スマートフォン向けのチップセット「Snapdragon」シリーズで知られる米クアルコム。そのクアルコムが「MWC Barcelona 2023」に出展し、最新技術を備えた5G対応モデムの実力を披露したほか、衛星とスマートフォンを直接通信する「Snapdragon Satellite」など、モバイル通信の裏側を支える最新技術を公開しました。
クアルコムが現在とても力を入れているのは、5Gの「ミリ波」の活用です。ミリ波は28GHz以上の非常に高い周波数帯のことを指し、いわゆる「プラチナバンド」などと比べて使える帯域幅が非常に広く、高速大容量通信にとても適しているのですが、周波数が非常に高いので障害物にとても弱く、遠くに飛びにくいことから広いエリアをカバーする必要があるなど、携帯電話会社にとって非常に使いにくい周波数帯。その活用もほとんど進んでいないのが現状です。
とりわけミリ波の弱みとなっているのは、障害物に少しでも遮られると速度が著しく低下してしまうこと。ですが、クアルコムが開発しているミリ波対応の5Gモデムは、端末の前に障害物があってもそれを回避して高い通信速度を実現できるといいます。
そこに活用されているのはAI技術だといいます。AI技術を用いることで、端末に直接届く電波だけでなく、周囲の壁などに反射して届く電波などをうまく使うなどしてミリ波の電波をうまく受信できるようにし、通信速度向上につなげているのだそうです。
AI技術はすでに、ミリ波に対応した既存のハイエンドモデル向けモデムチップ「Snapdragon X70 5G modem-RF」にも搭載されているのですが、2023年にはそのAI性能を強化した新しいモデムチップ「Snapdragon X75 5G modem-RF」を投入する予定とのこと。このモデムチップは、従来別々になっていたサブ6(3.5~6GHzの周波数帯)とミリ波のトランシーバーを一体化し、一層の省スペース化と省電力化を実現しているとのことです。
またクアルコムは、ミリ波の有効活用には人が集まる場所などに集中して基地局を設置する“ゾーン”を展開することが重要だと考えているようです。現在日本では、ミリ波の基地局を1つだけ置くスポット的な展開が主ですが、それではミリ波の実力を発揮できないことから、ゾーンで基地局を展開するよう携帯電話会社に働きかけを進めているとのことでした。
ただ、ミリ波が抱える課題はそれだけではありません。ミリ波対応のモデムチップはハイエンドのみの対応で、ミドルクラス以下に広がっていないことがミリ波の普及を阻むもう1つの要因にもなっています。
その理由は開発コストの関係上、ミドルクラス以下のモデルはミリ波を受信するのに搭載する無線通信モジュールの数が少ないことが影響しているとのこと。そこでクアルコムでは、少ないモジュールでミリ波に対応できるチップの開発・導入を日本でも進めていくとのことでした。
もう1つ、クアルコムが注力して推し進めているのが「Snapdragon Satellite」です。これは、米イリジウムの低軌道衛星を用いてスマートフォンと直接通信し、テキストによるメッセージの送受信ができるというもの。ハイエンドモデルだけでなくミドルクラスのチップセットにも対応させる予定とのことで、米国からサービスを開始して順次対応地域を広げていきたい考えのようです。
日本において、スマートフォンと衛星が直接通信するうえでは何らかの法整備が必要と考えられますが、使用する周波数帯はイリジウムがすでに使用しているものとなるため、そこはクリアしやすいとのこと。ただ、電波使用料をどう設定していくか、誰が主体となってサービスを提供していくのかなど、提供に向けては議論が必要な部分がいくつか残っているとのことでした。
ほかにもクアルコムでは、IoTデバイス向けの消費電力が少ないモデムチップ「Snapdragon X35 5G modem-RF」や、それを搭載した通信モジュールなども提供。こうしたモジュールの活用によって、通信機能が必要なIoT機器の5G対応を容易にできるようにしているとのこと。
また同社はデバイスだけでなく、携帯電話基地局に向けたチップなども提供しているとのこと。大容量通信に適した「Massive MIMO」というアンテナ技術に対応した「Qualcomm QRU100 5G RAN Platform」や、基地局の無線通信部分の動作を高速化する「Qualcomm X100 5G RAN Accelerator Card」などを提供することで、さまざまなベンダーの基地局を接続できる「オープンRAN」に対応した基地局の開発をしやすくする取り組みを進めているそうです。