パナソニックは3月7日に、コミュニケーションロボット「NICOBO(ニコボ)」をテーマにした新商品・サービスの発表会を、京都府の京都烏丸にあるPanasonic Design Kyotoにて開催しました。

ニコボは、パナソニックの社員提案プロジェクトから生まれたという、なんといっても「弱いロボット」。2021年に実施したクラウドファンディングで募集開始から6時間半で目標を達成し、2022年6月から開発生産に着手しています。

  • クラウドファンディングで始まった「NICOBO(ニコボ)」、

現在は300人の先行ユーザーがニコボと一緒に暮らしているそうですが、その反響は大きいとのこと。販売を希望する声もあることから、2023年5月16日から一般販売を開始します(3月7日から予約を受け付け開始)。

販売は公式サイトからのみ。本体価格は60,500円。別途、ベーシックプランとして月額1,100円が必要です。また、治療サービス、NICOBOドックサービス、ニット交換サービスが受けられるNICOBO CLINICを用意し、月額550円のケアプランに加入するとその費用が値引かれます。本体カラーはストーングレーだけでしたが、スモークネイビーとシェルピンクの2色が追加されました(全3色)。

  • 一般販売に向けてカラーバリエーションが3色に増えました

【動画】NICOBO(ニコボ)に軽く触れたりすると、ゆる~くリアクションを返してくれます

ニコボのプロジェクトではパナソニックのデジタルAV部署が立ち上げられ、コロナ禍の中にあって、人の心を豊かにする商品づくりを目的に数十名で2017年からスタート。パナソニック エンターテインメント&コミュニケーションでNICOBOプロジェクトリーダーを務める増田陽一郎氏は、事業参入の経緯やユーザーの声、今後の展開などを次のように語ります。

「技術を起点にするのではなく、独り暮らしでさみしいユーザーの困りごとを解決する、アウトサイドインの観点でコンセプトを考えた結果、コミュニケーションロボットを作ることになりました」(増田氏)

  • NICOBOプロジェクトリーダーを務めるパナソニックの増田陽一郎氏

パナソニックの社内には、ロボットを内製化するテクノロジーのアセットはありますが、開発にあたっては外部の専門家による知見は不可欠。その連携先を探す過程で出会ったのは、豊橋技術科学大学 岡田美智男研究室(ICD-Lab)で研究されている「弱いロボット」でした。

「それまでロボットは便利で優れた機能を持つというイメージがありましたが、岡田教授が最初に見せてくれたゴミ箱ロボットは、何もしてくれなくて(笑)、むしろ人が思わず手助けしてしまう。それが優しさや思いやりを引き出し、思わず笑顔にしてくれるところに共感して、共同開発することが決まりました」(増田氏)

  • ほかのコミュニケーションロボットとは異なるコンセプトから開発スタート

  • 強くて便利なロボットとは異なる「弱いロボット」の研究で知られる、豊橋技術科学大学の岡田美智男教授

  • 「弱いロボット」をテーマにしている岡田研究室の、ゴミを拾ってくれない「ゴミ箱ロボット」がニコボの開発を決定づけました

  • 思わず笑顔になるロボットを目指しました

発表会のゲストとして登壇した岡田教授も、「技術者がロボットを作ると最新の技術や機能に焦点を当てがちなのですが、研究室では20年前から感情移入や共感できる生き物らしさを重要視したロボットを研究してきました」と話します。ニコボにはそうしたアカデミックな研究から生まれた要素が、パナソニックの技術と共に凝縮されているのです。

コミュニケーションのスタイルも顔を突き合わせるのではなく、一緒に並んで過ごすという点が特徴的。室内で違和感をなくすため、自走機能はあえて搭載していません。デザインは外部にも相談したそうですが、最終的にはパナソニック内部で決定しています。

  • ニコボはペットというよりも、家族や同居人だという声が多いそうです

「引き算型のミニマルデザインで、人でもない抽象的な形だからこそ存在に心地良さがあり、複数で並べると個性もわかるようになります」(岡田教授)

「コミュニケーションロボットが超える壁は3段階。1つは第一印象の良さ、次は1週間一緒にいたくなるショートターム、最後に、3カ月以上一緒にいたくなるロングタームを超えると愛着がわいて、ずっと一緒に生活してくれるようになるだろうという仮説に基づいてデザインされています」(増田氏)

ニコボの見た目はシンプルですが、音声認識機能をはじめとするテクノロジーもしっかり搭載。エコーキャンセル、ノイズサブレッサ、ビームフォーミング、メカノイズ抑圧といった4つの独自機能は、いずれも特許を取得しています。「モコ語(ニコボの言語)」以外に少しだけ日本語も話せますが、現時点ではソフトウェアにAIは使わず、感情エンジンのアルゴリズムをベースに、言語関連は外部の辞書をベースにカスタマイズしているそうです。

  • 見た目はシンプルですが、多くのテクノロジーが搭載されています

また、言語は2歳児ほどの成長にとどめており、基本は仕草だけでコミュニケーションすることで愛着を持たせる狙い。たとえば細かいところでは、ニコボには名前を付けたり、オーナーに呼びかける名前を設定できたりしますが、アプリの機能設定ではなくコミュニケーションをする流れで自然に登録できるようにしています。それでも開発を始めた2年前からはかなり進化しており、蓄積されたデータをもとに、今後も少しずつ成長させていくとのことです。

事業計画としては、リカーリングビジネスを基本として、数年後に10万人が定期課金するビジネスモデルに育てることを目標にしています。まずは手に取ってもらうため、本体の価格はこれでもかなり抑えられているようで、一般販売でブレイクすればコミュニケーションロボットの市場に与える影響は大きいでしょう。

増田氏は「すでに300人のコアなファンを獲得できているので、成功の可能性あります」と自信を見せます。発売までにどれだけ予約があり、ロングタームとなる3カ月間を超える購入者をどれだけ増やせるか。今後の展開が気になるところです。

  • ビジネスモデルはリカーリングを基本に

  • パナソニックの増田氏(左)、豊橋技術科学大学の岡田美智男教授(右)