小型軽量ボディに高い撮影性能を備えたキヤノンのAPS-Cミラーレス「EOS R7」。センサーサイズに合わせて小型軽量設計のRF-Sレンズも登場し、「レンズを装着しても小さく軽い速写モデル」という点を売りにしています。しかし、EOS R7のレビューをお願いした落合カメラマンからの交換レンズの貸出リクエストは、なんと異色の超望遠レンズ「RF800mm F11 IS STM」。APS-Cミラーレスとフルサイズ対応の超望遠レンズの組み合わせ、どのような手応えだったのでしょうか?
キヤノン「EOS R7」を初めて使うとなったとき、真っ先に思い浮かべたのが「RF800mm F11 IS STM」を装着している同機を手に、抑えようもなくケツムズ状態に昇りつめている我が姿だった。「ケツムズ(ケツがムズムズする)」という心境表現が一般的ではないとするならば「ワクテカ」と言い換えてもいいだろう。え? 「ケツムズ」は聞いたことないし「ワクテカ」は古い? むむ・・・。
要するにですね、ヘソ曲がりを自認するワタシにとっちゃ、久々のワクワク案件だったということ。EOS Rとしては、「EOS R10」とともに“初のAPS-Cサイズセンサー搭載機”となるEOS R7に、「APS-Cサイズのセンサーならば、やっぱり・・・」とばかりに、比較的お手軽な超望遠レンズを装着して使っちゃおうという単純な発想に囚われるあたり、ワタシもまだまだクチバシが黄色いワケだけれど、ともあれフルサイズ対応の800mmレンズ装着時に得られる画角が1,280mm相当になると聞けば、一種のワクテカに陥るのも致し方のないところ。極めてフットワーク良く振り回せる“1,280mmコンビ”になってくれそうな「EOS R7+RF800mm F11 IS USM」なのだから。
RF800mmをAPS-CのEOS R7で使うメリット、デメリット
EOS R7のバッテリーとカードを含むボディ質量は約612g。そして、RF800mm F11 IS USMの質量は約1,260g。両者の合計、わずか1.9kgほどで手に入る1,280mm相当の画角。実際にこれを味わってみると、予想通りというかナンというか、とっても美味! ヒョイと苦もなくカメラ&レンズを構えファインダーを覗くと、肉眼の能力をはるかに超越する異次元の世界が視覚に飛び込んでくる。
しかも、EVFだから「開放F値、F11」という、フィルム時代には絶望的との見方をされかねなかったレンズの明るさ(いや「暗さ」というべきか)が致命的な壁として立ちはだかることもナシ。さらに、先達のEOS R5やEOS R6では約40%×60%(横×縦)の狭い範囲に限定されてしまう本レンズ使用時の測距可能範囲が、EOS R7では約60%×約80%に拡大されている(EOS R10も同様)。まぁ、これは「相対的な拡大」であり、いってみりゃ「APS-C効果」のようなものなのだけど、横方向が画角内の80%までカバーされるようになると、扱いやすさと気分がずいぶん違うことを実感。その点のみを抽出するカタチで、RF800mm F11 IS USMとの相性はR5やR6よりもEOS R7(R10)の方がはるかに上! との判断もなくはなさそうだ。
ただし、本件「特殊レンズゆえの制限事項」に関しては、EOS Rのフルサイズモデルでは着実に制限が緩くなりつつあり、例えばEOS R3とEOS R6 Mark IIでは、すでに横×縦それぞれ約80%をカバーするようになっている。つまり、現状「APS-Cセンサー機が有利」とは言い切れない状況だ。RF800mm F11 IS USM(兄弟レンズの600mm F11も一緒)に対して本当にフトコロが深いのは、やっぱりフルサイズ機。それが現実でもある。
そして、よっぽどの好条件が整わない限り「超高感度で撮られた写真ばかりになりがち」であることには相応の覚悟が必要だ。しかし、だからといってEOS R7とのコンビネーション、つまりEOS R7の超高感度画質に不満を覚えることはなかった。高感度時にはもうチョイ腰砕け感が見られるのかと思いきや、EOS R7はAPS-Cサイズの30MP超えとは思えない、非常に良好な高感度特性を有しているのだ。この点には、良い意味で予想を裏切られたように感じている。
レンズ内手ブレ補正機構の思わぬ振る舞いに苦戦
と、初っぱなはケツムズ・ワクテカな期待を裏切らぬスタートだった「1,280mmコンビ」なのだが、やはり世の中そんなに甘くはなく、すぐにシビアな現実を思い知ることになった。このコンビでマトモな写真を撮るのは、実はけっこうタイヘンなことだったのだ。
まず第一に、ピント精度への慎重なる配慮が必要だ。ごくごく僅かなピントのズレがレンズ自身の描写力に対する印象を不当に貶める可能性があるのだ。
それから、手ブレ補正の振る舞いが気になることもあった。手ブレ補正そのものは、非常によく効く素晴らしい仕上がりで、1,280mm相当のごく狭い画角であってもフレーミングを安定させることに支障を感じることはなかったのだけど、それは「静物」に対峙しているときの評価。動体を撮ろうとした場合には、話がちょっと違ってくる。
当然といえば当然だ。1,000mmを超えるレンズに相当する狭~い画角なのだから。しかし、問題の本質は狭すぎる画角ではなく、“よく効く”手ブレ補正にあった。手ブレ補正が足を引っ張ることがあるのだ。
具体的には、被写体の動きに合わせカメラを動かす撮り方・・・すなわち流し撮りに類する撮り方をしようとしたときにつまずくことが多い。いや、つまずくというよりは「引っかかる」だ。手ブレ補正の動作がカメラの動きに逆らう挙動を見せることが多いのである。そして、その傾向が他のレンズを使っているときよりも強い。
等速直線移動をしている動体を連写で追っているとき、被写体の動きに合わせカメラを振っているつもりなのに、撮影者の感覚(動作)とは裏腹に被写体がフレーム内から徐々に逃げていく・・・そんな感じの症状だ。「被写体がフレーム内から逃げる」原因は、断続的に襲ってくるわずかな引っかかりと、連写中のEVF表示のごくわずかな遅延の繰り返しが、自分の意識の中で徐々にズレを蓄積していくような感覚があるからのようにも感じられ、それを先読みする対応が必要になるのだが、画角の狭さも手伝いこれがけっこう難しい。
ボディとレンズの連携に特有の齟齬があるのか、あるいは単純に画角の狭さが本件挙動の影響をことさらに増幅しているってことなのかは判然としなかったけれど、とにかく動体を追いかけるのがタイヘンなコンビではある。でも、それだけに「使いこなす快感」はとてつもなくデカいというね。病みつきになるたぐいの面倒くささがジツにタマりません。いや、こりゃ困ったね(笑)。さて、後編はどうすべぇか…(ケツムズ!)。