX/LDAC、受信時がSBC/AAC/LDAC。この小さなボディサイズでLDACの送受信もできるのは結構アツいと思う。

今回はLDACの開発元であるソニーのワイヤレスヘッドホン「WH-1000XM4」と組み合わせて、LDACコーデックによるサウンドを聴いたが、ハイレゾらしい解像感もありながら厚みのある低域で音楽を楽しめた。通勤・通学時など、出先でケーブルが邪魔になるシチュエーションではLDAC対応イヤホン/ヘッドホンで十分足りそうだ。接続性はまずまずで、M0Proを置いて壁やドアひとつ隔てた別の部屋に移動したくらいでは、音が途切れることはなかった。

また、Pixel 6とペアリングしてLDAC対応のBluetoothレシーバーとして使うこともでき、M0Proを介してApple Musicの楽曲を有線イヤホンで聴いてみた。若干の音質変化は避けられないが、こちらも十分イイ音で楽しめた。

ちなみに同コーデックは、ここ最近のAnker製完全ワイヤレスイヤホンで採用されるなど対応製品が拡大していて、ソニー製品でなくてもハイレゾワイヤレス再生を楽しめる環境が整ってきた。いちポータブルマニアとしてこの流れはうれしい限りだ。

  • WH-1000XM4と組み合わせて、LDACコーデックで再生

  • M0Proから楽曲を再生するときは、LDAC以外にもSBC/AAC/aptXの各コーデックが使える

M0Proには他にも、対応機器とUSBケーブルでつないでUSB DACとして使うモードを備えていたり、語学学習などに使えるスピードコントロール機能(等倍/1.25倍速/1.5倍速/2倍速)やA-Bリピート機能を利用できたりと、ポータブルプレーヤーとして求められる機能をふんだんに盛り込んでいる。

バッテリーのもちに関しては今回は検証できていないが、容量650mAhのバッテリーを内蔵し、連続再生時間の公称値はシングルエンド駆動時で最大14.5時間、バランス駆動時で最大10時間。ワイヤレス利用時はもう少しバッテリー消費が早まりそうだが、一度充電したら数日間は充電せずに使えそうだ。

先代M0から機能強化を図り、さまざまなブラッシュアップを施していながら、このご時世にもかかわらず2万円前後で購入できる買いやすさはとてもありがたい。スマホと完全ワイヤレスイヤホンで音楽を聞くのが当たり前になった今、手ごろな価格で遊び倒せるハイレゾプレーヤーの選択肢は減ってきているが、マニアにとってM0Proはある意味“救世主”のような存在ともいえる。もちろん、これからポータブルオーディオの“沼”にハマっていこうとしている入門者にもオススメだ。