セイコーの歴史的名機とされる時計を、現代、そして未来の形へと「転生」させるデザイン展「power design project REBIRTH」(パワーデザインプロジェクト リバース)が開催される。期間は2022年12月21日~2023年2月19日。会場は東京のJR原宿駅近く「Seiko Seed」だ。ちょうど冬休み。しかも入場無料。ぜひ、実際に訪れてみてほしい。展示の一部を紹介しよう。

時計の本質を「デザインの視点」から解き明かす

今回の展示会をひと言で説明するなら「セイコーがかつて発売したモデルを出典として、それらの思想や技術、構造といったアイディアを現代的に、さらに未来的に置き換える実験」だ(全然ひと言じゃない)。

  • 会場の「Seiko Seed HARAJUKU」

  • プロダクトごとに、左側には元になったオリジナルモデル、右側には「転生後」のモデルをディスプレイ

その狙いは、ウオッチデザインの本質や可能性を探ることにある。……などと書くと理屈的で小難しそうだが、簡単にいえば、
「こんな時計があったら着けてみたい!」
「こんな時計、ありそうでなかったよね!」
「元の時計が、どういう発想でこんな風に生まれ変わるの?」
がたくさん詰まった展示会なのだ。

  • 転生後の展示物は実際に手に持って感触や重さ、質感を実感できる

今回のプロダクトは以下の7種類。

1. Radiant Time

キングセイコーをはじめ、セイコーウオッチの鏡面仕上げに使用される「ザラツ研磨」。その高度な技法を(常識を越えたレベルで)多用した時計とは……!

  • 右は1970年代のキングセイコー。左はザラツ研磨で使用するツール。会場では、作業シーンのビデオも見ることができる

  • ケースを複雑に多面カットしてザラツ研磨で仕上げた「やりすぎ試作」! ぜひ会場で実物を!

  • ケースだけではなく、針とインデックスはダイヤカットで仕上げた。ケースとベゼルのチリがピッタリ合っているところにも注目!

2. PUT ON TIME

本格的な深海潜水用のダイバーズウオッチのフォルムから、「服のボタン」をイメージ。サイズや着脱構造も含めファッショナブルに転生したギャップの大きさに注目だ。

  • 「セイコー プロスペックス マリーンマスター プロフェッショナル」、このダイバーズウオッチのフォルムが……

  • 一気にファッショナブルに! バングルスタイルで着けるもよし、バッグの取っ手から提げるもよしの自由なスタイルへ

  • フォーマルにも使えそうな雰囲気!

3. シカクロ

1971年に登場したスクエア型クロノグラフ。そのケース素材をカラーアルマイトやエコ素材にカスタマイズ。時代のニーズを汲み取り、現代風にアレンジ。

  • 1971年のクロノのグラフ。四角いクロノグラフだから「シカクロ」

  • 転生してググッとスポーティーに。元モデルの「お弁当箱のようなケース構造」を生かして、カバーケースの素材やカラーを変えイメージチェンジ。ペットボトルキャップを原料に使ったエコケースも

4. ADVENTURE KIDS Watch

本格派ダイバーズウオッチ「プロスペックス」をキッズウオッチに転生。オリジナルのフォルムをそのままに、愛情たっぷり「子どもたちのためのプロスペックス」に。

  • 特徴的な外胴を持つ「セイコー プロスペックス マリーンマスター プロフェッショナル」

ウレタンの外胴とバンドは一体成型で、水遊びや砂場でも安心。回転ベゼルにはマークがあり、時間が読めなくても「短い針がここに来るまでに帰って来てね」と約束に使えたりする。

  • こんなにかわいいキッズウオッチに転生! 特徴的な外胴も再現。思わず大人でも欲しくなる

ベゼルのマークはイエローモデルが肉、ピンクモデルがお花、ブルーモデルが星。秒針には恐竜(イエロー)、ちょうちょ(ピンク)、ロケット(ブルー)が付いており、ベゼルのマークに向かって進むことで、時計の針が右回りに回ることをユニークに教えている。

バンドもダイバーズウオッチの流儀に倣(なら)い、伸縮性のひだ状になっている。バックルや尾錠での着脱が難しい子どもたちにとって、腕をくぐらせるだけで着けられるというアイディアにも愛情が感じられる。何より、デザイン本来の機能を守りつつ拡張した発想がすばらしい。

  • マイナビニュース +Digitalの林編集長が着けてみたら……。意外に違和感がなかった

子どもたちはきっと、大人と同じデザインの時計を着けるうれしさを感じるだろうし、自然に腕時計を着ける子に育つだろう。実際にそうなるかどうかは別としても、私たち時計ファンは(もちろんセイコーとしても)そうなる未来を期待して幸せな気持ちになれる。この記事を読んでいただいている皆さんなら、わかってくれますよね!

機能と実用性、時計の哲学、そして夢や希望のバランスが取れた、非常に優れたアイディアだ。商品化が現実的な点も優れている。

5. Time Sonar 434 Feels

1976年式「セイコータイムソナー」のデイデイト構造を利用して、数字や曜日の代わりに英単語を配置。日付と同時に「あなたの気持ち」が切り替わる。434は、単語の組み合わせの数だ。

  • 1976年発売の「セイコー タイムソナー」。潜水艦のソナー(のレーダースクリーン)をデザインイメージとしており、ダイヤルからはデイデイトカレンダーのディスクが透けて見える

  • その機構を生かして数字と曜日を単語に置き換えた

  • 今日の気持ちは「You feel love」、Yes, of course!

6. TISSE our time

1984年に登場したレディースウオッチ「TISSE」を男性も身に着けるジェンダーレスモデルへと転生。発想が斬新!

  • 1984年に発売された「セイコー ティセ」。アクセサリー感覚でゆるめに着用するスタイルを提案した

  • ジェンダーレスに転生したモデル。担当デザイナーによれば「ウオッチヘッドとブレスレットのサイズ差を小さくすることでレディースウオッチ感を弱めた」とのこと

7. Ceramic Ball

1973年の液晶デジタルウオッチ「05LC」。そのレトロフューチャーな雰囲気を保ちつつ、ケースを丸ごとセラミックス製にして新しいデザインに。ミラネーゼのバンドも新設計。

  • 1973年に発売された液晶デジタルクォーツウオッチ「05LC」(左)と、転生後のモデル(右)

  • イメージを損なわずにデザインをアップデート、ケースは丸ごとセラミックス!

なお、どれもコンセプトモデルであり、商品化は完全に未定とのこと。だが、来場者の反応や要望次第では検討するとのことだ。

トップランナーであるセイコーの時計に対する未来像が伺える今回の展示会だが、ヘリテージモデルの実物を見られる意味でも大変貴重なチャンス。時計好きなら間違いなく、そうでない人でも興味を持って見ることができるに違いない。

  • 「皆さまのおこしをお待ちしています!」(セイコーウオッチ広報)