ソフトバンクは4日、2022年度第2四半期決算を発表しました。決算内容は今期も増収減益。発表を行った代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏は記者団に対し、楽天モバイルについて、通信障害時のローミングについて、人工衛星との直接通信について、1円スマホについてコメントしました。

  • 宮川潤一氏

    ソフトバンク株式会社 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの

増収減益の上期

2022年度上期の連結業績は、売上高が2兆8,086億円(前年同期比+3%)、営業利益が4,986億円(同-13%)、純利益が2,371億円(同-23%)でした。売上高は全セグメントで増収だったものの、営業利益についてはヤフー・LINE/法人/コンシューマにおいて減益となっています。

  • 連結業績

    2022年度第2四半期 連結業績

  • セグメント別営業利益

    営業利益(セグメント別)

なお2021年春に実施した通信料の値下げに伴う業績影響について、宮川社長は「2022年を底に大幅に縮小できる見込みです」と報告。ようやく“魔の3年”の終わりが見えてきた、と苦笑いしました。

  • 通信料値下げ後の業績推移

    通信料の値下げ影響もようやく収束へ

また2022年度 第1四半期決算(2022年8月4日実施)で発表していた通り、PayPayを2022年10月1日に連結子会社化し、新たに『金融事業』セグメントを新設。グループシナジーを活かし、金融事業のさらなる成長を目指していくとしました。

  • 金融事業セグメントの新設

    今期から、金融事業セグメントを新設した

  • PayPay決済回数/決済取扱高の推移

    PayPay登録ユーザーは5,121万人(前年同期比21%増)、決済回数は23.8億回(同43%増)、決済取扱高は3.5兆円(同43%増)、売上高(半期)は532億円(同129%増)へ

「楽天の気持ちは理解できる」

決算発表ののち、メディアからの質問に宮川社長が回答しました。

楽天モバイルが「プラチナバンド」(700~900MHz帯)の周波数の再割り当てを主張している件について聞かれると「まあ、個人的には、楽天さんの気持ちは非常に理解できます。我々もソフトバンクモバイルというキャリアを始めてから6年ぐらい『欲しい欲しい』と言い続けて、ようやくプラチナバンドをいただいた経緯がある。通信キャリアにとってプラチナバンドがある・なしで、随分と戦いかたも変わると認識しております。欲しいという気持ちは本当に分かります」と理解を示したうえで、以下のようにも続けます。

「ただ、我々の使ってる周波数を渡してほしいとなると、いま使っているお客さんをどうするのか、という問題もある。キャリア同士、通信事業を展開するもの同士、しっかり確認し合わなくてはいけないポイントがたくさんあります。いま、我々のほうではプラチナバンド900MHzは15MHz幅×2で上り下りを整備しており、すべてのお客様が使っている状態。その3分の1が減るということは、お客様が現在のようにデータを使えなくなることも予想されます。その辺、いくつか指摘させていただいております。仮に、その免許をお渡しするにしても、相当な準備期間がない限りは。明日、すぐ渡すってことは無理だという感覚です」。

そして、かつてソフトバンクがプラチナバンドをもらうまでに苦労した話として「私たちは2.1GHz帯という周波数を使ってまして、これは1.7GHz帯よりも直進性が高い。そこで当時、プラチナバンドのライセンスをいただくまでの6年間は、基地局を12万局も作りました。なんとか面カバーできるように、一生懸命やっていた時期があるんです。その12万局は、いまになってトラフィックがこれだけ増えた世の中になって、トラフィックをさばく能力を発揮している。あのとき苦労したぶん、いま活用できています。そこで容量無制限のサービスだとか、50GBのプランだとかを提供できている。あのとき苦労したおかげです。(楽天モバイルに対して)サポートできるものはしたいと思いますが、我々にも色んな事情があるということをご理解いただき、もう少し地に足をつけた形で、ゆっくり話し合えたら良いんじゃないかと思います」。

他社間でネットワークを融通

自然災害など非常時のローミングに関しては事業者間で議論も行われているようだが――と聞かれると「もちろん前向きに検討しております。やるべきですし、やる時期もできるだけ前倒しになるよう、積極的に議論しているつもりです」。

現在の環境では実現が難しいとされている、警察や消防などからの“呼び返し”問題については「最初からできるようにするのがイチバンのベストだとは思いますが、それをやるための仕組み作りには時間がかかるとも思います。たとえば発番通知(発信者番号通知)は4キャリアともできる構造にありますので、発番通知を受けた消防署などが、その発番をノートに取れば呼び返しもできるわけです。システムを作り込もうとすると相当な時間かかりそうですから、まずはやれる方法で工夫したら良いのでは。そのクオリティを国として良しとするか否かは、また議論だと思います。私たちも、できる限りのことはしていきたいと思っています」。

ちなみに非常時にローミングを利用するために有効なデュアルSIMに対応したスマートフォンについても「大手通信キャリア4社で、できるだけ単価もおさえながら皆さんに提供できるような話をしていければと思っています」と話しました。

災害については、以下のような話も。「私がCTOだった頃に大震災が起こったわけですが、震災後にネットワークの障害に対するクオリティを上げるために、色んなことをしました。したがって私どものネットワークには特徴があります。たとえば音声が繋がらなくなったときでもデータは別分離してあり、データとSMS(メール)も別分離して通信を担保しているんです。ということで、データと音声がもし潰れてしまっても、せめてメールだけでも飛ぶようにしようとか、そういう工夫がしてあります。いま全キャリアで、どこまでお互いにできていたか一緒になって話し合って、さらにクオリティを高めていくということが必要なんじゃないかと感じています」。

大手キャリアが通信障害を起こしたとき、他のキャリアが連携してネットワークを融通できる取り組みについて聞かれると「KDDIの高橋誠社長から、直接、お話をいただきました。いま色んな議論をしておりまして、現場同士でも技術的な話し合いが始まっています。まだ、どういう方法でという答えは出ていませんが、できるだけ早急にやってくれということで私からも社内にお願いしている次第です。これについては実現される方向にあると思います」。もっとも、この場合もデュアルSIMの設定ができる端末を使用することが条件になるそう。

宮川社長は、大規模障害のときでも繋がる仕組みを作っていきたい、として次のように続けます。「メールが送れない、という従来のコミュニケーションサービス以外にも、決済の認証が取れない、電車に乗れない、チケットが発券できない、といったケースでもかなり多くの皆さんにご迷惑をかけてしまうことが予想されます。そこで最低限の通信スピードで良いと思うんです、200~300Kbpsぐらいの通信で最低限のことがやれるような。今後、中・長期的な話し合いが必要かなと感じております」。

HAPSの進捗は?

他社が進めているスマートフォンと人工衛星が直接通信する技術について、またソフトバンクが進めているHAPS(ハップス)モバイルの進捗について聞かれると「モバイル端末と人工衛星の直接通信については、周波数の問題をのぞけば物性的に不可能ではないと思います。ただ、端末から衛星に上がる通信を上り、衛星から落ちてくる通信を下りとすると、下りのリンクは意外と立ちやすいものの、上りは端末側の出力に制限があるので、距離の遠い人工衛星と双方向に通信するのはなかなか難しいだろうと思っています。実際、私も10年ぐらい前にアメリカでいくつかの実験をしてみましたが、下りは何とかなっても上りがなかなか難しかった。やはり、できるだけ近くに寄る必要がある。そこでHAPSを検討し、環境を作ってまいりました。実際に通信試験をやってみると、地上よりも見通しが良いぶん、非常にクオリティの高い通信ができた。いずれはHAPSを商品化したいという気持ちがあります」。

ただ、乗り越えるべき課題も多いとのこと。たとえばHAPSモバイルのニーズが高いのは発展途上国であるため、日本での通信料金よりさらに安く提供しなくてはいけないこと、またソーラーパネルの値段が今のままではコストに合わないこと、そしてプロペラの効率も上げないとフライト時間がもたないこと、さらにバッテリーを強めないと夜間に蓄電力が足りなくなること、などを挙げていきます。「ただ、いずれも解決できない課題ではないという風に思ってますので、その辺の基礎テクノロジーを、いま見直しているところです。HAPSを諦めるつもりはありません。短期的には、いまOneWeb(ワンウェブ)のほうも上空に浮かび始めたので、まずはこれを来年度中に全部仕上げ、サービスにしていこうと考えております」。

1円スマホ問題

オンライン専用プランLINEMOの進捗については「少しずつ、ユーザーが純増しております。ただそこにウェイトを置いて、利用者を増やすことを目的としてやっているわけではありません。オンラインだけで完結するユーザーさんは、それはそれで私たちにとってもありがたいお客さんなので、扉を開いたカタチで、入ってくださる人には『どうぞ』という気持ちでやっておりますが、これまでフィーチャーフォンを使ってきたけれどスマホにしたい、でもやりかたが実はあまりよく分からない、という方々にはワイモバイルのショップ窓口で丁寧に説明しながら、スマホに親しんでいただくことにも注力しております。ショップを中心に、ワイモバイル/ソフトバンクのユーザーも純増を目指していきます」。

  • スマートフォン累計契約数の推移

    スマートフォン累計契約数は2,832万に

代理店などによる「一括1円」をうたった販売方法について公正取引委員会が調査に乗り出した件について認識を問われると「いわゆる転売屋さんの問題だと認識しております。各キャリアが端末を安く販売していった結果、1円の端末が生まれてしまった。こういうことは社会現象として良くないな、という風に認識しております。是正させていただきます。その中でも、1社が単体でやろうと思ってもなかなか難しいところがありますので、いま社会的に下限値を設けようと言われる方向については賛同です。ただ1点だけ、二の足を踏んでいた部分は、国内の5Gの普及が遅れていること。せめて端末で魅力を出すことで、4Gから5G端末に乗り移る率をもうちょっと上げたいな、という気持ちもありました」と説明しました。