楽天グループは11月11日、2022年12月期の第3四半期決算を発表しました。連結売上収益は前年同期比+15.8%の4,711億円。モバイル事業の投資が継続して営業損失は拡大していますが、モバイル事業の売上収益としては課金ユーザーの増加で通信料金収入が伸びているそうです。
オンラインで開催された決算発表会は、いきなりモバイル/楽天シンフォニーの状況・戦略について説明が行われました。これまでは冒頭に全体の決算ハイライトを紹介してから事業別の進捗を報告するというスタイルでしたから、力のいれようがうかがえます。
モバイル領域の戦略説明は、楽天モバイルのタレック・アミン代表取締役CEOが担当。楽天モバイル参入前の携帯電話料金の状況やこれまでの事業の歩みの振り返りからスタート。そして4つの注力領域について説明していきます。
プラチナバンド再割当では2024年3月からの使用開始を目指す
ひとつめの注力領域である「顧客体験の向上」については、カバレッジの拡大に向けた計画を話します。そのポイントは、楽天モバイルエリアの拡大、プラチナバンドの導入、ASTスペースモバイルとの協働の3つです。
楽天モバイルエリアの拡大については、この9月に5万局を突破した4G屋外基地局を2023年中に6万局超まで拡大し、4G人口カバー率99%以上を目指すという計画を明らかにしました。5G基地局の設置、屋内/地下鉄での繋がりやすさ向上も行っていきます。とくに東京23区内では現在3,334カ所の基地局があり、2023年6月ごろまでには約4,300カ所の基地局数となる予定だそうです。
プラチナバンド再割当については、11月8日に開示されたばかりの総務省報告案に言及。「移行期間は再割当から5年」「移行費用を既存キャリアが負担」という、楽天モバイルの主張に沿った報告書案となったことを受け、2024年3月からの使用開始を目指すというスケジュールを明らかにしました。プラチナバンドの設備投資については、既存の設備などを利用/再利用することで、低コストでの設置を目指すそうです。質疑応答でこの報告書の受け止めについての質問もありましたが、「大変うれしくおもっています」(アミン氏)と、満足感を見せていました。
ASTスペースモバイルとの連携については、衛星通信による100%カバレッジのために活用するとのこと。2024年以降の提供開始を想定しています。
2,588円というARPUを公表
ふたつめの注力領域として挙げられたのは「顧客基盤とARPU」です。現在、MNOとMVNOを合わせた総契約回線数は518万回線。11月に入って、Rakuten UN-LIMIT VIの終了に伴う移行期間が終了し契約数は純増に。解約もひと段落し、契約者数はRakuten UN-LIMIT VII発表の前のレベルまで回復しているとのこと。課金ユーザーは順調に増加しています。
そして今回の四半期決算発表にあたっては、現在のARPU(1ユーザーあたりの平均売上)が公表されました。2022年9月時点でのARPUは2,588円。このARPU上昇は5Gの拡大によって促進されているようです。また、Rakuten UN-LIMIT VIIの開始により、データ使用料も前年同期比で35%増加しており、これもARPU向上に寄与しました。
2023年の早い時点で、法人サービスの提供も予定。IoTサービスの本格商用利用も想定しています。
黒字化の時期は「2023年12月」
3番目の注力領域は「コストコントロールの徹底」。基地局数/人口カバー率が十分な水準に達したことで、自社ネットワーク整備のための投資が抑えられ、他キャリア回線の利用に伴うローミング費用も減少します。コストは大幅に削減され、黒字化を目指すステージに移るとしています。具体的な黒字化の目安としては、「2023年12月」を掲げました。
4つめの注力領域は楽天経済圏とのシナジーです。MNOユーザーは楽天の他サービスの利用率が高く、楽天市場に対しても買い物額を押し上げる効果があるというデータが示されました。
そして、「低価格・高品質」「顧客獲得力」「楽天エコシステム」の力でナンバーワン携帯キャリアを目指すという方針をあらためて示しました。
楽天シンフォニーについては、この1年の事業進捗を報告。設立後の5四半期で、累計31億ドルの受注、3億1,500万ドルの収益を計上しています。今後の5四半期に置いて、収益10億ドルを目標とするそうです。
モバイル事業の資金調達については丁寧に説明
なお、財務戦略についての報告の中で、とくにモバイル事業の資金ニーズとその調達について説明がありました。設備投資については主に借入金、営業キャッシュフローについてはエクイティファイナンスや保有アセットのマネタイズといった非有利子負債性資金――という調達方針と、モバイル事業の設備投資は今後減少していくとの見通しを示しました。
国内ECは巣ごもり消費後の顧客定着で好調
モバイル以外の事業セグメントでは、国内EC(楽天市場など)の流通総額が前年同期比+13.1%の13兆500億円、Non-GAAP営業利益が前年同期比+30.7%の257億8,100万円。コロナ禍の中での巣ごもり消費の拡大で増えた顧客の定着が要因のひとつと分析しています。楽天市場と他のECサービスの間のクロスユースも拡大しており、楽天西友ネットスーパーも専用物流センターの活用で高い成長率を実現しているといいます。
楽天カード/楽天銀行/楽天証券/楽天ペイメントなどのフィンテック領域については、楽天カードの累計発行枚数が2,700万枚を超え、楽天銀行の口座数が1,300万口座を突破するといったトピックを紹介。証券事業については、事業再編が予定どおり完了し、楽天証券ホールディングス株式会社の上場申請を目指す方針です。
楽天モバイルの人員削減は、レイオフではなくグループ内の人員異動
質疑応答では、楽天モバイルの人員削減についての報道についても聞かれました。アミンCEOからは「基地局設置などのインフラ整備のフェーズが終わり、リーンな経営に移るフェーズにあるので、これまで基地局設置などに従事していたスタッフにグループ内の他の業務に移っていただくということは考えます」と説明。三木谷会長からも「この3年くらい、未曽有のスピードで基地局の建設を進めてきました。成長分野はいっぱいありますので、そちらに移っていただく、あるいは戻っていただくということだと考えていただければ」と、あくまでレイオフではないグループ内の異動だという点を強調していました。