欧米で「修理する権利」が重んじられるようになり、ユーザーが自分で内蔵バッテリーを交換できるオプションが増えてきた。しかし、スマートフォンやタブレット、ノートPCに用いられているリチウムイオン電池はエネルギー密度の高い蓄電池であり、破裂や発火の事故がニュースになることも。修理や交換の際に工具で誤ってバッテリーに亀裂を作ったらどうなるのか。デバイス修理情報や修理パーツ、ツールを提供する米iFixitが、リチウムイオン電池に工具を突き刺す実験動画「Everything You Need to Know About Exploding Batteries」を公開した。

充電式のリチウムイオン電池の発火は、電池に含まれるリチウムではなく、電解液に含まれる溶媒によって引き起こされる。電解液は安全に保護されているが、絶縁層が破壊されるような損傷によって局所的にショートし、そこを通り抜けようとする電流で加熱が起こる。そのホットスポットで周囲の電解液が気化し、揮発性の高い溶剤と混ざった炭酸ガスが発生。過熱によって引火点に達すると発火し、その熱でさらに電解液が気化して熱暴走と呼ばれる連鎖反応が起こる。

iFixitの実験では、スマートフォン用のバッテリーにプラスチックのツールを突き刺してもショートが起こらず発火しなかった。しかし、金属のツールだと同じように一箇所に突き刺すだけですぐに電池が膨れ上がって、煙とガスが噴き出して発火した。

熱暴走が始まると、それを止めるのは難しい。大量の水で洗い流すか、または電池が燃えつきるのを待つというのが一般的な対処法になる。消火は難しく、安全対策としては発火を未然に防ぐことが肝心になる。

最初の過熱は、電池に蓄えられた電気エネルギーがショートした部分を通り抜けようとして起こる。スマートフォン用の場合、バッテリー残量が25%以下に減っているとショートしても発熱や煙が出るぐらいで発火や熱暴走を防げる可能性が高い。修理・交換の際には、分解する前に25%以下に放電しておくことで危険な熱現象が発生するリスクを低減できる。

しかし、大型のタブレットやノートPCは大きな電池を複数内蔵しており、25%以下に放電しても発火に十分なエネルギーが蓄えられている可能性がある。そうしたデバイスでは、完全に放電してから作業する。ただし、0%まで放電しても、最近のデバイスは完全放電を防ぐために0%でも電気エネルギーが残されている場合があるので注意が必要。

作業中にバッテリーの熱を感じたら、発火しても安全な場所にデバイスを移し、バッテリーが完全に放電して冷たくなるまで待って適切に廃棄する。

iFixitは最後に、スマートフォン用の100倍の容量のリチウムイオン電池にネイルガンで釘を打ち込む実験を行っている。