低迷が続く日本のエレクトロニクス産業
世界的には、半導体需要は引き続き堅調に推移して、半導体市場の規模を拡大していくことが見込まれている一方、日本については、そこまで成長率は高く見積もれないと山地氏は指摘する。「自動車産業は日本は強いため期待されるところであるが、2021年から2026年にかけてのDesign TAM(半導体顧客である電子機器メーカーの半導体購入額)の年平均成長率(CAGR)が車載半導体は世界で15%であるのに対し、日本だけで見ると10%ほど。それ以外の産業機器、航空宇宙防衛、サブシステム、ストレージなども世界のCAGRを下回る。コンピュータ市場やワイヤレス市場に至ってはマイナス成長。あくまで予測ではあるものの、いずれも世界の成長率に達していない点が注目すべきポイントである」(同)。こうした未来になると、半導体メーカーは苦戦が続くことになると警鐘を鳴らす。
「日本の半導体メーカーにおける顧客の海外比率が高まっているように見えるが、逆に言えば、日本の顧客の比率が減少したということも一因として挙げられる。純粋に国内市場の売り上げに海外市場の売り上げを加えて行っている、ということであれば問題ないが、国内の需要が低迷しているのが事実であり、それが日本の半導体産業のそのものの地盤低下を招いている1つの要因と言える。先端半導体の設備がないために日本の半導体業界が先端デバイスを供給できなくなって低迷したのではなく、そもそも需要が低迷しているところが1番の原因だったと思う。これからもそうしたボトルネックが付いて回る。日本のエレクトロニクス産業を復興していくためには、半導体を使う顧客が日本に居ることが重要」だと、日本の半導体産業が復活するためには、それを使うさまざまな産業分野の活性化が必要となることを強調。現在の半導体市場、特に先端プロセス分野をリードするのはIT分野であるが、日本はGAFAMに代表されるような、そうした強いITベンダが居ない。ただし、今後もIT分野が半導体をけん引し続けるか、というとそうとも限らないと山地氏は指摘する。「例えばロボット。人手不足の解消のために、さまざまな分野で活用が進められつつある。半導体が進化すれば、より多くの分野で活用されるようになる。そうした新興アプリケーション市場が半導体市場をけん引する可能性は大いにある」と、IoTやロボティクスの発展が、新興市場を生み出す可能性につながることが期待されるとする。
また、あくまで個人的な見解としながらも、「国内のエレクトロニクスの需要がないと、(半導体の)供給を整えてもしかたがない。需要があるにも関わらず、供給ができないから、よそから買ってくるのと、その逆で供給はできるが、需要がないのであれば、需要がある方が良い。ロボティクスやAIは、今やNVIDIAが一強だが、これを国産の半導体チップに置き換えていけないか、という考え方がでてくれば、日本での半導体投資にも意味がでてくる。例えば、Rapidusは国策会社として2nm以降の先端半導体の製造を目指しているが、国が推進するということは日本の国民の税金が投じられることになる。作られる2nmの半導体チップが国民の生活に寄与するものとして機能していかないと、何のために事業をやっているのかわからないことになる。少子高齢化で労働力が不足していく日本において、さまざまなロボットが人の代わりに活躍するためにはセンサやプロセッサの進化が必要。センサはそれなりに日本の半導体メーカーも強いが、プロセッサは弱い。その弱い分野を補うために高性能品を国内メーカーが国内のファウンドリで作る、ということであれば、社会のインフラとして、そうした経済基盤を支えていくという意味で有意義になると思う。Rapidusに限らずだが、国が需要の側もしっかりと構築する支援をし、需要の喚起・育成もやっていくことで、初めて効果が出てくると思う」と、半導体は使うアプリケーションあってのことであることを強調。その観点から、単に製造できる工場だけを作るのでは産業の発展として不足であることを指摘していた。
かつて日本の半導体メーカーの多くが電機メーカーの一部門であった2000年代前半。当時、とある国内大手家電メーカーで半導体部門を率いていた副社長(当時)は、プロセスの微細化は、1チップ内に、それまでになかった機能を搭載できるようにする技術であり、それによって、もっと良い最終製品を市場に提供できるようになり、それが自社製品の強みになるといったことを強調していたことを筆者は記憶している。しかし、そうした思いとは裏腹に日本の電機メーカーは次々と半導体部門を切り離していった。そこから10年以上を経た現在の日本において、こうした半導体の性能を向上させることで、自社製品の付加価値を強化する、ということができている企業がどれほどいるのか。ハードウェアの優劣からソフトウェアの優劣へ、そしてハードとソフトを組み合わせたソリューション/サービスの優劣と時代の移り変わりとともに目に見える付加価値は変化してきたが、Googleしかり、Amazon Web Services(AWS)しかり、マイクロソフトしかり、自社で半導体を設計(製造は主にTSMCに委託)するというハードの優劣に再び付加価値を見出すところに戻ってきたのが近年の世界のビジネスの先端とも言えるだろう(Cerebras SystemsやSambaNovaなどもAI半導体からシステムまで提供するといった意味では、良い例といえる)。果たして、日本でもそういった先端半導体を活用することで、他社の追随を許さないソリューションを生み出すといった半導体の需要を喚起するための周辺環境の整備が進むのか、それは誰が行って行くのかという点も含め、今後も日本のエレクトロニクス産業が成長していくための必要な決断をする時期が来てるのかもしれない。