◆ゲームベンチマーク総評(グラフ81)

なかなか微妙な優劣という感じなので、今回行った9つのゲームベンチマークについて、2Kにおける平均フレームレートをまとめたうえで、Core i9-13900Kのフレームレートを100%とした場合のそれぞれの平均フレームレートの比をまとめたのがグラフ81である。

  • グラフ81

AMDはRyzen 9 7950Xを"World's Fastest Gaming Desktop Processor"としている訳だが(Photo03,04参照)、そこまでの性能差があるか?というと微妙なところではある。この9つのベンチマーク性能差の相乗平均を取ると

Core i9-13900K 100.0%
Core i9-13900KS 100.7%
Ryzen 9 7950X 93.3%
Ryzen 9 7950X3D 102.0%

ということで、確かに最高速ではあるのだが、その主な要因はWatch Dogs:Legionの大きな伸びであって、これが無いとCore i9-13900KSと同等程度に収まるだろう。とは言え、一応最高速であることは間違いない。ただ筆者的には、Ryzen 9 7950X3Dの真価はこのフレームレートの伸びでは無いと考えている。という事で筆者が真の価値と考える消費電力の結果に移りたい。

◆消費電力測定(グラフ82~88)

冒頭にも書いたが今回Linpackの追加測定は無かったのでグラフに入れていない(ので気になる方はこちらのCore i9-13900KSのレビュー記事をご覧頂きたい)ということで、Sandra 2021のDhrystone/Whetstone(グラフ82)、CineBench R23(グラフ83)、TMPGEnc Video Mastering Worksで4Streamトランスコード時の最初の240秒(グラフ84)、3DMark FireStrike Demo(グラフ85)、Metro Exodus(2K)(グラフ86)の消費電力変動と、それぞれの平均値(グラフ87)、及び待機状態との差(グラフ88)をまとめてみた。

  • グラフ82

  • グラフ83

  • グラフ84

  • グラフ85

  • グラフ86

  • グラフ87

  • グラフ88

今回Ryzen 9 7950XとRyzen 9 7950X3Dではマザーボードが異なり、正直MEG X670E ACEの方がやや装備が豪華で、その分待機時の消費電力も5Wほど増えている。なのでグラフ87を見る場合にはこの差を考慮して頂く必要がある。その意味ではグラフ88が実情に近いと思う(ちなみにRyzen 9が待機時消費電力が多い理由は、恐らくX670チップセットのせいである。これ、B650とかにすればCore i9のZ680チップセットと同等に収まるように思う)。ということでグラフ88を見ると、Ryzen 9 7950X3Dの圧倒的な省電力性の高さが浮き彫りになったように思う。一番顕著なのはMetro Exodus 2Kの結果だ。Ryzen 9 7950Xと比較しても50W、Core i9-13900K/KSと比較して100W以上省電力というのは、大きなアドバンテージである。ぶっちゃけ、ゲームのフレームレートを上げるにはCPUに100W余分に喰わせるより、GPUに100W余分に喰わせた方が現時点では効率的である。昨今の電気代高騰の状況で、同じランニングコストでゲームを遊びたければ、GPUをワンランク上げる方が効果的なのは明白である。

もっと言えば、Core i9-13900KSが2Kでの平均フレームレートが153.4fpsなのに対し、Ryzen 9 7950X3Dは148.8fps。その差は4.6fpsほど、比率で言えば3.1%ほどRyzen 9 7950X3Dの方がフレームレートは低い事になる。が、果たしてここで3.1%のフレームレートの低さが、どれだけプレイ性を損なっていると言えるだろうか? その一方で消費電力は124.6W低い。毎日1時間プレイするとして、1か月の電気量の差は3.8kWh弱になる。ちょっと無視できない電気量だ。

  • 表2/表3/表4

同じようにDhrystone/Whetstoneの効率を表2に、CineBenchの効率を表3に、TMPGEnc Video Mastering Worksの4stream Encodeの効率を表4にまとめた。ブルーが最高効率の結果である。CineBenchの1 ThreadではCore i9-13900Kに大きく水をあけられているし、All Threadでは僅差でRyzen 9 7950Xに負けているが、Dhrystone/WhetstoneやTMPGEnc Video Mastering Worksの効率は非常に高い事がお分かりいただけるかと思う。今回測定は行っていない(休止期間が多い関係で、処理中のみの消費電力測定を行うのが困難なため放棄した)が、PCMark 10とかProcyonに代表されるアプリケーションでも、性能は確かに低いがその分消費電力も低いと想像され、効率そのものはかなり良いと思われる。そもそもRyzen 9 7950X3Dクラスになると、性能が低いといってもそれは相対的なものであって、絶対的な処理性能としては普通のユーザーが使うのに不自由さを感じさせるようなものではないだろう。それでいて消費電力が低い、というのはやはり大きなアドバンテージだと思う。

考察 - 実用かロマンか? X3Dとても実用的

ということでRyzen 9 7950X3Dの性能をご紹介した。とりあえず筆者の評価としては、「これはお勧め」である。そもそもRyzen 7000シリーズの速報版の考察(記事はこちら)で「その一方で、場合によってはAlder Lakeを凌ぐ消費電力になってしまったのは、ちょっと残念である。」と書いたわけだが、Ryzen 9 7950X3Dは大分(平均して50Wほど)消費電力も下がり、その一方で性能はそれほど落ちていない訳で、非常に魅力の増した製品になったと位置づけたいと思う。しかも価格は$699で据え置きなのだから、どちらを買う? と言われれば迷う余地はない。ハイエンド製品を狙っているユーザーには強くお勧めしたい。

もっともその一方で、OCに魅力を感じているユーザーには全くお勧めは出来ない。そうしたユーザーには、Core i9-13900KSの方がずっと向いているだろう。価格は同じで、消費電力は多いが遥かに上まで回る。もう実用性というよりもロマンを追求する路線向けであり、ロマン枠の製品に消費電力云々を言うのは野暮だろう。

強いて言えば、Ryzen 7000シリーズの完全版の考察(記事はこちら)で書いたように、エンコードとかをメインにするのでなければRyzen 9 7900Xでも十分という話もあり、その意味ではRyzen 9 7900X3Dも一緒に評価して見たかったところではある。ただRyzen 9 7900Xが市販価格で6~7万で販売されている事を考えると、予想価格はちょっと割高感があるのは否めないのだが。

ただ筆者としては、4月のRyzen 7 7800X3Dの方が気になるところだ。今回の結果を見ると、Ryzen 7 7800X3Dでもかなり行けそうな気がしなくもない。手持ちのRyzen 7 7700XをRyzen 7 7800X3Dで置き換えるべきかどうか、早く試してみたいものである。